今回ご紹介するのは、「風舎」(宮崎・日向市)の後藤 拓也さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……後藤 拓也(ごとう・たくや)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

後藤拓也《家》
後藤拓也の作品を初めて見たのは2021年。宮崎県が開催した「ひなたのまんなかで~全国障がい者アート作品展」でのこと。作品選考の過程で目にし、強烈なインパクトを受けた。それはまるで生きている「家」。いちど見たら忘れられない造形だ。その同じ年には高鍋町美術館で「宮崎アーティストファイル ギフト展」にも出展。さらにその後「Art to You! 障がい者芸術世界展IN SENDAI 2024」で「家」が内閣総理大臣賞を受賞。東京渋谷の公園通りギャラリーや滋賀のボーダレス・アートミュージアムNO-MAでも展示され、後藤の作品はたくさんの人の目に触れるようになった。今注目されている障害があるアーティストの一人だ。

後藤拓也は1987年生まれ、38歳。宮崎県日向市にある社会福祉法人「風舎」で制作している。うねるような曲線がつくり出す有機的な建築物。土台の基礎から柱、壁、屋根まで、波段ボールなど紙をホチキスで組み上げていく独自の技法が目を奪う。リズミカルに増殖していくホチキスの針。無数に打ち込まれた針の頭がステッチ装飾のようにも見えてくる。骨組みをあらわにしたスケルトン部分やカラフルな色の構成など、みればみるほどおもしろい不思議な立体だ。

後藤の作品のタイトルはすべて「家」。今回メインで紹介した作品《家》は、じつはまだ完成していない未完成のもの。完成してしまうと内部の構造やプロセスが分かりづらくなるので、制作途中ではあるが、許可を貰ってこの《家》を紹介することにした。後藤は2013年頃から家をモチーフに制作している。きっかけは自宅のリフォームだったという。家族が家づくりで話し合っていると興味をもち、建築の図面もよく見ていたそうだ。最初のころの作品は手近にあった紙類を使っていたが、やがて自分で材料を購入するようになる。まず土台になる紙に間取りの平面図を引き、全体の構造を考え強度のための柱を配置する。ホチキスの手法も自分で考案した。初期からみると家の完成度はかなり上がっている。

驚いたのは、後藤が制作に費やす時間が昼休みの10分ほどの間だけということ。それ以外は清掃と看板作りの仕事に就労している。だからその10分間の集積である作品は、完成まで一年から二年はかかる。作品が評価されるようになって、言葉少なかった後藤がよく話すようになり、仕事への取り組みも主体的になりコミュニケーションも豊かになって変わったという。
人が「家をつくる」ということ。「家」というイメージの具現化。夢、象徴、物語。そこには後藤のどんな想いが込められているのだろう。かつて自分だけの妄想世界の見取り図のようなものを描いてはあれこれ夢想し、物語を生きていた、子どもの頃の思い出がよみがえってくる。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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