今回ご紹介するのは、ハピバール(大阪・羽曳野市)のトダヒロユキさんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……トダヒロユキさん

ハピバールで最年長のトダさんはとても陽気で笑顔の素敵な人。思い出をとても大切にされている方で、写真や今までの経験を紙に残すとともに、それを絵や作品へ表現するのが彼のスタイル。その絵をみんなに見てもらい、手話やジェスチャーで一緒にその時の様子を話すのが大好きな時間です。作品が完成すると、「写真を撮って!」とアピール。いつも最高の笑顔を見せてくれます。
これからもどんな作品を生み出してくれるか楽しみです。
(ハピバール・大西雅子)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

「ハピバールのトダヒロユキさん」

大阪・羽曳野市にある福祉施設「ハピバール」に通うトダヒロユキさんは、聴覚と知的の重複障害がある。目も見えにくくなってきているという。彼はハピバールに来て表現活動に出会い、作品をつくり始めた。

初めて見た作品は、チープな佇まいのジオラマのようなものだった。拾ってきた木の枝、薄いペラペラの紙。マーカーで描いた絵。手でちぎったような紙や絵具の雑な塗り。まるで幼い子どもが作ったような不器用さにもかかわらず、引き込まれる不思議なパワーがあった。この作品には生まれてくるべき確かな理由があるに違いない、と直感した。

ブランコ、樹木、手書きの食堂メニュー、公園にいる本人らしき人。それは彼の眼が見たもの、彼が体験したこと。記憶は抽象化されることなく細部まで再現されている。再現といっても登場する物体の縮尺は恣意的でいい加減だし、作りはとてもラフだ。なのに、こだわりのある具体性はぐいぐいとこちらに迫ってくる。

この動物園は天王寺動物園ではないか、商店街はあそこではないか。ハピバールにたどり着くまでの、彼が生きてきた「あいりん地区」という場所の記憶。たどってきた数奇な人生がジオラマの中に浮かんでくる。戸田 廣幸という人間の過去を記す率直なナラティブな物語性を、造形を通して感じるのだ。

「ハピバール」

作品が持つ強度は、見た目の精緻さや再現性の高さなどではない。いかに私たちの想像力を刺激し、切実でリアルな世界を見せてくれるか。その切実さの喚起力にあるとあらためて思う。
ハピバールに来てからのその後の物語をトダさんは立体作品化していない。そのことに何とも言えない気持ちになる。「ハピバール」は彼の最後の安息の場所、今は幸せ。それが作品から見えてくる。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。

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