佐藤 玲奈「世界のどうぶつ」 HEARTS & ARTS VOL.138
公開日:2026年2月12日

今回ご紹介するのは、「アール・ド・ヴィーブル」(神奈川・小田原市)の佐藤 玲奈さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。
作者紹介……佐藤 玲奈(さとう れな)
キュレーターより 《中津川 浩章さん》
佐藤玲奈「世界のどうぶつ」
佐藤玲奈が通う福祉施設アール・ド・ヴィーヴルがあるのは神奈川県小田原市。筆者のホームタウンということもあって、佐藤の制作現場や表現の変遷をずっと見てきた。
佐藤はかなり考えて描くタイプだ。障害がある表現者の多くは作品を組み立てるというよりも感覚的に表出するタイプが多いが、佐藤はそうではない。彼女なりに計算された画面づくりをしている。描きたいモチーフをどうやって表現するか。どんな支持体にしてどんな画材を使うのか。キャンバスか紙か。アクリル絵の具か水彩か。ペン、マッキー、ポスカ、鉛筆。カラフルな色彩かモノクロームか。濃く描きたければクレヨン、薄くしたいときは色鉛筆。筆を使わずに指で描いたり、作品によっていろいろな技法を意識的に使い分けてきた。
具体的モチーフの作品もあれば抽象的な作品もある。なんでも描いてこだわりがないように見えるが、それでも動物と海の生物だけは特別なのだろう。生き物たちへの深い共感、関心が伝わってくる。
そんな佐藤の最新作が「世界のどうぶつ」だ。デフォルメされた形態と明るい色彩。ユーモラスで愛嬌がある動物たち。児童画のような率直さがある。
かつて、佐藤の絵にはものの形を縁取る黒の輪郭線があった。形の境界を強く分けていた輪郭線は、囲まれた色彩のニュアンスを奪い塗り絵のようになってしまっていた。だがおもしろいことに、描き続けていくうちにこの強いこだわりは少しずつ軽減されていった。しだいに輪郭線が目立たなくなり,自然な描線があらわれるようになった。「世界のどうぶつ」のようにまったく輪郭線がない作品も生まれた。どうして輪郭線を描かなくなったのかと尋ねると、彼女曰く「最近になってやっと筆圧をコントロールできるようになった。強弱のニュアンスが出せるようになって、それで輪郭線が消えてきた。小学生の頃は筆圧が強すぎて色鉛筆がバキバキ折れてしまった」と。筆圧とあの輪郭線がつながっていたとは意外だったがなるほど、腑に落ちた。
佐藤は知的障害の特性がある。聴覚過敏のためいつもイヤーマフで音を遮断して制作する。発語ができなくなるとタブレットで筆談することもある。生きづらさと孤独と表現、その中で生きるということ。佐藤が描くモチーフは、たとえばリース作品交換の仕事で東京や横浜へ行った時の街の風景。外を歩いている時に目にした鳥の姿。日々の暮らしの中に見つけたイメージをクロッキーノートに描きとめるのが習慣だ。作品の原型をおさめたノートは3冊になった。「自分の絵を見て楽しんでほしい。作品が売れることもうれしいけれど、より多くの人たちに見てもらえるデザインに使ってもらう方がもっとうれしい」そう語る。
障害福祉サービス事業所「アール・ド・ヴィーヴル」で活動する仲間たちの作品を小田原三の丸ホールでご覧いただける展覧会が開催されます。
また、3月13日には、Heart&Artsキュレーターの中津川浩章さんと小説家の田口ランディさんなどのトークセッションなどもあります。
詳しいことは、アール・ド・ヴィーブルのHPからご確認ください。(NHK HEARTSのサイトを離れます)
アール・ド・ヴィーヴル展「響きあうアート」
会期:2026年3月7日(土)~15日(日) AM9:00~PM9:00
会場::小田原三の丸ホール 1F展示室/ギャラリー回廊1F・2F(神奈川県小田原市本町1丁目7-50)
アクセス:小田原駅 東口から徒歩約13分/伊豆箱根バス・箱根登山バス「市民会館前」より徒歩3分 ※アクセス(NHK HEARTSのサイトを離れます)
プロフィール
中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)
記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。
これまでのHEARTS & ARTSは、こちらのページでご覧いただけます。

創作活動に取り組む佐藤玲奈さん
佐藤玲奈さん
「カラフルフィッシュ」
「くじゃく」
「オカピ」
「世界のどうぶつ」
「想像の街」
「海の生きもの」
「ワラビー」
チラシ(表)
チラシ(裏)
