森 雅樹「樹液」HEARTS & ARTS VOL.5
公開日:2020年10月22日
今回ご紹介するのは、やまなみ工房(滋賀県甲賀市)の森 雅樹さんの作品「樹液」です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。
作者紹介……森 雅樹(もり・まさき)さん
森雅樹さんより直筆のメッセージをいただきましたので、ご紹介します。
My Favorite Things(マイ・フェイヴァリット・シングス/私のお気に入り)
片側だけが暗雲が立ち込める青空。カードキャプターさくらと日野日出志作品を脳内で交互に貼り込み、高速で常にシャッフルされる天国と地獄がループする狭間。何気ない場所への愛。今は無い生家の庭。記憶への愛。ビルの屋上。楳図かずお。冬の日の劇的な雲。植物の生い茂る空地。日本庭園。裏路地。ハンス・ベルメールからサイケデリックロックを繋ぐ宮西計三の存在。灰野敬二。裸のラリーズと邦楽の地歌のもつアナーキーな空間の類似性。サミュエル・R・ディレーニとJ・G・バラードの感性。猫。そして、全ての軛(くびき)から解き放たれた音楽的身体。
キュレーターより 《中津川 浩章さん》
静ひつでノイジーな空間、潜在意識とのダイアローグ、アンリ・ミショーやアンドレ・マッソンをほうふつさせる線やイメージがなまめかしくアグレッシブな感覚を呼びさます森雅樹の絵画。
名古屋のデザイン専門学校在学中から現代音楽や前衛ロック、シュルレアリスム文学や美術に惹かれ親しみ、制作もしていた。
森はその頃に精神の病を発症。かなり苦しんだという。
そして4年前、彼はアート活動が盛んな障害者福祉施設やまなみ工房に通うために、愛知から滋賀へと引っ越す。以来、制作に没頭する日々を送るようになった。
やまなみ工房のアトリエではいつもヘッドホンで音楽を聴きながら制作している。
お気に入りのアバンギャルドミュージックから着想を得て、鉛筆の使い方を工夫し、さまざまな新しい線の表情を作り出す。描くことに没入することによって、不安から解放されるという。
彼が最も影響を受けたというフランスの詩人アントナン・アルトーは、思考することの不可能性を「思考の腐蝕」と呼び、「器官なき身体」だけが真に思考することができると書いた。
その言葉は森が描く行為そのものと深い場所でつながっている。デジタル感覚と触覚的感覚を結び付け、新しい視覚言語を作り出し、人間という存在の原質について探りつづける行為。
森の作品を見ていると、アールブリュットや障害者アートというカテゴリーはほとんど無意味である。現代のシュルレアリスムのアーティストの一人として彼を価値づけることが必要だと思う。
プロフィール
中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)
記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。