NHK厚生文化事業団60周年事業の一環で行う、オンラインフォーラム“ウィズコロナ”を機に考える「共生社会を手にするための知恵とは?」(7回シリーズ)の第1回として、2020年8月30日、NHKハートフォーラム<オンライン>「コロナ時代に認知症を考える」を開催しました。

出演

繁田 雅弘(東京慈恵会医科大学 教授/栄樹庵 理事)
丹野 智文(おれんじドア代表)
永田 久美子(認知症介護研究・研修東京センター研究部長)
コーディネーター:町永 俊雄(福祉ジャーナリスト)

コロナの時代の認知症とは

フォーラムでは、新型コロナウイルスによって、ソーシャルディスタンスや三密回避が叫ばれる中、認知症の人たちが何を思い、どのような課題があるのかを話し合いました。

最初に自己紹介を兼ねてコロナ禍での生活や活動について、思ったことを報告してもらいました。
丹野さんは「コロナ前は講演会などで忙しくしていた。今、家にいることが多くなった。認知症について考える時間も増えた」
永田さんは「外に出にくいなど厳しい面もあるが、こういう時間を利用して、日々どう生きるか、周りとどう付き合うかを考えるとよい」
地域の活動拠点となっている「SHIGETA HOUSE」を運営している繁田さんは「活動は一旦、見直し中断した。まずはオンラインで再開し、8月から間隔を開けつつ、マスクをつけつつ再開している」と近況を報告しました。

視聴者からの質問も随時受け付け、「マスクを着けたがらない人にどう着けさせるか」という質問が多数寄せられました。
繁田さんは「外すには外す理由があるはずなので、それを聞くこと」が大事としたうえで、場合によってはしなくてもいいのではないかとも言います。「周りの人の目が気になるというのであれば、東京ではヘルプカードというのがある。これをつけていれば周りの人が事情があるんだなと分かるからいいと思う」と話しました。
丹野さんも、「周りの人がカードの意味を分かっていないとだめ」と自作のヘルプカードを使って通勤してた経験を交えながら、周りの理解の重要性を訴えかけました。

リモート出演 <名古屋・鬼頭さん>

この日は地域で認知症の当事者と一緒に活動をしている人たちともリモートでつなぎました。一人目は、名古屋市社会福祉協議会で、ソーシャルワーカーとして働いている鬼頭 史樹さん。鬼頭さんは仕事とは別に、認知症の人とともに生きる社会をめざして活動する人びとのコミュニティ「borderless-with dementia-」のメンバーでもあります。
鬼頭さんはコロナの影響を「月に1回、当事者が集まる場を作っていたが、中止になってしまった。ちょっとずつ積み上げてきたものが無になってしまうのではないか」と不安をかかえながらも、今だからできることを考えた結果、オンラインでの活動を試行錯誤しながら始めたと言います。中でも丹野さんと一緒にやったオンライン動画は反響が大きく、オンラインの大きな可能性を感じたといいます。
丹野さんも「これをみた大学の先生が学生に見せて、学生が感想を寄せてくれた。うれしくて本を送ったら、本と一緒に取った写真を送ってくれた。広がりがすごく大きいと感じた」とエピソードを披露しました。ただ、オンラインだけですべてうまくいく訳ではなく、当事者や家族が実際に生活していくのは「地域」であるとし、「住みやすい地域にすることは絶対に考えていかないといけない」と、地域づくりの重要性を訴えました。

リモート出演 <金沢・道岸さん>

2人目のリモート出演者は、金沢市で「若年性認知症の人と家族と寄り添いつむぐ会」副代表として活動している道岸 奈緒美さん。
つむぐ会は、金沢市の観光スポット「金沢21世紀美術館」内のおしゃれなカフェスペースで、認知症カフェを開くなど当事者に寄り添う活動を続けています。今回のコロナの影響で認知症カフェもオンラインでの開催を余儀なくされました。
道岸さんは「交通の事情や家族の健康上の理由から会場に来られない人ともつながり続けようということで、2018年ごろから一部、オンラインを利用してきた」ため、比較的混乱は少なかったといいます。ただ、オンラインになじめない人もいることも確かで、そういう人とどうつながり続けるかを、今後の課題として挙げ、「少人数で実際に対面しながら、大画面でオンラインカフェに参加してもらったらどうか」など今、模索中だといいます。

リモート出演 <新潟・marugo-to>

続いて、新潟のmarugo-to(まるごーと)代表の岩﨑 典子さん、中村 章さん、阿部 まやさんがリモート出演。marugo-toは「第3回認知症とともに生きるまち大賞」の受賞団体で、ビニールハウスを地域の活動拠点とし、認知症の人だけでなく、学生や引きこもりの人なども集える場となっています。再開するに当たっては、「やめた方がいい」という意見もあったが、「休止中に中村さんや阿部さんのご家族とも連絡を取っていたが、話をする中で改めてこの場は必要なんだということが確認できた」といい、新しい生活様式の中で改善しながら継続していくことを決めたそうです。
中村さん、阿部さんはmarugo-toの再開を待ちに待っていた当事者たちです。中村さんは「休止中は家でごろごろしていたが、marugo-toが再開して、水を得た魚のような気持ち」と喜びを表現。最後に、中村さんが作詞作曲したというmarugo-toの歌を、3人で披露し、周囲を和ませてくれました。

まとめ

最後に永田さんは、コロナの時代のまちづくりについて言及。「活動ができなかったことで悔しさ苦しさ、再開への希望などいろんな思いが渦巻いている。当事者たちにも今だからこそ伝えたいことがあるはずで、今はじっくりと声を集めることができるいい機会。そのプロセスが大事で、それをくみ上げて、これからのまちづくりに活かしてほしい」と、支援者たちにもエールを送りました。

繁田さんは、認知症の人も暮らし安い社会をつくるための活動をしている人たちに向けて「コロナが入ってきて、大きな変更が必要となっている。今までやってきたことを見直して、リセットするくらいの気持ちが必要。改めて本人に今までやってきたことが意味があったのか聞いてもいい。リセットしても積み上がってきたことは無にはならない」と呼びかけました。

最後に丹野さんが「コロナにかからないようにではなく、安心してコロナにかかれる社会。認知症にならないようにではなく、安心して認知症になれる社会。を私たち当事者の声を聴いて一緒に考えてくれる仲間をどんどん増やしていきたい」と締めくくりました。

みなさまから寄せられた感想

このフォーラムをご覧いただいたみなさまからも数多くの感想が寄せられました。

「認知症カフェの開催が出来ずに悩んでいましたが、大きなヒントを頂きました。参考にしたいと思います」(50代女性、福祉関係者)

「コロナでむしろチャレンジングな時代がきたと思います。『安心して認知症になれる、安心してコロナにかかれる社会』が印象に残りました」(50代女性、研究者)

「各地で認知症の方とともに活動されている方や当事者の方の参加もあり、大変参考になる部分がありました。何度も出てくる『当事者の方と話をする』を大切に、今後も考え活動していきたいと思います。まずは、一人の当事者が笑顔になることを!目指していきます。ありがとうございました!!」(40代女性、行政関係者)

「”新潟のmarugo-toの活動を見ながら、みなさんのお顔が輝いて見え、感動でした!自分自身もこれからどんな年の重ね方をするのか、不安もありますが、それ以上に、どんな状態になっても、過ごしていける地域づくりに一緒に関わっていけるように頑張りたいなあと思いました」(60代女性、医療関係者)


「認知症とともに生きるまち大賞」について

認知症の人も住み慣れた地域で、自分らしく暮らしていけるための活動を行っている団体を表彰するもの。今回リモート出演した道岸さんの所属する「若年性認知症の人と家族と寄り添いつむぐ会」は第2回で受賞、「marugo-to」は第3回で受賞しました。
それぞれの活動はこちらをご覧ください。
今年も現在募集中です。詳しくはこちらをご覧ください

丹野さん、繁田さんがラジオに出演

フォーラムにご出演いただいた、丹野さん、繁田さんがラジオに出演する予定です。
「NHKジャーナル」午後10時~ ラジオ第1
・9月9日(水曜日)丹野 智文さん「ジャーナル医療健康」“コロナ禍 本人同士で支えある認知症”
16日午後11時5分まで聞き逃し配信中です。

・9月16日(水曜日)繁田 雅弘さん「ジャーナル医療健康」世界アルツハイマーデー 認知症ケアの今

詳しくはNHKジャーナルのページをご覧ください

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