今回ご紹介するのは、なお丸さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

なお丸 《鳥の剣士鳥刃☆ロックオン》―レトロチックゲームファンタジー
《鳥の剣士鳥刃☆ロックオン》は樹脂粘土による立体作品。羽根飾りのようなモヒカン頭の鳥の剣士。おそろしげな武器と一体化した異形の身体。またがっている白い鳥獣は馬のようでもあり鳥のようでもあり、背中には耳の垂れたイヌのような小動物が座って前を見ている。カラフルでバロック的ともいえる複合的な形態。個々の要素が合体して全体が一つの形態であるかのようにも見えてくる。神話の世界にでてきそうな造形物だ。

なお丸が紙粘土を使って作りはじめたのは11歳、その頃のモチーフは「ポケモン」だった。その後、樹脂粘土を使うようになり、モチーフも徐々に変わって現在のスタイルに行きつく。有機的でエロティックなフォルムがユニークなフィギュアたちは物語性があり、なお丸はその世界を「レトロチックゲームファンタジー」と呼ぶ。カラフルで明快、だが量産されるゲームやファンタジーノベルのキャラクターにはないある種の不気味さや怪奇性が強い個性と迫力を生んでいる。一体一体に付された「呪」「悪」「灰」などの文言はキャラクターの存在感を一層際立たせ、またそこに作者の過酷な体験の反映も感じる。

『ケア・スペース』は、心の病に罹った彼が病院での体験をもとに制作した絵本。自身を主人公にした戯画的アプローチの物語だ。はじめに絵だけを描き上げ、そのあと何年かしてから言葉を書き加えて完成に至った。過酷な体験の記憶から逃れ、物語の中に入り込んで別な世界を生きる。そこからもう一度生きる力を手にする。再生を願う感情が強く反映されている。内的体験に対峙し、それを肯定すること。乗り越えるために彼にはそれが必要だったのだろう。みずからの体験という生のリアリティーの物語が背後にあるからこそ、フィギュアの表面的なおもしろさだけではない何かが、見る人の心に強く迫ってくるのだろう。

最近では、発泡スチロールの球体をベースにした奇妙なフォルムの作品や、内面世界にまつわる神話を表現した群像など、ますます思考とイマジネーションの幅が広がりを見せている。以前は1体作るのに1週間ほどかかっていたが、コロナ禍で家にこもっている間にアイデアが次々と浮かび、制作スピードが速くなったという。およそ1日半で1体、時には1日で3体仕上げることもある。1か月に約40体。これからの展開がますます楽しみだ。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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