2009年6月11日
認知症フォーラム「寄りそう心 支える社会--最新治療と回想法--」(愛知・名古屋市)
NHK認知症キャンペーンの一環として、認知症フォーラム「寄りそう心 支える社会 〜最新治療と回想法〜」を、6月11日、愛知県名古屋市のウィルあいちで開催しました。773人の来場者が、認知症への理解を深めました。
出演は、遠藤 英俊さん(国立長寿医療センター 包括診療部長)、秋田谷 一さん(社会福祉法人勲功会 特別養護老人ホーム祥光苑 統括部長)、来島 修志さん(日本福祉大学高浜専門学校 作業療法学科学科長)、杉本 学士さん(社会福祉法人高島市社会福祉協議会)、司会は福祉ネットワークなどでおなじみの町永 俊雄アナウンサーが務めました。出演者のプロフィールはこちらをご覧ください
はじめに 認知症の基礎知識
今回のフォーラムでは、全体を通して「回想法」による認知症のケアに焦点をあてました。
冒頭、認知症専門医の遠藤 英俊さんは、認知症と普通のもの忘れの違いなど、認知症の基礎知識について説明しました。その上で、普段の生活の中で、単なる日常会話だけでなく、昔のことを回想しながら、その人の人生に深く関わる話をする、いわゆる「回想法」が、脳を活性化させるのに効果があることがわかってきたと話しました。特に昔の恋愛の話は、通常の100倍の血流量の増加が実験で証明されるなど、情動を刺激する思い出を語り合うことがより脳を活性化するのに効果的だと説明しました。
回想法とは?
続いて、その「回想法」の具体的な進め方について、作業療法士の来島 修志さんから説明がありました。
来島さんは現在、「北名古屋市回想法センター」で開いている回想法スクールで講師を務めています。ここには、コマやお手玉、メンコなどのおもちゃをはじめ、懐かしい道具が揃っており、それらを使用して、地域の高齢者を対象に回想法の指導を行っています。来島さんはリーダーとして、スクールに参加する高齢者の方たちの昔話をうまく引き出し、話の聞き役に徹します。参加者が昔の体験を思い出した時の表情の変化に注意して、話を伺う姿勢が大切だと話しました。さらに、回想法は、誰でも持っている「思い出」を語るものなので、どなたでも参加ができ、同時代を生きた体験を共有することで、高齢者同士に親密な関係が出来るそうです。
舞台には、来島さんがセンターで普段使っている道具を用意し、回想法を実践してもらいました。客席でも、隣同士で、「昔の遊び」について語り合うなど、実際に回想法の体験をしてもらいました。
回想法をいかした認知症ケア ---施設での取り組み---
フォーラムの後半では、実際に回想法を取り入れた認知症ケアを行っているお二人の方が登場されました。
秋田谷 一さんの勤める特別養護老人ホームでは、最近閉じこもり気味だった入居者の方に元気になってもらおうと、その方が昔、農作業に従事していたことをヒントに職員で話し合い、地域の歴史民俗資料館から農具を借りてきました。その農具を使って回想法を行ったところ、自分の元気な頃の姿を思い出し、活き活きと農具を使う動作を始めたそうです。その後も回想法を続けることで、他の人に自ら話かけたり、表情が豊かになったりする姿が垣間見られるようになったと言います。回想法を通して、現在の姿だけでなく、その人のそれまでの人生を感じることができるため、より深く入居者の方と向き合うきっかけになるなど、職員にとっても良い経験になると話しました。
回想法をいかした認知症ケア ---地域での取り組み---
杉本 学士さんは、滋賀県・高島市社会福祉協議会地域支援課のコミュニティワーカーとして、地域と連携を図りながら、高齢者の認知症ケアや予防に取り組んでいます。高島市では、「滋賀県のふるさと再発見事業」として、高齢者の方から聞き取った高島市の昔の様子や心に残る体験などを元に、「ふるさと絵屏風」を作成しました。元々は地域の文化を伝えるために作成したものでしたが、昔の思い出が描かれた絵屏風を、「回想法」に取り入れられないかと考え、デイサービスなどで活用し始めたそうです。今では絵屏風を中心に地域の高齢者が集まり、孤立防止にも繋がっていると話しました。また、高齢者の方たちが自ら小学校へ出張し、絵屏風を見せながら子どもたちに昔の様子を伝える活動も行っており、地域で役割があることが、高齢者の生活に活力を与えているとのお話でした。
主催
NHK厚生文化事業団
共催
NHK名古屋放送局
後援
厚生労働省、社団法人 認知症の人と家族の会
日本認知症学会、日本認知症ケア学会、日本老年精神医学会
協賛
エーザイ株式会社、ファイザー株式会社
出演者プロフィール
遠藤 英俊 (国立長寿医療センター 包括診療部長)
1982年、滋賀医科大学卒業。1987年、名古屋大学医学部大学院修了。その後、市立中津川総合病院内科部長、国立療養所中部病院内科医長などを経て、現在に至る。老年病専門医。 著者に『認知症・アルツハイマー病がよくわかる本』(主婦の友社)、『地域回想法ハンドブック』(河出書房新社)、『いつでもどこでも「回想法」』(ごま書房)など多数。
秋田谷 一 (社会福祉法人勲功会 特別養護老人ホーム祥光苑 統括部長)
青森大学経営学部卒業。商社勤務を経て、1999年、現法人に就職。特養、グループホーム、居宅介護支援事業所勤務で培った経験を活かし、2004年より青森県認知症介護指導者として、専門職の認知症ケア指導を行なう。現在は「認知症の人と家族の会青森県支部」世話人や、キャラバン・メイトとして認知症の方が快適に過ごせるために回想法を活用している。認知症ケア専門士。
来島(きじま)修志(日本福祉大学高浜専門学校 作業療法学科学科長)
認知症高齢者に対する作業療法および回想法の研究や実践、関連する研修会の講師を務める。認知症の人と家族の会の家族支援プログラムへの協力、北名古屋市を中心とした地域住民や専門職に向けての回想法の普及や啓発事業にも取り組んでいる。ビデオ・DVD版「テレビ回想法 懐かしい話」シリーズに出演。「パソコン回想法」の監修。NPO法人シルバー総合研究所理事長。愛知県認知症研究会世話人代表。作業療法士。
杉本 学士(みちお)(社会福祉法人高島市社会福祉協議会)
京都教育大学教育学部特修美術科卒業。1994年同大学大学院修士課程修了(美術教育)。京都で10年間美術教師として勤めた後、滋賀県高島市への転居を機に転職。高島市社会福祉協議会に入職。デイサービスのケアワーカーを経て、現在、高島市社会福祉協議会法人本部地域支援課コミュニティワーカーとして活躍中。