今回ご紹介するのは、「工房集」(埼玉・川口市)の伊藤 裕さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……伊藤 裕(いとう ゆたか)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

伊藤裕 ~螺旋形の祝福~
埼玉にある、みぬま福祉会・工房集には「あおぞら」というステンドグラス制作班がある。障害のある人たちがガラスを削り、組み立て、ハンダで接着する。黙々と作業している空間はまさしく“工房”の空気感だ。そこで“職人”のごとく日々ステンドグラスを制作しているベテランメンバーのひとりが伊藤裕だ。

伊藤裕の作品はステンドグラスというよりも、ステンドグラスの技法を使った立体作品・オブジェと呼ぶべきだろう。ステンドグラスに出会ったことで彼の創造性は開花する。伊藤はステンドグラス技法の通常の約束事にまったくとらわれずに、巨大なスケール感で作品を作る。ガラスを選び、弱い部分がないように構造と強度を考え、組み合わせを思案する。ガラスのふちの処理はスタッフがする。思い描いたとおりにパーツをひとつひとつ組み立てハンダ付けして完成させるまでは本人の仕事だ。

《ジェットコースター》は大きさがH65.0㎝×W40.0×L45.5㎝ほどある作品。上昇と落下運動を繰り返しながら旋回するジェットコースター。ふわりと駆け上がりぐるりぐるりと動き続ける。規則性と反復の構造の中に姿をあらわす“かたち”、それは螺旋形の夢。曲がりくねったすべり台を勢いよく滑り降りた記憶、植物や貝殻など自然物の形態にもイメージが重なる。透明感とリリカルな感覚に満ち、重力に反してぽっかりと空間に浮揚しているかのよう。見ているうちにふと自分が小さくなってオブジェの中へ誘い込まれていくような不思議なスケール感がある。

最近の作品《クリスマスツリー》は塔のように上に伸びていく。構造はいっそう堅固になって重量感がある。絶妙なバランス構造でうねりながら立つ姿は巨大な樹木のように荘厳だ。

ステンドグラスの始まりは寺院や教会、修道院など宗教施設にある。神は光であり、ガラスを通して差し込む神秘的な光の空間は神の存在を感じるためにあったと思う。フランスの画家ジョルジュ・ルオーは画家になる前ステンドグラスの職人だった。彼の絵画は彼の信仰とステンドグラスの色彩に導かれていた。その色彩の美しさと深さは生きることの祝福に通じている。伊藤裕のステンドグラスも、ルオー同様に生きていることへの祝福と祈りによって導かれ生まれているのではないかと思う。

*伊藤裕によるステンドグラスの小品が出品されます。
ツグズムズ17 織り&グッズ展
~きれいだ きれいだ ロマンチックがはじまる。~

会期:2024年12月19日(木)-12月25日(水)会期中無休 11:00-17:00
会場:工房集ギャラリー(川口市木曽呂1445)
主催:埼玉県障害者アートネットワークTAMAP±〇、社会福祉法人みぬま福祉会

詳しくはアートセンター集のサイトをご覧ください。(NHK HEARTSのサイトを離れます)


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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