今回ご紹介するのは、坂本 大知さんの作品です。
キュレーターは、福祉実験ユニット・ヘラルボニーの松田 文登さんです。

キュレーターより 《松田 文登さん》

舞うような優雅さが生んだ偶然の産物「ギザギザ」の秘密。
坂本 大知「ギザギザ」

いつも、この「ギザギザ」を見るたびに、線を追う。
追った線の先、気づいた時には、すでに色の変化に出会う連続だ。

まるで、宇宙のブラックホールに吸い込まれんばかりの力強さと、
緻密な線と色づかいにいつも目が釘付けになる。

この作品を描いたのは、茨城県つくば市の自然生クラブに在籍する坂本大知さんだ。

プロフィール

坂本 大知(さかもと だいち)
茨城県立美浦特別支援学校卒業後、2016年に自然生クラブに参加。温厚な性格でユーモアがあり、どんな仕事にも責任をもって取り組む。創作田楽舞では2019年の香港公演に参加。自由でのびやかな感性を持ち、太鼓を叩いたり、ダンスや歌を歌ったりする。絵画では「筆を滑らす動き」を重視し、ダンスと融合している印象を与える。形に着目し、何度も形をなぞって描き上げた「土偶」(2019)は、好評で、市役所の市長室控室に展示された。

「スクラッチ技法」。
それは、偶然にできる形や色を利用して表現する技法であるモダンテクニックのひとつであり、多くの方が一度はスクラッチ技法を用いて描いたことがあるのではないだろうか。

「(筆圧は)弱く、フォークで描きました。」
初めて「ギザギザ」という作品を観た時は非常に力強い印象を受けていたので、坂本さんの返答を聞いて驚いた。しかもフォークで。施設職員の方によると、本作は上の黒い部分を下地が見えるようにスクラッチで描いており、フォーク以外にもスプーンや筆の柄なども使ってスクラッチをしているのだという。

それにしても非常に緻密で、繊細かつ大胆な作品。
どれだけの制作時間がかかったのか、想像もつかない。

「ギザギザ」の制作時の様子を施設職員の方々に訪ねると、興味深い回答ばかりだった。
「ギザギザは偶然できた作品です。彼は「動き」(身体)をそのまま絵にします。ギザギザは、ギザギザの動き、ということです。」

「スクラッチで仕上げた作品です。クレヨンを大きな画面全面に力強く塗り込めました。ひたむきに。その後、黒で画面を着彩し、楽しく、軽快にスクラッチ。存分に「ギザギザ」下絵の色が表出する喜びや驚きを感じました。」

「線の流れ、動きにこだわりを感じます。大知くんの踊った軌跡のようです。直線、曲線、ツンツン、ギザギザといろいろな動きを言葉にしながら制作しました。」

坂本さんは田楽舞と呼ばれる踊りの活動にも精力的に取り組んでいることもあり、優雅な踊りがアートの制作活動にも取り込まれている。
なんと、「ギザギザ」というタイトルは、スクラッチ部分のことを指しているのではなく、「ギザギザ」な動きをしながら描くことから「ギザギザ」というタイトルになっているようだ。

多彩なユーモアも合わせ持ち、高低差が大きいギャップで魅了する坂本大知さん。本人や施設の方へのインタビュー前後では「ギザギザ」の見方も全く異なる。舞うように描く優雅さと、やさしさを持ち合わせた偶然の産物「ギザギザ」を改めて、お愉しみいただきたい。

本稿は2020年7月8日に株式会社ヘラルボニーが実施した坂本 大知さんのインタビュー取材を元に再編したものです。


プロフィール

松田 文登(まつだ・ふみと)

株式会社ヘラルボニー代表取締役副社長。チーフ・オペレーティング・オフィサー。大手ゼネコンで被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共に、へラルボニー設立。自社事業の実行計画及び営業を統括するヘラルボニーのマネージメント担当。岩手在住。双子の兄。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。日本オープンイノベーション大賞「環境大臣賞」受賞。

 


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