2014年9月27日
認知症フォーラム「あきらめない」奈良市で開催しました
9月27日(土曜日)、奈良県奈良市「なら100年ホール」で、認知症フォーラム「あきらめない-最新医療と社会の支え-」を開催しました。
当日は約800名が来場、聴講されました。認知症になっても住み慣れた地域で安心して暮らせるようにするにはどうしたらいいか、進歩する医療情報や治療、地域での介護支援の取り組みについて話し合いました。
出演は、
- 平井 基陽氏(ひらい もとはる) 医療法人鴻池会・秋津鴻池病院理事長 精神科医
- 芳野 正裕氏(ほうの まさひろ) 多機能型介護ホーム 芝の里 ホーム長
- 亀井 明氏(かめい あきら) 認知症の人と家族の会 奈良県支部 介護家族
司会は、
- 町永 俊雄(まちなが としお) 福祉ジャーナリスト/元NHK「福祉ネットワーク」キャスター
です。出演者のプロフィールは、こちらをご覧ください。
認知症の基本知識と治療について
第1部は平井医師が、認知症とはどんな病気か、脳の中ではどんなことが起きているのかをMRI画像を使用して、診察や問診ではどのようなことをするのかを簡単な認知機能テストをおりまぜ、わかりやすく説明しました。次に治療薬の効果と副作用、そして薬を使わない治療法、音楽療法について話がありました。「薬の効果で認知機能が保たれ、活性化している時に、趣味や好きな活動、例えば運動や音楽療法で、進行を遅らせる効果があります」ということでした。そして実際に音楽療法で穏やかに暮らせるようになったアルツハイマ-型認知症の方の様子を映像で紹介しました。この方は認知症の人と家族の会の亀井さんの奥様で、認知症の診断当時は、夫としては、なかなか受け入れることができなかったそうです。亀井さんは当時を振り返って「一番つらい思いをしていた本人の気持ちにもっと寄り添い、安心させてあげられるような言葉をかけられなかったのかと後悔しています。」と話されました。今は薬と音楽療法で、少しずつ生活に笑顔が戻ってきているそうです。「妻が笑顔になってくれると私も笑顔になります」と話されました。
次に多機能型介護ホームを運営されている芳野さんから、介護の専門家の立場で話がありました。医療が日々進歩する中でも、認知症には介護に困難をきたす様々な症状があります。芳野さんは「認知症の方は自分で不快な原因を言葉にできない場合もありますので、まずは介護者が、毎日の生活の様子などから、不快な原因となるヒントを見つけ、症状を正しく理解できるようにしています。そして適切な接し方ができるようにして、ご本人が過ごしやすい環境を整えるようにしています」と話されました。在宅を見据えて
第2部では、芳野さんの多機能型介護ホームに入所された84歳の女性の様子を映像で紹介しました。入った当初は、昼夜逆転した生活で、怒りっぽく、「毒が入っている」と発言したり、施設のスタッフも困っていました。介護にあたる職員が集まり、カンファレンスの結果、「恐らく入所されたことを、理解できず、なんでここにいるのか、不安が大きいのではないか」と考え、まずは安心して日常の当たり前の生活を過ごしてもらえるようにしよう、とケアの目標をみんなで共有し、接していくことにしました。食事を一緒にとったり、これまでの彼女の人生を理解し接することに努めました。すると少しずつ、怒りっぽいところがなくなり、スタッフとも会話ができるようになり、症状が安定してきました。「どうですか、今日の食事は?」というと、「まあまあやな」という返事が返ってきました。さらに、彼女は自力で歩く力が残っていると考えた芳野さんらは、一人で立ち、歩けるようにリハビリを進めていきました。介助があれば少しずつ歩けるようになり、前向きな意欲がでて「家に帰りたい」という気持ちが芽生えてきたそうです。ご主人の介護負担を考慮すると、すぐには自宅には戻れませんが、いつの日かまた自宅で過ごせるように芳野さんらはケアを進めています。
地域の支え合い--大塔町の取り組みについて
フォーラムの最後のテーマは、地域の支え合いです。高齢者や認知症の方のその人らしい暮らしを実現するには、医療やケアの充実だけではなく、地域の支え合いも重要です。奈良県五條市大塔町(おおとうちょう)では、地域包括支援センターが中心となり、高齢者や認知症の人が安心して暮らせるよう、郵便局、消防、医療、住民ボランティアなど、地域のネットワークの構築を呼びかけました。孤立しないですむ地域を目指して活動を開始した様子を映像で紹介しました。
来場者へのアンケートでは、「映像も交えながらの説明だったので、分かりやすかった」、「あきらめないという大切さを実感しました」、「医療、介護、社会のそれぞれの立場の話が聞けて良かった」など感想をいただきました。
出演者プロフィール
平井 基陽(ひらいもとはる) (医療法人鴻池会・秋津鴻池病院理事長精神科医)
1972年に山口大学医学部を卒業後、大阪大学で神経薬理の研究に従事。その後、奈良県立医科大学精神科に勤務。この頃から、県内保健所の認知症高齢者の巡回訪問事業にかかわる。1990年に現在の病院の院長に就任し、1997年より現職。また、2009年より認知症疾患医療センター長を兼務し、物忘れ外来を担当している。医療法人の基本方針として、認知症の総合ケアとリハビリテーションの充実を掲げ、認知症の人と家族の想いを共有することに努めている。
芳野 正裕(ほうのまさひろ) (多機能型介護ホーム 芝の里 ホーム長)
2008年、地域で困っている人を助けたいという思いを抱き、小規模多機能型居宅介護事業所を立ち上げた。これまで多くの認知症の方を看取り、介護は人と人との結びつきが大切なことを学んだ。現在は、県内の介護関連グループの講習会などで小規模多機能型居宅介護の良さを積極的に伝えている。また、音楽活動を通じて、認知症の啓発に取り組んでいる。介護福祉士、介護支援専門員、認知症介護指導者。
亀井 明(かめいあきら) (認知症の人と家族の会 奈良県支部 介護家族)
2003年頃、当時ケアマネジヤーの妻がケアプランをたてられない、慣れた道を間違えるなど異変が現れ始めた。 2006年アルツハイマー型認知症と診断を受けるも、周囲に相談できない辛い日々が続い た。2007年に家族会を知り入会。同じ悩みを持つ仲間と出会えたおかげで気持ちが安定した。現在はデイサービス・ショートステイを利用したり、リハビリとして音楽療法を受けている。持病の不安を抱えながら、一日一日を慈しみ在宅介護を続けている。