伊藤 広哲「ショールーム」シリーズ HEARTS & ARTS VOL.119
公開日:2025年5月27日

今回ご紹介するのは、伊藤 広哲(いとう・ひろあき)さんの作品です。
キュレーターは小林 瑞恵さん(社会福祉法人愛成会 アートディレクター、キュレーター)です。
キュレーターより 《小林 瑞恵さん》
伊藤 広哲 ITO Hiroaki
1977年生まれ
伊藤は2歳の頃、母親が描く絵や工作をじっと眺めながら過ごしていました。半年ほど経ったある朝、母が目を覚ますと、彼はすでに机に向かい、絵を描いていたそうです。こうして、伊藤にとって絵を描く日常が始まりました。
彼の作品には、人に「見せる作品」と「見せない作品」があります。ここに掲載しているのは、「見せる作品」の一部です。作品『無題』では、モノクロで描かれた建物の俯瞰図が、緻密な線によって表現されています。よく見ると、その建物の屋上に、薄いピンク色の物体が置かれているのがわかります。洗濯機です。
伊藤は、家具や家電製品、とりわけ水回りに強い関心を持っています。母親によると、家電量販店やデパートの家具売り場に行くと、その場からなかなか離れようとしないそうです。生活家電や水回りに対する強い関心や愛着が、伊藤の描写にユニークな魅力を与え、現代の生活様式をどこかコミカルに映し出しています。
水彩で彩色されたカラー作品『ショールーム』シリーズでは、テレビ、洗濯機、電子レンジといった家電製品や、トイレ・お風呂・台所などの水回りの空間が1枚の紙にまとめて描かれています。
制作はすべて自宅で行っており、新作に取り組む一方で、過去の作品に手を加えることもあります。また、人に見せない作品も多く制作しており、彼の表現には、自己の内にとどめておくものと、他者と共有するもの、その両方の繊細で豊かな世界が静かに息づいています。
プロフィール
小林 瑞恵(こばやし・みずえ)
社会福祉法人愛成会 アートディレクター、キュレーター。アール・ブリュット関連の展覧会をフランスやイギリス、オランダ等の海外や日本国内にて数多く手がける。2004年に障害の有無、年齢などに関わらず誰でも参加できる創作活動の場 「アトリエpangaea」(東京都)を立ち上げる。近年はアートや音楽、ダンスも入れたインクルーシブなワークショップを企画、開催している。2010年から東京・中野区で毎年開催されている「NAKANO街中まるごと美術館」の立ち上げから、現在も企画・運営等に携わる。
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