今回ご紹介するのは、渡邊 義紘さんです。
キュレーターは小林 瑞恵さん(社会福祉法人愛成会 アートディレクター、キュレーター)です。

作者紹介……渡邊 義紘(わたなべ・よしひろ)

キュレーターより 《小林 瑞恵さん》

渡邊 義紘 WATANABE Yoshihiro
1989年生まれ

落ちた葉っぱを折り紙のように折って動物をつくる。
「落ち葉(茶褐色になった)は、くだけやすく、もろい」という固定観念が日常の中の体験から多くの人が共有するイメージであろうが、すべての落ち葉がそうであるとは限らないという可能性を考えてみたことはあるだろうか。
渡邊の作品をはじめて見たとき、固定観念のないその想像力と発想力の豊かさに驚嘆したのをよく覚えている。

渡邊が創作する「折り葉®」と名付けられた作品の発想と創造は、類を見ない。「折り紙」という日本文化と、木から落ちた「葉っぱ」という日常の風景の中によくあるものとを組み合わせて、誰もが想像しなかった創作を行った。

毎年、クヌギの葉が落葉する11月頃、渡邊はその葉を拾い、様々な動物を立体的に折り出していく。時折、「はぁぁぁ」と息を吹きかけ、葉を湿らせながら、逡巡する様子もなく、一体15分程で、2~3cmくらいの動物があっという間につくられていく。落ち葉は脆く壊れやすいものがほとんどであるが、クヌギの葉はとても丈夫で、湿気を含むと逆に膨張するのだそうだ。保管されているもっとも古い作品は、22年前のもの。渡邊が中学1年生の秋にクヌギの葉と出会い、初めて折った作品は朽ちることなく、今もその姿を留めている。

また渡邊は、「折り葉®」の他に切り絵などの紙を使った創作も行っている。切り絵の創作では、下絵の一切ない紙にハサミを入れ、生き物の輪郭や毛並み、筋肉などの質感を糸のような細さで切り抜いていく。驚くことには、完成した作品は一つの紙でつながった状態が保たれていることである。また、紙から生きものの輪郭だけを切り抜き、切り抜いた紙から、立体的に生き物を折りだすという創作も行っている。

柔軟な創造力で素材がもちうる可能性を活かした渡邊の創作は、固定観念こそ人間の創造性をはばむ一つであることに改めて気づかされる。


プロフィール

小林 瑞恵(こばやし・みずえ)
社会福祉法人愛成会 アートディレクター、キュレーター。アール・ブリュット関連の展覧会をフランスやイギリス、オランダ等の海外や日本国内にて数多く手がける。2004年に障害の有無、年齢などに関わらず誰でも参加できる創作活動の場 「アトリエpangaea」(東京都)を立ち上げる。近年はアートや音楽、ダンスも入れたインクルーシブなワークショップを企画、開催している。2010年から東京・中野区で毎年開催されている「NAKANO街中まるごと美術館」の立ち上げから、現在も企画・運営等に携わる。


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