今回ご紹介するのは、「アール・ド・ヴィーヴル」(神奈川・小田原市)の大槻 陽人(おおつき・はると)さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……大槻 陽人

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

大槻陽人《花》

大槻陽人は神奈川県小田原市にある福祉事業所「アール・ド・ヴィーヴル」に通っている。通い始めた頃からクレヨンを使って絵を描いていた。隅から隅までみっちり塗りこめたその塗りの厚みに驚いた記憶がある。花、植物、風景、人、自分で好きな写真を選んでそれをモチーフに描くこともあれば、家族や支援員のリクエストに応えて描くこともある。画用紙にクレヨンや鉛筆やマーカー、キャンバスにアクリル絵具やマーカーなど、さまざまな画材をミックスして使い、下描きから色塗りまでたいてい一気に描き上げる。鮮やかな色彩、大胆なデフォルメ、ダイナミックな構図がユニークでオリジナルな表現を作り上げている。

今回紹介するのは黒のラインが印象的な《花》。赤と緑の補色の対比、そして強い筆圧でぐいぐいと描く太い葉脈のような黒のライン。タッチと線のスピード感がリズミカルで身体感覚を呼び覚ます。黒の輪郭線はときに塗り絵のような息苦しさを感じさせるものだが、大槻の作品にはそれがない。風通しがよく透明感がある。クレヨンの色彩はタッチの質感と混色によって単なる塗りつぶしではない複雑な表情を生んでいる。一見しただけではなにが描いてあるかわからないほどに抽象化されて見える、ためらいのない思い切ったデフォルメとトリミングによる強い画面。虫眼鏡で覗いたように細部のイメージを広げていく方法は、表現の方向性は異なるが、“花”の部分を拡大して描いたG・オキーフの絵画を想起させる。

大槻は発達障害の特性がある。言葉でのコミュニケーションは可能だが言葉数は多くない。絵の中には彼の気持ちや状態がよく表れていて、なにか心配ごとがあったり体の調子が悪いようなときには、黒のボリュームが増える。その時の心性がそのまま画面に反映している。
“バイクを描いて”とオファーを受けて描いたのが、バイクの“ヘッドライトだけ”だったことがある。なんど頼まれてもやはり同じようにライトの部分だけしか描かなかったそうだ。興味があるところ一点に引き寄せられて集中することがよくわかるエピソードだ。

*大槻陽人の作品が展示されます。
アール・ド・ヴィーヴル展「自分らしく生きる15」

開催期間:2024年10月9日(水)〜14日(月・祝)
開館時間:10:00〜18:00(最終日16:00まで)
会場:ギャラリーNEW新九郎(神奈川県小田原市中里208 小田原ダイナシティWEST MALL 4F)
詳しくはアール・ド・ヴィーヴルのホームページをご覧ください。(NHK HEARTSのサイトを離れます)


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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