今回ご紹介するのは、アトリエそらのいろ(神奈川・鎌倉市)の鈴木 順敬(すずき・よりたか)さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……鈴木 順敬さん

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

鈴木順敬 《バベルの塔》

横浜市神奈川区民文化センター「かなっくホール」が主催する展覧会の準備で、出展作品のリサーチのために鎌倉の福祉施設「そらのいろ」を訪れた。そこで出会ったのが鈴木順敬の一連の作品だ。なんてほのぼのとした絵なのだろう。なんだかのんびりと温泉にでもつかっているような、ほんわかと脱力する作風に心があたたかくなる。

学習障害という特性がある鈴木は、「そらのいろ」に来て本格的に制作活動を始めた。絵画、マンガのほかに立体の作品もある。どれも色鉛筆を使っているのが特徴だ。石粉粘土で作った立体の彩色も硬い色鉛筆でする。乾燥・硬化した立体の表面を色鉛筆で塗るのは、やりにくいし時間もかかる。絵の具のほうが着彩しやすいだろうと思うのだが、ほかの画材にはまったく興味を示さないという。ひたすら色鉛筆なのだ。また作品には人がほとんど登場しない。基本的にモチーフはいつも動物でサル、クマ、ウマ、ペンギン、サイなどのほか、オカピなど珍しい動物も登場する。最近は海の恐竜や魚に凝っているらしい。

《バベルの塔》は、施設スタッフから渡されたいくつかの写真の中から自分でセレクトして描いた作品。金色の巨塔がドーンと描かれている。背景にはヨットが浮かび、山や小さな家並みも見える。なんともほのぼのした「バベルの塔」だ。旧約聖書の「創世記」では、天に届こうと欲した人の傲慢に怒った神が人々の言語をバラバラにし、地上を混乱させるというのが「バベルの塔」の物語。鈴木の《バベルの塔》の絵は、物語とは真逆の調和がとれた平和な風景に見える。鈴木が徹底した平和主義者であることは、周りのだれもが知っている。悲しくなるからと動物が泣いているところや怒っているところは一切描かない。幸せそうな顔やウキウキした表情を描きたいのだ。家族旅行のエピソードを描いたマンガも登場するのはみんな笑顔の動物たち。笑顔にこだわる鈴木はおやじギャグも大好きで、ネタ帳も作っているのだという。おやじギャグは平和に欠かせないアイテムなのかもしれない。

色鉛筆を丹念に塗り重ねていくなかから生まれるセンシティブな優しい色彩。平和を愛する鈴木の感性が作品にしっかりと反映している。一見ソフトでゆるい脱力系のように見える作品だが、色鉛筆の描き込みは見た目以上に熱量が高く強い。鈴木には仕事としての制作という自覚が強くあり、展覧会で人に見てもらうこと、作品が売れることをとても大事にしている。

鈴木順敬さんの作品が展示されます。
かんかくをひらき、こころをひらく2」展(キュレーション:中津川浩章)
6月21日(水)から25日(日)まで
横浜市神奈川区民文化センター かなっくホール ギャラリーA・B
詳しくは、かなっくホールのサイトをご覧ください。(NHK HEARTSのサイトを離れます)

プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


これまでのHEARTS & ARTSは、こちらのページでご覧いただけます。

関連リンク

  • Twitterでシェア
  • LINEでシェア
ページトップへ