今回ご紹介するのは、「studioBREMEN」(北海道・北見市)の宮林 聡太(みやばやし・そうた)さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……宮林 聡太(みやばやし・そうた)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

宮林 聡太《No.11》
宮林聡太の作品との出会いは、8年ほど前。ビッグアイ・アートプロジェクト公募展の審査会場で、いままで見たことのないタイプのシールを使った立体作品だった。その後2024年11月に、ある展覧会のキュレーションで宮林が通う北海道北見市の「studioBREMEN/スタジオブレーメン」を訪れる。そこで初めて本人とお会いし、作品に再会することができた。

《No.11》は大きさがおよそ160センチ×80センチ。重さは10kgほどあり、制作に一年以上かけたという作品。舟のように巨大なアメフラシにも見えるその姿はどこか怪物めいてナウシカの王蟲を連想する。不定形でありつつ確かな存在感のある独自の生命体だ。画材はすべてお弁当や総菜などの食品用シール、食品表示ラベルもある。モノクロやビビッドな色彩をうまく使い分け、同じ面が目に入るように細かく揃えて規則正しく貼っていく。わずかなズレの重なりで面は膨らみ、歪み、うごめく。ひとつのフレーズを繰り返すうちに微妙なズレが音楽空間をつくりだすミニマルミュージックのように、無機質なようでありながらその繰り返しの中に有機的感覚がやってくる。不思議な作品だ。実物を見て驚いたのは作品の裏側の造形だ。分厚く何層にも重なった膨大な時間とエネルギーの堆積物に圧倒される。

BREMENではクレヨンで絵を描いていたこともあったがいまひとつで、ただ当時から色感は際立ってよかったという。シール貼りの造形は彼が中学生の頃、自宅で晩ご飯を待つあいだの時間つぶしだったらしい。親御さんが「うちの子がこんなことをしています」と見せたのがきっかけで、BREMENでもシールによる制作活動が始まった。段ボール、木片、発泡スチロール、お菓子の缶などを土台にシールを貼り込む。ベースのかたちに沿いながらフォルムは増殖し、行為の繰り返しの中にイメージらしきものが生まれる。季節ごとに年ごとにシールの形状やデザインは変わる。それが作品の中に取り込まれて構成的な変化を生み、形態と色彩に絶妙なバランスを与えている。どこまでも増殖して大きくなっていきそうにも思えるが、支援員の方によれば「完成」ではないが「終わり」は唐突にやってくるらしい。シールを貼る手がハタと進まなくなり止まってしまうのだ。

宮林はいま34歳、重度の自閉症でふだんは同じ法人の生活介護施設で過ごす。週一回BREMENのアトリエで制作するのを楽しみにしている。シールをちぎる作業は握力が弱い彼にとってトレーニングにもなっている。強度行動障害から来るパニックも、作品を作っている間だけは軽減し落ち着くのだそうだ。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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