土谷 紘加「COLORNY」 HEARTS & ARTS VOL.144
公開日:2026年5月7日

今回ご紹介するのは、「アトリエコーナス」(大阪市)の土谷 紘加さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。
作者紹介……土谷 紘加(つちたに ひろか)
まずは、土谷さんの所属する「アトリエコーナス」からのメッセージをご紹介します。
エネルギッシュで好奇心旺盛で、好きなものがいっぱいの土谷さん。
楽しいことがあった日は鼻歌を歌い、悲しいことがあった日は心を落ち着けるように黙々とビーズを並べる。制作は彼女にとって気持ちの切り替えにもなっており、ざわついた心も制作を始めると次第にと落ち着いていく。また完成した作品にアイスのフレーバー名をつけ、色々な人に見せていくことでコミュニケーション手段の一つとなっている。
単色で均等に並べたり、一粒だけ色を変えたり、まだら模様にしたり、フレームのように中央をあけたり、ビーズがドロドロになるまで熱を加えたり、大胆に土台にビーズを盛ったものをアイロンで押し潰して固めたり…。14×14cmという限られた世界の中で、土谷さんは無限の作品を生み出していく。
似た作品はあっても、同じものは一つとしてない。 常に彼女の隣にある作品は日記のようで、土谷紘加の日常がぎっしりと詰まっている。
(アトリエコーナス 笠松)
キュレーターより 《中津川 浩章さん》
土谷 紘加「COLORNY」
前回に続いて今回もビーズを使った作品を紹介したい。
初めて土谷紘加の作品を見たのは、スターバックスコーヒーのマゼコゼアートプロジェクトの作品調査で大阪阿倍野の共立通にあるアトリエコーナスに行ったときだ。二階の作品庫で所属メンバーの作品を見せてもらったなかに、アイロンビーズの奇妙な作品があった。カラフルなキャンディみたいなポップな感覚。見ていてハッピーな気持ちになる。土谷の作品はその後でキュレーションを担当した大阪ルクアイーレでの展覧会「about me6」でも展示することになった。
「COLORNY」(カラニー)は、「COLOR」(色彩)と「COLONY」(群体)を合わせた造語で、スタッフが名付けたという。「COLORNY」はベースになるプレートにビーズを並べ、それをアイロンで溶かして作品にしていく。シンプルな構成とカラフルで思いがけない色の組み合わせが魅力的だ。規則正しく並んでみえるビーズの穴は「0」か「1」かの組み合わせが連なっているようなデジタルなニュアンスがある。一方でそれがアイロンの熱で溶かされたときに生まれる別の新しい生命体のようなかたち。デジタルな感覚と有機的な感覚が融合して現れるところがおもしろい。
土谷は支援学校時代にもアイロンビーズに触れたことはあったらしい。その話を聞いてスタッフが土谷に制作をすすめてみた。それがピタリとはまった。2015年から約11年、今も毎日アイロンビーズ制作をしている。施設では材料や使い方の調整や片付けなどのフォローはしているがアートの指導は特にはおこなっていない。ビーズの選択から準備、アイロンの圧着、片付けなどもすべて土谷が自分でしているという。
総数5000点にものぼる作品は、30〜100点くらいずつ段ボールの箱に収納。作品の色によって土谷は、白/青系を「スーパーカップバニラ」、赤系を「ストロベリー」、緑系を「抹茶」、モノクロ系を「黒ごま」とアイスのフレーバーに例えて呼ぶ。複数色を使った作品ならフレーバーもいくつか組み合わせたものになるそうだ。
土谷は自閉症という特性がある。ふだんからエネルギッシュで何事にも積極的で、ダンスや運動もしている。「ビーズします」「アートします」「行きません」言葉のコミュニケーションはシンプルだが、こちらの話すことはわかっている。月に一度のアートワークショップでは絵も描く。鳥や動物などモチーフの色彩はやはりビビッドで、アイロンビーズの色彩に近い。ビーズの構成作業のデジタルでグラフィックな抽象性、その規則性とルーティン的な行為というところも、土谷の特性に合っているように感じる。障害がある人の特性と素材や技法が適切にマッチングするかどうかは、その人の表現活動がどう展開していくかに関わる大事なポイントだとあらためて思う。
プロフィール
中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)
記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。
これまでのHEARTS & ARTSは、こちらのページでご覧いただけます。

土谷紘加さん
展覧会「about me6」の会場に展示された作品と土谷さん
展覧会「about me6」での展示


作品を収められている数々の箱
絵を描いている土谷さん
