ヒル・ブロックホイスとモニーク・ムーンズ HEARTS & ARTS VOL.125
公開日:2025年8月18日

今回ご紹介するのは、ベルギー在住のヒル・ブロックホイスさんとモニーク・ムーンズさんの作品です。
キュレーターは小林 瑞恵さん(社会福祉法人愛成会 理事長、アートディレクター、キュレーター)です。
キュレーターより 《小林 瑞恵さん》
2019年、ベルギーから一通のメールが届いた。
「日本とベルギーで、アール・ブリュットを通じた交流展を開催したい」―そんな提案だった。
差出人は、ベルギー・ヘール市にあるクンストハウス・イエロー・アート。
クンストハウス・イエロー・アートは、精神疾患を抱える約30名のアーティストたちが日々創作に取り組むアートスタジオである。絵画や陶芸のワークショップを行い、ベルギー国内外で展覧会やコラボレーション企画も積極的に展開している。スタジオがあるヘール市は、精神疾患のある人々を一般家庭で受け入れるという伝統を700年以上にわたり守り続けてきた町であり、その共生の文化は、2023年にユネスコの無形文化遺産に登録されるに至った。まさに“共に生きる”社会のモデルとして、今、世界から注目を集めている場所だ。
メールが届き、展覧会開催の可能性を模索するための対話が始まってしばらくした頃、世界は新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた。未曾有のロックダウンが起こり、国境を越えた交流展は、まるで遠い夢のように思える日々が続いた。
それでも、ベルギーとの対話は続いた。
言語や文化が違っても、どんなに距離が離れていても、人と人は心で通じ合える、そんなふうに感じた。
そして、その願いは少しずつ、確かな形になっていった。
2024年、ベルギーのギスラン博士博物館にて展覧会が実現。
続く2025年には、日本・東京で街全体を美術館に見立てたアートイベント「NAKANO 街中まるごと美術館!」などの取り組みの中で、国際交流展が開催された。
この展覧会が実現したのは、何よりも「希望」を持ち続けた人々の力によるものだと思う。
まったく知らなかった異国の人から届いた一通のメールがきっかけとなり、多くの人の想いが折り重なって、ようやくたどり着いた景色だった。
今年2月の日本開催には、ベルギーから出展作家のうち2名のアーティストが来日した。
前置きが長くなってしまったが、ここで、その2人のアーティストを紹介したい。
(尚、紹介文は、クンストハウス・イエロー・アートより提供された内容を、日本語に訳し、要約したものである。)
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ヒル・ブロックホイス (Hil Blockhuys)
ヒル・ブロックホイスは木炭画から制作を始め、次第にリノカットなどの版画技法へと展開した。強いコントラスト表現やシリーズ制作に適したグラフィック技法を楽しみ、直感的かつ繊細な表現を追求している。印象的な光の描写や静謐な風景、遠近法によって自身の立ち位置を伝える構成が特徴であり、鳥のような俯瞰的視点への関心も持つ。近年は布への刷りに取り組み、色、圧力、位置の重なりで夢のような風景を表現している。作品は年月とともに、思い出や映画的な具象表現から、より抽象的で図案的なものへと変化している。
モニーク・ムーンズ (Monique Moons)
モニーク・ムーンズは、彩色画と線画を融合させた独自の表現を追求し、混沌からインスピレーションを得て直感的に制作する。色彩と線による構成は、観る者に深い観察と考察を促す。環境の影響を受けながら制作し、広い空間では作品も大きくなる。今作は近作だが、彼女の創作の指針となる作品である。ストライプやドットを描くことが精神的な支えにもなっている。アクリルやスプレー絵の具を使い、衝動的で表現力豊かな作品を生む。スピード感や偶然性を大切にし、実験的な姿勢で多様な素材を用いる。ここで紹介するシリーズではマスカラも使用しており、常に新しい挑戦を楽しんでいる。
人と人、国と国を越えて、アートが心をつなぐ。
この国際交流展は、その静かで力強い証である。
これからも、アートがもつ可能性と、つながりの力を信じていたい。
プロフィール
小林 瑞恵(こばやし・みずえ)
社会福祉法人愛成会 理事長、アートディレクター、キュレーター。アール・ブリュット関連の展覧会をフランスやイギリス、オランダ等の海外や日本国内にて数多く手がける。2004年に障害の有無、年齢などに関わらず誰でも参加できる創作活動の場 「アトリエpangaea」(東京都)を立ち上げる。近年はアートや音楽、ダンスも入れたインクルーシブなワークショップを企画、開催している。2010年から東京・中野区で毎年開催されている「NAKANO街中まるごと美術館」の立ち上げから、現在も企画・運営等に携わる。
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