今回ご紹介するのは、アトリエコーナス(大阪市阿倍野区)の大川 誠さん(1976年-2016年)の作品です。

キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……大川誠さん

※アトリエコーナスで、大川誠さんと長年、時を共にした、代表理事の白岩髙子さんからのメッセージをご紹介します。

少年期から大川 誠のそばにいた。
彼がアート活動で羊毛を刺すという行為にはまり、やがて誰もまねができない人形Makoot(マクート)を創り始め、破壊から創造へスイッチが切り替わった時もだ。
創作を始めて、驚異的なスピードで多くのMakootを生み出した。いたずらっ子のような笑みを浮かべながら作り、愛おしそうに完成作を抱っこすることもあれば、傍にいて胸が苦しくなるほど怒り悲しみながら針を刺すこともあった。一番辛かった時期には自ら手を止めることができず、強引に沖縄の離島に連れ出し二週間過ごしたこともあった。末期のガンと告げられるまで創作し続けた。そうまでして、彼を突き動かしたものは何だったのだろうか。
彼が残した作品は、軽やかで明るく見ると誰もが元気に、そして笑顔をひきだす力を持っている。
大川 誠は、今も大切な仲間としてMakootに姿を変え、コーナスに存在している…永遠に。 (特定非営利活動法人コーナス代表理事 白岩髙子)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

「大川誠 精霊の王」

大川 誠は大阪阿倍野の住宅街にあるアトリエコーナスにいた。カラフルな色彩とキュートな形態。作品を一目見て、これはすごい!とすっかり虜になった。
ニードルの抜き刺しを繰り返すと羊毛は絡まり徐々に固まって立体化していく。大川の制作を見学した時、ものすごいスピードでニードルを突き立てる姿が衝撃的だった。その強い感情をたたき込むような激烈さとは裏腹に、出来上がった作品はなぜか愛嬌があってカラフルでカワイイ。そのギャップも謎で魅力的だ。

初期には頭足人様のレリーフ的な表現、そこから短い間に立体的な表現へと変化していった。併せて絵画も制作しているが、色彩豊かでモチーフ、形など立体との共通点も多く、意識的にその形態をつくっていることが分かる。
障害があるアーティストはそのスタイルが障害特性の反映によって形作られるため、ずっとスタイルは変わらないと思われているが、実際はみんなゆっくりと確実に変化し成長していく。

表現活動に取り組む前の大川は、家族や支援員が途方に暮れるほど激しかった。部屋のガラス戸や電球を全て壊していたこともある。だが制作に取り組むようになってからは、ものを壊すことや自傷行為が随分と減ったという。
表現することは当人にとっても癒しであり救いでもある。他者に自分の感情を伝えるということは人として、とても大切なことなのだ。そのためのツールを提供し支援することに福祉が果たす役割の大きな意味がある。

「Makoot_No.1」

大川誠は2016年にガンで亡くなってしまった。しかしイギリスのThe Museum Of Everythingには彼の約60点の作品がまとめて収蔵され、亡くなって5年がたつ今も、さまざまな場所で展覧会に参加している。作家が亡くなっても作品は生き続ける。メキシコの先住民族が作ったカティナ人形のように、死者の世界と私たちの世界を結ぶ精霊のように、大川が生み出した精霊たちは不思議な存在感をまとって生き続けるのだ。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。

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