2011年11月 5日
「子育てフォーラム--あなたの子育て応援します」を東京で開催しました。
11月5日(土曜日)、東京都港区のニッショーホールで、「子育てフォーラム--あなたの子育て応援します」を開催しました。
ご登壇いただいたのは、恵泉女学園大学院教授の大日向 雅美さん、白梅学園大学学長の汐見 稔幸さん、タレントで3児の父でもあるセイン・カミュさんの3人です。
第1部では、育児ストレスが生じる背景やメカニズムを分かりやすく解説していただき、第2部では、参加者から寄せられた質問や疑問に答えながら、育児ストレスを軽減・予防するために、各地で実際に行われている取り組みを紹介しました。
第1部:育児ストレスとは何か
今の時代の育児ストレスの大きな要因は“孤育て”
今回、パネリストとして登壇していただいた3人の皆さんは、いずれも自ら子どもを育ててきた経験をお持ちです。「汐見先生はイクメンの第一世代、セインさんは第三世代くらいかな?」などと、それぞれが子育てに悩んだ経験談から、お話が始まりました。
まず、大日向さんから、昔より子どもの数は少なくなっているのに、子育てがつらくなっているのはなぜか?という問題提起がありました。そして、「少ない子どもを一生懸命完璧に育てようと、お母さん方が孤軍奮闘している」状況が、育児ストレスを生み、子どもの虐待につながる可能性があるとの指摘がありました。
虐待には、「身体的虐待(殴る、傷つけるなど)」、「ネグレクト(育児放棄)」、「心理的虐待(心を傷つける言葉かけ・無視)」、そして「性的虐待」の4区分があります。気を付けなくてはいけないのが、その"程度"だと、大日向さんは言います。
レッドゾーンは、児童相談所が強制的に介入して、親子を分離して子どもの命を守る必要があるレベル。イエローゾーンは、問題を重症化しないために、さまざまな専門職が連携して支援できるレベル。これらは、本当に支援が不可欠なゾーンです。
一番多いグレーゾーンは、育児に困難や不安を抱えていて、虐待の発生・進行の予防が必要なレベルで、これは誰でもなる可能性があります。育児ストレスが強い状態は、このグレーゾーンにあたるということです。
これを受けて、汐見さんからは、「人間は誰もが、状況次第では攻撃性を出してしまう動物であるということを認めなければいけない」というお話がありました。そして、「その『虐待スイッチ』を防ぐには、自分が人間として大事にされているという感覚をもてるかどうかということにかかっている」として、1980年代の大阪と2003年の兵庫の子育てに関する調査結果が紹介されました。
この調査結果から、
- 子どもが大きくなっても、子育ては楽にならない
- 自分の子どもが生まれて、はじめて赤ちゃんと接した親が多い
- しかし、ふだん子育てについて相談できる人が周りにいない
といったことがわかります。こうしたことから、育児への不安が強くなり、ちょっとしたことから「虐待スイッチ」が入りやすくなるという解説がありました。
大日向さんは、母親の“孤育て”には、父親のありかたも影響していると指摘しています。孤立を防ぐためには夫婦のコミュニケーションが大切ですが、労働時間が長いために父親が平日に育児・家事に関わる時間は1日1時間程度しかないそうです。
セインさん、汐見さんからは「週3日、お父さんとして子どもに関わろう」、「家庭に『お父さんの仕事』を作ろう」、「夫婦が会話する時間を確保しよう」といった提案がありました。
ストレスを軽減する子どもへの言葉かけ
子どもが言うことを聞いてくれない、親に余裕がない。イライラしてしまうとき、ちょっとした言葉の掛け方で子どもも自分も楽になる――そんな言葉かけのポイントをうかがいました。
汐見さんは、"子どもに何かさせようとするならば、選択肢を与えること"が効果的だと言います。また、子どもの言動を頭から否定せず、なるべく肯定的に言うことがいいそうです。
大日向さんは、ご自身のお子さんがかんしゃくを起こしたときに、「かんしゃく虫さんを退治しよう」とピンセットでとる真似をして成功したという例を紹介して、"儀式化"することで怒らずに対処できるというお話をされました。
セインさんが教えてくれたのは、最近とても効果があったという“CCQ”(Calm:落ち着いて、cool:冷静にクールに、quiet:静かに)作戦です。
「テレビをみている子どもの耳元で『宿題やったの?』とささやくんです。怒りもせず、落ち着いて。子どもはハッとなるみたいで、もう一度と聞くと、まだだと。『じゃあやった方がいいんじゃないかな』と言って、『みおわった後で宿題をやるか、宿題やってからみるか、どっちにする?』とチョイスをあたえるんです。そうすると、『みてからします…』って。『じゃ、必ず終わったらやるんだよ』って言ったら、ちゃんと終わってから宿題やったんです」
と、怒らずに子どもに注意することができた成功例をユーモアたっぷりに話されました。そして皆さんが一致したのは、子どもは一人一人性格が違うので、どういう言い方がその子に効果的か、よく観察して試してみることが必要だと言うことでした。
第2部:参加者の質問に答えて・子育て支援の各地の取り組み
冒頭、休憩中に参加者から受け付けた質問の中から、大日向さんと汐見さんに、4つ答えていただきました。
質問に答えて
- 子育て支援が不十分だとクレームをつける人もいますが?
支援が"足りない"と思うことは、率直に仰ったほうがいいと思います。ただ、「こういうふうにしてほしい」と言うのと同時に、「ありがとう」という言葉が必要です。支える側も支えられる側も、"お互い様"の心を持って、当事者のストレスを分かち合う気持ちでやっていただければと思います。(大日向さん) - 今日のような講座に参加するにも、子どもを預けるのが少し後ろめたいです。
特に専業主婦のお母さんは、一人の時間を作るのが後ろめたいと思うようです。あるお母さんは1か月に1回、夫が喫茶店に行かせてくれるそうです。贅沢だなと思ってコーヒーを飲んで帰ると、夫が赤ちゃんに「ママ、気持ちが悪いほど優しくなって帰ってきたよ」って言うのだそうです。子どもを本当にかわいく思えるための投資だと思って、後ろめたさを感じることなく、"この子を大事に思うために、私には一人の時間が大切なんだ"と、胸を張って預けていただきたいと思います。(大日向さん)
"たまには子どもも親から離れたほうがいい"という事もあります。離れることで、親と一緒にいるとできないことをいっぱい体験して、社会性が訓練されていきます。親が一人になる時間があった方がいいと同時に、子どもにとっても親から離れて違う体験をする時間があっていい。ぜひ時には離れてみてください。(汐見さん) - "父親としてこうしてほしい"と夫にうまく伝えるにはどうしたらいいのでしょう?
「あなたも××しなきゃいけないでしょ!」などと、仕事を一つ増やすような言い方はしない。お父さんが子どもに関心を持てるように、「あ、喜んでるよ」とか、ちょっとしたことを大げさに言う。お父さんが子どもに接する場面を作る。それでダメならば、親しい友達から言ってもらったり、友達と一緒に遊びに行って、「うちもあんなことしたいね」と、その気にさせる、など(笑)。
できたら、あまり責めるのではなく、喜んでその気にさせる工夫をしてほしいと思います。(汐見さん) - 友人のお孫さんがお父さんに虐待を受けているように見受けられます。
(虐待されているのではないかと)思っているその人が直接行動すると、あまり上手くいかなかったりします。友達の親に相談するなどして、わたしだけが心配しているのではない、こういうふうに言っている人が周りに他にもいるんだ、となると、関係者も動きやすくなります。“わたしが介入する”のでなく、“専門家に入ってもらうためにつなげていく”というやり方しかないように思います。近くに、虐待防止センターのようなところがあれば、まずは相談してほしいですね。(汐見さん)
質問への回答・助言に続いて、虐待防止や子育て支援に関する自治体の取り組みや、親たちが自ら取り組んでいる個性的な育児サークルをVTRで紹介しました。
VTRを受けて、子育て支援の課題や、これからの在り方についての議論がありました。
汐見さんは、「人類の歴史上、子どもが親の手だけで育てられた時代は一度もない」という話を踏まえて、赤ちゃんを育てている人と、リタイアしてこれからどう過ごそうか思っている人たちが、いつも交流できるような場を作っていくこと、「子育て家族の支援」から「子育て地域づくり」という方向に発展していかなければならないと、今後の子育て支援の在り方を提案しました。
大日向さんは、支援する側とされる側の気持ちに触れて、支援者は相手と喜びや悲しみを分かち合う姿勢を、子育て中の人は子どもがいるからこそ「親になれた、出会いが得られた」と感謝する気持ちを、それぞれ大切にしてほしいというお話がありました。
子育て中のお父さんお母さんへ
フォーラムの締めくくりには、出演者から子育て中の人たちへのメッセージをいただきました。
「今しかないと思って、子どもを愛してあげるということと、そして楽しんだもの勝ちだと(笑)。今しかないこの時間を大切にするのが子どもにとっても、自分にとっても良いことだし、社会にとっても一番良いことなのかなと思います」(セインさん)
「助けてくださいと言ったり、助けてもらったらありがとうと言う。そうすることで親も一つ一つ大きくなれるんだって思います。黙って待つのではなく、大変なときは『助けて』と声に出す。地域には手を差し伸べたいという人がたくさんいると信じて、人間関係能力を磨くつもりで、甘え上手になっていただけたらと思います」(大日向さん)
「どこもみんな子育てを応援してくれる、というような社会にならないといけない。そのためには、地域のおじいちゃん・おばあちゃんも子どもたちのことをみんな知っている、そういう社会を作っていかなければならない。そういう意味で、子育て支援の拠点を作ったら、それは一つの出発点で、それを広げていくということがこれからの課題だと思います」(汐見さん)
出演者
大日向 雅美(おおひなた・まさみ)(恵泉女学園大学大学院平和学研究科 教授)お茶の水女子大学・同大学院修士課程、東京都立大学大学院博士課程修了。学術博士。1970年代初頭より、母親の育児ストレスや育児不安の研究に取り組む。2003年より、子育てひろば<あい・ぽーと>の施設長として、社会や地域の皆で子育てを支える活動にも従事。
汐見 稔幸(しおみ・としゆき)(東京大学名誉教授 白梅学園大学学長)1947年生まれ。東京大学教育学部卒、同大学院博士課程修了。 東京大学大学院教育学研究科教授を経て、2007年10月から白梅学園大学学長。 専門は教育学、教育人間学、育児学。育児学や保育学を総合的な人間学ととらえる。 また3人の子どもを育てた体験から、父親の育児参加を呼びかけている。
セイン・カミュ(タレント)1970年アメリカ・ニューヨーク州生まれ。父の仕事の関係で、幼少期から 日本をはじめ世界各地で暮らす。大叔父にノーベル文学賞作家アルベール・カミュを持つ。 2003年から2005年、NHK「すくすく子育て」司会者。3児の父として子育てに関する発言も多く、著書に「ザ・イクメン!」など。
主催
NHK厚生文化事業団
後援
厚生労働省、東京都、NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク
協賛
フィリップ モリス ジャパン 株式会社