今回ご紹介するのは、「アール・ド・ヴィーヴル」(神奈川・小田原市)のケリー幸太(ケリー・こうた)さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……ケリー幸太さん

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

ケリー幸太
《colors》

ケリー幸太とは出会ってからもう11年になる。ダウン症児の親の会が始めた「ひよこあーとぷろじぇくと」のアートワークショップに彼も参加していたのだ。特に絵が好きというわけではなかったらしいが、その頃からすでに、現在につながる絵画表現をずっと繰り返していた。

今回紹介する《colors》はキャンバスに描かれた作品。深みのある紫色にエメラルドグリーンが重なって、暖色と寒色が絶妙なバランスで響き合う。ケリーの表現はいわゆる遠近法的な空間はないが、それとは別の色彩を伴った独特の絵画空間がある。縦と横のタッチを基本構造として、そこから逸脱したり遊んだりしながら画面が成立している。茫洋とした世界だがタッチや色彩のなかには確かな意志とイメージの片鱗が感じられる。なにかを掴めそうで掴めない、見えそうで見えない隠されたイメージ。眺めていると自分自身の内的な風景を見ているような気持ちになる。ゆったりとして穏やかなアンビエント(ambient)=環境としての絵画。ケリーの作品は企業内のオフィス家具や内装インテリアのデザインにも採用されている。

作品はケリーが通う施設「アール・ド・ヴィーヴル」で制作している。午前中はクレヨンで縦線(横線のときもある)を描き、それから間に色を塗っていくのがルーティン。午後はキャンバスや画用紙にアクリル絵の具や水彩で描く。筆圧が強いので、紙では同じところを繰り返し描いているうちに、すり減って繊維が剥けてくることもある。強度のあるキャンバスがケリーの特性には適している。筆や色の組み合わせも自分で選んで決め、だいたい一枚を6時間くらいで仕上げていく。大きいサイズの絵を描く時はことさらうれしそうな様子で、ニコニコ微笑みながら描いている。

ケリーは子どもの頃、陽だまりを探しては部屋の中を移動していたという。明るい場所を好んだ彼は、光を浴びながら光のスペクトルの中に色彩を感じていたかもしれない。彼の作品の滲んだ色彩の中から透過してくる光の存在。それがどこから来るのか聞いてみたい気がする。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。

中津川さんがプログラムディレクターを務める「第25回静岡県障害者芸術祭(東部会場)」が開催されます。
障害当事者が創作した文化芸術作品の展示や、中津川さんがファシリテーターとなって進める「誰でもアートを楽しめるワークショップ」などがあります。詳しいことは、「第25回静岡県障害者芸術祭」のホームページ(NHK HEARTSのページを離れます)でご確認ください。


第25回静岡県障害者芸術祭
会期:1月24日(水)~28(日) 10:00~17:00(最終日は14:00まで)
会場:富士ロゼシアター(〒416-0953  静岡県富士市蓼原町1750)


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