今回ご紹介するのは、「アートかれん」(神奈川・横浜市)の品川 大成さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……品川 大成(しながわ・たいせい)さん

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

「ブルーライン」品川 大成

初夏に開催された展覧会のキュレーションのため、横浜の大倉山にある「アートかれん」を訪れた。その時に見た品川大成の絵がとても印象深かった。ためらいがいっさい感じられない力強いタッチと色彩、活き活きとエネルギーがほとばしっている。生物かそれとも風景なのか、なにかが見えそうで見えない、想像力を刺激する絵画だ。ガッガッと音がしてきそうな、迫力あるクレヨンの作品も魅力的だ。絵具でもクレヨンでも、目についた色をこだわりなくパッとつかんで描く。描き始めるとあっという間に完成させる。画面を見ずに描くこともあるという。

「くだもの」(2015年) 画用紙・クレヨン・色鉛筆

「ブルーライン」は、キャンバスにアクリル絵具の作品。
すこし濁ったグリーンやブルーグレーが重なり合い、不思議な奥行きがある空間が生まれている。大胆な太いタッチは激しく動的でありながらも、美しく静謐だ。
思いのまま気の向くまま表れるイメージ。そして、描いたその上からこんどは勢いよく塗りつぶしていく。絵具は混ざり合ってドロドロの状態だ。色もどんどん濁る。だが、濁りながらも画面はなぜかイキイキとしている。
塗る行為自体の楽しさ、触覚的快感と、思いがけないものが生まれる驚きと喜び。固定化されたイメージから解き放たれる解放感があるのだ。

「ブルーライン」 (2017年)キャンバス・アクリル

絵具はたくさんの色を混ぜれば混ぜるほど、どうしても色の彩度や明度は失われていく。だが品川は、そんなことはものともせずに、ぐいぐいと描き進む。描いては、塗りつぶす。渾身の行為によって生み出された濁りは、別の輝きを発し始める。それはデ・クーニング[1]の絵画のように、自然の風景にも似た繊細なニュアンスをもって立ち現れてくる。物質感をともなった混色が放つ美しさ。あたらしい色彩の可能性を感じさせる。

腕の動きもままならない脳性麻痺という不自由さを抱えた作家の絵画に、身体性の自由さを感じるのはなぜだろうか。
思いどおりに動かない身体を受け入れ、その不自由さをも自分の技法として、表現を楽しんでいるように見える。不自由だからこそ、できないからこそ深まる可能性があるということ、それをあらためて思う。


[1]ウィリアム・デ・クーニング(Willem de Kooning,1904-1907) アメリカの画家。流動的な形態と激しい表現が特徴の抽象表現主義の代表的画家の一人。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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