今回ご紹介するのは、「美術教室ライプハウス」(大阪・東大阪市)の藤⼭ 晃大(ふじやま・こうだい)さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……藤⼭ 晃大(ふじやま・こうだい)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

藤⼭ 晃大「untitled」
展覧会「about me 9」のキュレーションのため、7年ぶりで東大阪市にある美術教室ライプハウスを訪れた。福祉事業所とはちがって開催日が限られる美術教室となると、メンバーさんの作品をじっくり見る機会はなかなかないので楽しみにしていた。代表の大澤辰男さんにたくさんの作品を見せていただいた。その中でも印象的だったのが今回ご紹介する藤⼭晃大の作品《untitled》シリーズだった。

10号サイズのキャンバスにアクリル絵の具。その厚みのあるドロリとした物質感がまず目に入ってくる。触れたら手に付いてしまいそうなくらい生々しい絵の具の感触が印象的だ。

藤⼭は33歳、自閉症という特性がある。一週間に一回、美術教室ライプハウスに通って17年ほどになる。最初の頃は画用紙にペンで乗り物や大阪城など建物のモチーフをふつうに描いていた。
ある時ほかのメンバーが絵の具で厚塗りしたのを代表の大澤さんにほめられた、それを横で聞いていたのが藤山で、それから自分も厚塗りに挑戦するようになったという。作家が描くことに自覚的になるきっかけはいろいろだが、意外と人間臭くておもしろいなと思う。

表層的に現れるモチーフは葉っぱ、ニンジン、リンゴといった具体的なもののほか、抽象的に見える図形、三角や円もある。人の顔や家、帽子やゾウ、藤山の日常と想像の世界を感じさせるモチーフも見え、それらが何か具体的イメージを連想させるようなところもある。具象と抽象の間を縫うようにして描き込まれている。

色彩も個性的だ。鮮やかな色が少ない。グレーや赤茶、黄土色、茶色など彩度の低い地味目の色をよく使う。厳密に調色された色たちは独自の色彩ハーモニーを醸し出す。見ていて見飽きることがない。

イーゼルに立てて描くので、絵の具は必然的に垂れてくる。その垂れをうまく生かして形やイメージに結び付け臨機応変に描いていく。一般的に偶然を嫌いこだわりが強い自閉症の特性を考えるとこれはとても珍しいことだと大澤さんは言う。筆者も同感だ。
週一度の教室なので10号サイズの作品を仕上げるのに半年くらいかかる。この《untitled》シリーズは藤山の数年にわたる痕跡ということになる。

藤山は毎日家族のためにお風呂を掃除する。ときには自分で朝ご飯を作ることもある。普段はB型作業所に通い、週に一度美術教室で絵を描く。障害がある人たちのアート活動を支える新しいかたちがある。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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