難波 航伎「ドローイング」 HEARTS & ARTS VOL.131
公開日:2025年11月12日

今回ご紹介するのは、「美術教室ライプハウス」(大阪・東大阪市)の難波 航伎さんをご紹介します。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。
作者紹介……難波 航伎(なんば・こうき)
キュレーターより 《中津川 浩章さん》
難波航伎《ドローイング》
大阪・梅田で11月28日から始まる展覧会「about me 9」のキュレーションのため、東大阪市にある「美術教室ライプハウス」を訪れたときに出会ったのが、今回紹介する難波航伎の《ドローイング》だ。大きいサイズのキャンバスに描かれた絵を見たときは、とにかくずいぶんと筆圧が強く、圧倒的で直線的な力がある作品だと感じた。内的なパワーというか、内側に閉じ込められたものがせきを切って流れ出てきた、そんな印象だった。
難波は重度の自閉スペクトラム症という特性がある。彼が中学生の時に美術教室に来るようになって3年。最初は走り描きのようにさっと描いて終わりだった。描くものは記号的で、自閉症という特性もあってか、せっかちで衝動的な行動がそのまま制作に出ていた。とにかくじっくり制作と向き合うことができなったという。
ライプハウス代表の大澤辰男さんは教室のファシリテーターでもある。ゆっくりキャンバスに向かうように、そして描き続けるようにと働きかけた。そうして少しずつ制作への取り組みが変化していく。絵具の匂い、キャンバスの弾力、オイルパステルの描き心地などが本人の感覚とマッチングがよかったのか、キャンバスにアクリル絵具とオイルパステルで描くのが面白くなる。自分で決めた色の絵具を一度に大量に出して描く。それからオイルパステルで垂直水平の線を描いていく。
たくさんの線を素早く描く。アクリル絵具を塗った物質感のあるキャンバス画面にオイルパステルで力いっぱい描く。絵の出来上がり、終わりは自分で決めている。ときに加筆するようにアドバイスすることもあるが、少し描いて終わることが多い。本人の中ではじつはやっぱり終わっていたということなのだが、こういうコミュニケーションの積み重ね、声かけが変化を生んでいくのだと感じる。彼との言葉のコミュニケーションはほぼひと言ふた言で終わることが多いが、こちらが話すことはしっかりと理解している。
教室は週に一回で1時間描き続ける。キャンバス50号サイズの大きい作品はひと月ほどかけて完成させる。ライプハウスでは親御さんも教室に参加し、座って制作を見守ることもよくある。展覧会にはおじいちゃんおばあちゃんも見に来るそうだ。楽しい時は鼻歌を歌いながら描く。美術教室に来た当初は落ち着きがなく激しかったが、今は描くことが楽しいと話し、そして以前よりもかなり落ち着いてきた。作品が評価されることも大切だが、表現することは本人の成長にもつながっていく。
展覧会のお知らせ
今回ご紹介したや難波さんや、以前ご紹介した植田恵生さん (vol.129)、藤山晃大さん(vol.127)などの作品が出展されます。
展覧会「about me 9 ~“わたし”を知って~ 永遠の謎解き」
日時:2025年11月28日(金曜)~12月3日(水曜)10時30分~20時30分(※最終日は16時まで)
会場:LUCUA 1100 4F「sPACE」(大阪市北区梅田3-1-3)
入場料:無料
「about me 9 ~“わたし”を知って~ 永遠の謎解き」について詳しくは、国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)のサイトでご確認ください。(NHK HEARTSのサイトを離れます)
プロフィール
中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)
記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。
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難波 航伎さん
ドローイング
ドローイング
ドローイング
ドローイング
チラシ(表)
チラシ(裏)
