自由を纏(まと)い、楽しむ。 「多夢多夢中山工房」の作家たちによるトワル作品 HEARTS & ARTS VOL.81
公開日:2023年11月16日
今回ご紹介するのは、福祉事業所「多夢多夢舎中山工房」(宮城・仙台市)の皆さんの作品です。
キュレーターは、福祉実験カンパニー・ヘラルボニーの松田 文登さんです。
キュレーターより 《松田 文登さん》
一見、アートがプリントアウトされた洋服のように見えるが、生地に触れると、絵の具の乾きや凹凸、切り貼りされたコラージュの質感を確かに感じる。その時ようやく、私たちが普段身にまとう量産的な「洋服」ではなく、生地をカンヴァスにして描かれた「アート作品」であることを実感する。
これらは、宮城県仙台市にある福祉施設「多夢多夢舎中山工房」に在籍するメンバー18人と、写真家・美術家の中村 紋子氏、トワル再利用プロジェクトの松田 真吾氏が共同ではじめた新しい服づくりのプロジェクト、「タムタムと、めぐるトワル」で生み出された作品だ。今年の春、ヘラルボニーが岩手県盛岡市に拠を構える常設のアートギャラリー「HARALBONY GALLERY」では、実際に観て、触って、まとってトワルを自由に楽しめる企画展を開催した。(2023年4月29日〜5月27日※現在は終了)
「トワル」とは、洋服をつくるときにデザインやサイズを確認するためにつくるサンプルの服のこと。役割が終わったら捨てられてしまうトワルを、多夢多夢舎のメンバーがキャンバス代わりにすることで「タムタムと、めぐるトワル」は始まった。
HARALBONY GALLERYに集結した、作家それぞれの個性あふれる約40着ものトワル。
描いて、塗って、貼って、まとって。自由な服づくりから生まれた作品たちは、唯一無二の輝きを放つ。
「価値がないもの」として捨てられるはずだった生地が、異彩作家の手によって「価値あるもの」として生まれ変わる。
多夢多夢のトワルたちが、巡り巡って多くの人びと元へと羽ばたき、ささやかな日常をやさしく彩ることを願っている。
作家プロフィール
郁美(Ikumi)
たくさんの人とコラボするのが好きで、ダンス、朗読、コラージュなどを行う。2015年、素材としてのトワル(服)に出会う。2016年5月よりトワル作品「雨」に取り組んで以来毎日、フェルトを丸い形に切り、トワルに貼ることを続けている。ワークショップに出向いた際に、道を間違えたスタッフにツッコミを入れるのは彼女の役目。好きな武将は「多すぎて選べない」。趣味は読書(歴史関係)。
工藤 生(Ikuru Kudo)
2015年から、アクリル絵の具を使って大好きな電車の絵を描き始める。普段の作業の休憩時間中にも時刻表や電車の雑誌を開いて、次に描きたい電車の写真を眺めている。電車の他にアイドル、ガンダム、楽天ゴールデンイーグルスが好きで、自分の描いた絵を人に見せるのも好き。トワル制作では、貼り絵でもアクリル絵の具でも新たな表現を生み出した。トワルのプロジェクトを通して、本当にたくさんの人に出会った。
竹内 聖太郎(Shotaro Takeuchi)
いつも一番乗りで、多夢多夢舎の一日は、彼のあいさつから始まる。多夢多夢舎の自舎ブランド「tam tam dot」の制作では小さな丸を並べるだけだったが、トワル制作を始めてから、服全体を観て余白を生かすようになった。絵の具、クレヨン、鉛筆を駆使して、デザイン性の高いトワルを仕上げている。一度会った人の名前は(たまにしか)忘れない。
片寄 大介(Daisuke Katayose)
10歳の頃、絵画教室に通い始めたことをきっかけに、絵に興味を持つ。多夢多夢舎では、描線した作品をポーチやペンケースの製品としている。初期の作品は、色を塗り重ねた抽象的な形の中にアルファベット・数字などが描かれることが特徴。2014年頃からはキャンバスにアクリル絵の具での制作が主体となる。現在は船、月、トトロなどをモチーフに、多くの作品を描いている。トワル制作では、全面に絵の具を塗った混色の作品や、キャンバスと同じモチーフの作品を描いている。好きな乗り物はブランコ。
渡邊 昌貴(Masaki Watanabe)
双子の弟。好きなダンスをずっと続けている。それまで絵筆を取ることは少なかったが、トワル制作を始めてからはペンで描くことが多くなった。始めた頃は太いペンで大きな波のような線を描いていたが、最近は兄に触発されてか、小さな四角を描き連ねている。しっかり者で面倒見が良い。作品が描き上がる度に「これは○○(女性スタッフの名前)にあげようかな」と語る伊達男。
渡邊 直貴(Naoki Watanabe)
双子の兄。好きなダンスをずっと続けている。トワルに絵を描くことを通して、「細かい四角や模様で埋め尽くす」という、大好きな表現に出会った。一日中トワル制作を続けることも多い。また読書好きで、文庫本に鉛筆でルビをふることを続けている。ワークショップをとても楽しみにしているが、ふと気づくと女性の隣で描いているので油断ならない。
プロフィール
松田 文登(まつだ・ふみと)
株式会社ヘラルボニー代表取締役副社長。チーフ・オペレーティング・オフィサー。大手ゼネコンで被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共に、へラルボニー設立。自社事業の実行計画及び営業を統括するヘラルボニーのマネージメント担当。岩手在住。双子の兄。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。日本オープンイノベーション大賞「環境大臣賞」受賞。
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