今回ご紹介するのは、「アーピカル☆」(大阪市)の明島 邦章(あけじま・くにあき)さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……明島 邦章

彼は「Mr.アーピカル☆」。オープンアトリエ「アーピカル☆」が、「アーピカル☆」になる前の時代からのメンバーで、一番長く通い続けてくれている明島くん。彼がいたから「アーピカル☆」は始まり、続いてきたと言ってもいい存在です。彼にとって「アーピカル☆」は無くてはならない場所で、1か月間「アーピカル☆」を楽しみに過ごし、いつも一番乗りで元気に通ってきます。
「アーピカル☆」が始まって以来、活動中のBGMは、彼がCDを持参してかけてくれる勤め先の社長直伝の渋いJAZZ (J・コルトレーンやグレン・ミラー)。「アーピカル☆」にとっても、ムードメーカーの明島くんは無くてはならない存在なのです。(アーピカル☆・岡崎潤)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

明島 邦章《大阪市交通局地下鉄路線ご案内2013年春号》
大阪は平野にある障害がある人達のためのオープンアトリエ「アーピカル☆」。J・コルトレーンの音楽がループで流れる空間のなかで、メンバーは自由に個々の制作をしている。一番手前の机で黙々と地下鉄のシンボルマークを描いている人、それが明島 邦章だった。

電車の路線図を描きだしたのは高校生くらいから。旅行雑誌の中の路線図や大阪市営地下鉄配布の路線図がお手本だ。なぜ大阪の地下鉄なのか?母親によれば明島は「大阪をこよなく愛している」から。ただし近鉄は範囲が広くてややこしいから描かないらしい。製作時間は2~3日程度。ほかに東京の路線図もあるが、そちらの制作時間は1週間ほどだそう。

今回紹介する作品は《大阪市交通局地下鉄路線ご案内2013年春号》。
新しい時刻表を手に入れるたびに路線図を確認し、駅名だけでなく駅番号ももれなく丁寧に描き込み、全線全駅数、全長キロ数、制作年などのデータも詳細に記入する。路線全体が入るように途中で紙をテープで継ぎ貼りして広げていく。
路線図は彼にとっての世界の原型、モデルそのものなのではないか。電車は規則正しく決まった時間に来るもの、変わらないもの、信頼し安心できるものとして存在し、路線図は信頼できる世界の象徴として明島によって表現されている気がするのだ。

「アーピカル☆」は19年前、大阪市の「市民バリアフリー絵画教室」として始まり、2年後に代表の岡崎潤さんと前田美直子さんに引き継がれ現在に至る。明島は数少ない最初からのメンバーで、自閉スペクトラム症という特性がある。一般就労でプラスティック加工会社に勤め、その社長さんが、絵を描くのが好きな明島に教室を紹介したそうだ。「アーピカル☆」で描くのは、花・風景・建物・人物などのオーソドックスなモチーフが多い。検索画像をベースにした作品のほか、「レモンメロン」「グレンミラーレモン」といった不可思議なものもある。制作の合い間の息抜きに描いた新聞紙ペイントがまた傑作で、じつはこれが一番好きな作品だ。路線図の絵は自宅でしか描かないそうだ。鉄道関係のユニークな作品はほかにもいろいろある。さまざまな制作を場所と機会で分けながら多様な表現を生み出す明島。すべての制作が大切で必要なもの。あらためて人は多面体だということを感じる。

*明島邦章の作品を見ることができます。
「BiG-i×Bunkamura アートプロジェクト 第1回受賞・入選作品展」

開催期間:2024年8月30日(金)~9月9日(月)
開館時間:11:00~20:00
会場:Bunkamura Gallery 8/ (渋谷ヒカリエ8F)  東京都渋谷区渋谷2-21-1
詳しくは「BiG-i×Bunkamura アートプロジェクト 第1回受賞・入選作品展」特設ページをご覧ください。(NHK HEARTSのサイトを離れます)


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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