今回ご紹介するのは、就労継続支援B型事業所「コミック・カウンシル」(大阪・泉南市)の とき かえでさん の作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……とき かえでさん

みんなに作品をみてもらうために描いています。
イライラしていたり、何も考えていなかったり、楽しかったり
色んなことを考えていて、色んな感情がたっぷり詰まっています。
作品を通じてお友達ができたらいいな。
作品をみてくれた色んな人とお話ししたいです。

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

ときかえで
《よるにきんぎょ》

2023年12月に開催した「about me 7~“わたし”を知って~非言語のモノローグ」という展覧会でキュレーターをつとめた。出展作品のリサーチで訪れた泉南市の福祉事業所コミック・カウンシルで、初めて見た、ときかえでの作品に「これだ!」と直感した。
0.5mmのジェルインクボールペンで描かれた絵は、限りなく繊細でありながら同時にある種の大胆さが同居している。おどろくほど綿密だが息苦しくはなく自由でポップ、画面の余白がなにか語りかけてくるような不思議な感覚だ。

一個一個描いていく小さい“〇”。それが繋がって網の目になり、どんどん連なって編み地や織物のような密度を持ち、うねりのある大きなフォルムをつくっていく。サイズは違うが草間彌生の初期の《無限の網》を彷彿とさせる。
色彩は基本6色。その日の気分で使いたい色が変わるので、いつも数枚の絵を同時並行で描く。四つ切り画用紙の作品を描き上げるのにひと月ほど。インスピレーションで「これでいい」と感じた時が終わりなのだそう。どこか唐突感のある余白の美しさは印象深く心惹かれる。

《よるにきんぎょ》はレッド、グレー、ブラックの色彩がまず目に飛び込む。ホライゾンラインに置かれた稜線が山々の重なる風景のようにもまた地層の重なりのようにも見えてくる。規則的で不規則な“○”の繰り返し、その集積がゆらぎを生み出し、一見地味な色彩が心地よい。いつもは描き終わってから浮かんできたイメージでタイトルを付けるが、この絵は絵を描いている途中で物語が浮かんできたそうだ。「しらじらとした夜明けに遠くの空に逃げていく金魚のしっぽ。金魚は世界中を旅する。人間には見えない、動物と植物にしか見えない金魚―」。そんな話を聞いて絵を見るとまた想像力が膨らむ。音のない世界の音を聴くように、見えないものを直感と想像力によって見えるようにすること。
「芸術とは見たものを表現するのではなく、見えないものを見えるようにすることである」という画家パウル・クレーの言葉が浮かんでくる。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


これまでのHEARTS & ARTSは、こちらのページでご覧いただけます。

関連リンク

  • Twitterでシェア
  • LINEでシェア
ページトップへ