川上 建次「流血雄也」HEARTS & ARTS VOL.24
公開日:2021年8月2日
今回ご紹介するのは、希望の園(三重・松阪市)の川上 建次さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。
作者紹介……川上 建次(かわかみ・けんじ)さん
川上さんが子どもの頃は就学の義務がなく、「就学猶予」という名目で小学校の中学年になると学校に通えなくなりました。その後、養護学校を受験するも不合格となり、約30年間を在宅ですごし、1997年、43歳で希望の園に通所するようになったのです。
在宅時代は好きで買ったレコードのジャケットの上から鉛筆でさらに絵を加えたりしながら、たった一人で自分の世界を創ってきたようです。
希望の園で描くようになってからはアクリル絵具を厚く塗るような作品を描くようになり、2000年から油彩画を始めました。
絵筆に盛られた絵の具でF100号(1,620㎜×1,303㎜)の大きなキャンバスにベチョベチョと贅沢に色を塗りつけることが快感であり、ゲラゲラ笑いながら、夢中で描いています。
作品のテーマは大好きな希望の園の仲間であったり、スタッフであったり、幼少時代の思い出であったり、また現在の仲間たちが過去の思い出の場面に登場したりと様々です。(希望の園・村林真哉)
キュレーターより 《中津川 浩章さん》
「川上建次の絵画」
初めて川上の作品を見た時は本当に驚いた。
ラフで荒々しい筆致、刻み込むような力強いタッチ、深く鮮やかな色彩、激しい色の対比、奔放な混色、自由で大胆な構図。強烈なパッション。ついに待ち望んでいた作品が現れたと。
1980年代に世界のアートシーンを瞬く間に席巻したニューペインティングと呼ばれる現代絵画の様式がある。20世紀初頭の表現主義的なアプローチが現代的意匠をまとって登場したスタイルで、新表現主義とも呼ばれる。川上の作品スタイルはこれと非常に高い類似性がある。表現主義やニューペインティングの画家たちも本当はこのように描きたかったのではないかと思わせる力に満ちた絵画だ。
川上が「希望の園」に通い出したのは1997年。それ以前から描くことは好きで、家ではレコードのジャケットに自分で絵を描いていたらしい。
音楽が大好きで、アトリエでも70年代アニメソングや加山雄三、井上順などの昭和歌謡を聴いている。燃えてくると時に声を上げ歌いながらご機嫌で制作するという。
初めの頃は紙にアクリル絵具をペタペタと塗り付けていた。その様子を見ていたスタッフが彼に油絵具を勧めてみた。キャンバスに油彩のほうが向いているのではないかと。それが見事にはまった。すごい作品がガンガン生まれてきたのだ。
化け物や怪物や幽霊、仮面ライダーの怪人たち、川上の作品『流血雄也』の真っ赤な血糊。怖くて恐ろしいグロテスクなイメージに、川上はなぜか強く魅せられ惹かれている。
血のように濃い赤の色使いは川上作品の印象的な特徴だ。さらには目、口、歯といったパーツへの執着とこだわりが目を引く。その部分は特に細い筆を使って何度も何度も塗り重ねられているのだ。
大きな目玉や剝き出しの歯のイメージは原始美術を思わせる強いインパクトがある。人と動物が合体して生み出されるハイブリットで呪術的なイメージ。サブカルチャーとオーソドックスな絵画が結び付いて生まれる新しい異形のイメージ。川上建次はまさしく現代の神話を描く画家の一人だ。
プロフィール
中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)
記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。
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