「わが町のインクルーシブ防災・ワークショップin石巻」を開催しました
公開日:2018年3月3日
2月12日(月・祝)宮城県石巻市の上釜会館で、「わが町のインクルーシブ防災・ワークショップ」を開催しました。
上釜会館のある石巻市上釜地区は、東日本大震災で発生した津波によって、多くの命が失われた地域です。この地域の皆さんや障害のある人など40人ほどが集まり、災害などのときに、障害のある人や高齢者、子どもや妊産婦などのいわゆる「災害弱者」だけではなく、地域にいるみんなの命を守るにはどうしたらいいのかを考えました。
ワークショップは2部構成で行いました。1部は石巻市や福島・南相馬市で被災した方の経験談、2部では数人のグループに分かれての意見交換です。
地域みんなのつながりが命をつなぐ
1部では、まず石巻市在住の新田理恵さんと次女・綾女(あやめ)さんが避難生活で感じたことを語りました。綾女さんは重症心身障害のため、たんの吸引などの医療的ケアが欠かせません。避難生活では吸引機につかう電気の確保、薬や栄養剤の不足など、綾女さんの命に直結する問題がたくさんありました。そんな中で新田さん親子を救ったのは、友人知人や近隣の支援でした。人とのつながりで命をつなぎとめることができたと感じた新田さんは、地域のつながりをつくるために「おたがいさまの会」を結成。歌声サロンや世界の料理を味わう会などを開催し、地域の皆さんが気軽に集える活動をしています。
新田さんは、「災害から命を守るためには地域で支え合い、助け合う関係がとても大事です。そのためにも、障害のある人でも高齢者でも、誰でも地域で役割をもって生きていけるつながりを作っていきたい」と話されました。
続いて福島・南相馬市の青田由幸さんが、災害時には避難できない「災害弱者」の現状を話しました。青田さんは南相馬市で障害のある人の日中活動や就労支援を行っています。東日本大震災では、南相馬市は地震・津波の被害に加えて原発事故のために市民に避難を促しました。しかし、障害のある人や高齢者などは避難することができませんでした。そのような人々を青田さんたちが支え続けてきました。
青田さんは緊急時の要援護者を救うには「要援護者名簿」の活用が有効と言いますが、それだけでは不十分とも言います。青田さんは、「名簿はあくまで支援がなければ逃げられない人を把握するためのもの。どう活用するかは地域にいる皆さんの課題」と訴えました。
多くの選択肢を知る–クロスロードゲーム
2部の意見交換はクロスロードゲームという手法を用いました。名古屋の社会福祉法人AJU自立の家・わだちコンピュータハウス所長の水谷真さんの進行のもと、1グループ6人ほどに分かれて、「歩いて30分の指定避難所まで歩いて避難するか?」「連絡の取れない障害者の知人の安否確認に、自力で市街地を回るか?」などの設問を一人一人YESかNOで答えます。そして、なぜYESなのか、NOなのかをそれぞれが意見を出しあいました。他の人の意見を聞いて、最初の判断を変える人も。
水谷さんは、「どの意見も正解・間違いではなく、たくさんの意見を聞くことで、たくさんの選択肢が見えてくる。多くの選択肢を知っていると、いざという時により良い選択ができる」とクロスロードゲームの意義を伝えました。
参加者からは、「障害のある家族がいる人は本当に大変な事がいっぱいあることが分かった。避難所のあり方を考えさせられた」、「様々な状況で自分たちがどう判断するか、日常の生活の中で改めて考えることがないので、考える機会を持つことができてとてもよかった」、「震災からまもなく7年、正直防災への思いが薄れていたが、改めて思い起こせた」といった感想が寄せられました。
自然災害だけでなく大火災など災害のリスクはどこにでもあります。しかし、いかなる場合においても、誰の命もかけがえのないものです。NHK厚生文化事業団では今後も「インクルーシブ防災」を考える取り組みを広げていきたいと考えています。