今回ご紹介するのは、「社会福祉法人清心会」(埼玉・秩父市)の冨田 聖治さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……冨田 聖治(とみた・しょうじ)さん

冨田さんの絵には自分の大好きな物や人、その季節のお気に入りの物が描かれています。おかめは大好きな人、自分の好きなコーヒー、携帯、仮面ライダー、ウルトラマン、ワニやむかでなど「好き」が詰まっている作品です。
また、みんなに見てもらう、評価してもらう事が何よりの原動力となっており、通所事業所でも絵を描き、グループホームへ帰ってからもずっと絵を描き、支援員へ飾って欲しいと一日一枚のペースで描いております。彼にとって「絵」は会話のような物で、絵を通して自分の思いを表出させているのだと思います。(社会福祉法人清心会 荻原幸穂)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

冨田 聖治「おかめ5」

これまで10年以上にわたって埼玉県障がい者アート企画展のディレクターをつとめてきたが、そこで見た冨田聖治の「おかめ5」は特別に強力なインパクトがあった。 “これはまさしくアールブリュットではないか!?” 類型がない、ほかに見たことがない。奇妙にデフォルメされた人物。筆圧のある確信に満ちた線。明るく透明感のある色彩でわけのわからない不可思議なモチーフが丹念に描きこまれている。

”おかめ”のお手本を見ながら描いたときにみんなから褒められた。それがきっかけとなって生まれたシリーズ。“おかめ”描きの成功体験がベースにある。まずは“おかめ”という安定のモチーフを置き、それから自分のほんとうに描きたい好きな世界を展開していく。

おかめは主題というよりも、画面を作るための容れ物のようなものだと思う。そこに描きたいものをランダムに入れていく。口の中にヘビ、ムカデ。クワガタ、カブトムシ。ワニのようなトカゲ、懐かしい漫画やヒーローもののキャラクター。季節のヒマワリ、イチゴ。季節ものではないが最近ではマスク姿の“おかめ”もいる。

「おかめ7」では歴代仮面ライダーが登場する。メインはなんといっても初代仮面ライダーだ。「おかめ11」では仮面ライダーたちが合体。曼荼羅のようにも見える。初代ウルトラマンやウルトラセブンもよく登場する。時代背景の暗さを背負ってどこか悲哀をおびたサブカルチャーのヒーローたち。彼らのなかに人間の古層にある呪術性や、動物や虫の世界を行き来する通路を発見する。冨田の表現はブリコラージュとメタモルフォーゼによって新しい神話世界を作りだしている。

冨田は埼玉県にある清心会に入所して40年以上になる。手を動かすことが好きで張り子作りの仕事もしている。彼は作業所でも入所施設でも描くことに意欲的だ。画材に特別なこだわりはない。もらい物のボールペンやカレンダーの裏なども使う。居室の中の四方のかべにももちろん描く。トイレのドアは表にも裏にも守護神のように仮面ライダーが立っている。トイレの中のかべには手足の生えた美しい古代魚がゆうゆうと泳いでいる。

  

プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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