今回ご紹介するのは、「コルメナ」(大阪・高槻市)の植田 恵生さんをご紹介します。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……植田 恵生(うえだ・けいしょう)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

植田 恵生「力をかりる乗り物」

大阪高槻市にある福祉施設「コルメナ」を訪れた。生活介護事業所としてはじまったコルメナには知的障害のある人たちが通っている。あたたかく明るい空気感、なごやかで和気あいあいとした雰囲気。ここでは「働く」ということがだいじな活動の一つ。毎日、絵画や刺しゅうなどの表現活動に取り組んでいる。今回は2025年秋に9回目の開催となる展覧会《 about me ~“わたし”を知って~ 》のキュレーションのため作品を見に来たのだ。

そこにあったのは、奇妙なアルミホイルでできた小さな動物らしき立体の作品群。これはと思い、ほかにこの作家の作品はないかとスタッフに尋ねると、立体ではなく紙に描いた水彩の作品を収めたファイルを見せてくれた。そこに繰り広げられている世界がとても魅力的で驚いた。

植田は24歳、自閉スペクトラム症という特性がある。《力をかりる乗り物》は水彩画の一枚。「かわくだりのふね」「すいじょうじてんしゃ」「てこぎれっしゃ」乗り物を熟知したマニアックなセレクトが並んでいる。乗り物が好きな自閉症の作家は多いが、植田のこのようなコンセプトでカテゴライズする発想自体がおもしろい。そして下描きなしのシンプルな線で特徴をつかむ表現力。一発勝負の線が繊細で美しい。細部の描写はほどよくあっさりとしてバランスがとても良い。絵はかならず画面の下の方から描き始める。画面構成には彼なりのこだわりが見える。

「最強」の生き物たちを集めたシリーズもいい。《最強な動物》《最強な昆虫》《最強な水中生物》《最強危険生物》。ほかにも《新生代の動物》《海の生物》《恐竜》とテーマごとに分類・編集されている。《はたらくくるま》《テーマパークのバス》といったカテゴリーもユニークで、見ていて楽しいし飽きない。

アルミホイルの立体オブジェは一つ作るのに1分もかからない。小さいものなら数秒ほど。とにかく早い。子どもの頃、チョコレートの銀紙で作ったのが今の原型のようなものだったらしい。メタリックな生き物たちがずらりと勢ぞろいしたジオラマのような世界は圧巻だ。

自分の「好き」を徹底的に追求する植田にとってインターネットはなくてはならないもの。スマホで画像を、タブレットでは動画も検索してテーマを考える。いつの間にか習得してAIも使っているらしい。進化するテクノロジーは障害がある人の表現にも影響をもたらし、コミュニケーションの新しい可能性を拓くのかもしれない。

展覧会のお知らせ

今回ご紹介した植田恵生さんや、以前ご紹介した藤山晃大さん(vol.127)などの作品が出展されます。

展覧会「about me 9 ~“わたし”を知って~ 永遠の謎解き」
日時:2025年11月28日(金)~12月3日(水)10:30~20:30(※最終日は16:00まで)
会場:LUCUA 1100 4F「sPACE」(大阪市北区梅田3-1-3)
入場料:無料
「about me 9 ~“わたし”を知って~ 永遠の謎解き」について詳しくは、国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)のサイトでご確認ください。(NHK HEARTSのサイトを離れます)


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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