今回ご紹介するのは、障がい者支援施設「スマイル」(愛媛・松山市)の藤岡 友美(ふじおか・ともみ)さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……藤岡 友美さん

2013年より障がい者支援施設スマイルに通い、日中活動の一環で折り鶴を折るようになりました。折り鶴はいつの間にかカラフルな紙を適当な大きさにちぎって折られたもの(当時“おつるさん”と呼ばれていた)になり、これまで色々なものに“おつるさん”が施されてきました。
2015年頃からは“おつるさん”を貼って着用できるものにしたい、とスカートやドレスを作るようになりました。そこから自分の結婚式に向けたドレスやケーキなどの結婚式グッズに発展し、今も着々と増え続けています。毎日何時間もひたすら折って貼る工程を繰り返す藤岡さん。折っている時は「愛」とか「恋」とかそんな気持ちになるのだそうです。(スマイル・田村 恵理)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

藤岡 友美
《ロールケーキ》

2021年の秋、愛媛県立美術館の展示室では障害者アート公募展の審査会がおこなわれていた。応募作品の中に藤岡友美の《ロールケーキ》があった。「なんだ、これは?」長さ1メートル太さ40センチほどもある、まるで巨大なのり巻きのような物体。紙や布をボンドで貼り付け巻き込んである。カラフルにデコレーションされた巻物。それが何本も無造作に積んである。異様な迫力だった。

それからしばらくして、藤岡が所属する松山市の「スマイル」を訪ねた。ヘッドギアを着けた藤岡は、色とりどりのフラワーペーパー(スタッフが4cm角にカット)を黙々と布に貼り付けていた。

《ロールケーキ》は自分の結婚式の引き出物に使うために制作しているのだという。招待客は200名。大きいサイズのロールケーキ20個がすでに完成していて、小さいサイズの180個をこれから制作する予定だという。ちなみに1個作るのに数か月かかる。ほかにもドレスやウエディングケーキ、結婚指輪、聖歌隊用の衣装、聖書にバージンロードまで、結婚式に必要なアイテムを全部自分で制作しているのだ。すごい! これまでに作ったドレス3着、ウエディングドレス1着、和装着物が4~5枚。縫うのはスタッフが担当している。

藤岡は43歳。知的障害という特性がある。好きなスタッフさんを思いながら作品づくりを始めたのが2015年。いまも“秘密の誰か”を思って作り続けている。表面を埋め尽くすように貼り込む無数の小さなモチーフは、折り紙の「鶴」のようなものから「花」へ、さらに「飛行機」へと変化してきた。その理由を問うと「花はきれいだから」「飛行機はいつも空を飛んでいるのが見えるから」。さらに尋ねると「結婚式はイタリアで挙げる」「飛行機でケーキも運ぶし、ドレスも運ぶ。式に参列する人も飛行機に乗るから、飛行機を折って貼り付けている」と語る。
人を思うことが表現すること。反復しながら想像力は深まり具体性をおびていく。支援を受けつつも自身の世界を広げていく迫力。その一途な力が表現され作品化される時、障害がある人たちの中にある純粋でエネルギッシュな愛の力を知ることになる。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。

ただいま、中津川さんがプログラムディレクターを務める「第25回静岡県障害者芸術祭」が開催中です。
障害当事者が創作した文化芸術作品の展示や、交流イベントなどが行われます。開催期日や会場など詳しいことは、「第25回静岡県障害者芸術祭」のホームページ(NHK HEARTSのページを離れます)でご確認ください。

これまでのHEARTS & ARTSは、こちらのページでご覧いただけます。

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