2009年6月25日
認知症フォーラム「あきらめない--最新医療と社会の支え-- 」(群馬・高崎市)
NHK認知症キャンペーンの一環として、認知症フォーラム「あきらめない --新医療と社会の支え-- 」を、6月25日、群馬県高崎市の高崎市文化会館で開催しました。631人の来場者が認知症への理解を深めました。
第1部の基調講演では、山口 晴保さん(群馬大学医学部保健学科 教授)に「認知症予防最前線」というタイトルで、普段の生活の中でできる認知症の予防対策について、お話を伺いました。
第2部のシンポジウムでは、大澤 誠さん(医療法人あづま会大井戸診療所 理事長・院長)、田部井 康夫さん(社団法人認知症の人と家族の会 理事・群馬県支部代表)、井上 謙一さん(NPO法人じゃんけんぽん 理事長)に、「あきらめない --最新治療と社会の支え-- 」というテーマで、アドバイスと提言をいただきました。
司会は福祉ネットワークなどでおなじみの町永 俊雄NHKアナウンサーが務めました。出演者のプロフィールはこちらをご覧ください。
第1部 講演 「認知症予防最前線」
山口さんからは、アルツハイマー型認知症の、私たちの生活習慣の中でできる予防について焦点を当てたお話がありました。
まず、アルツハイマー病の発病の仕組みについて、脳内にβタンパクが蓄積し、次いでタウタンパクが増加することで神経細胞がダウンするという解説がありました。そして、その原因を減らすことが認知症の発症を遅らせ、予防につながることから、
- 肥満・高血圧、高コレステロールの3つに注意する
- 高脂肪・高コレステロールの食品を避け、DHAを含む魚や、赤ワイン、カレーなどの食品を摂る
- 運動をする、家族や友人と社会的接触を持ち、笑って過ごす
など、生活習慣に気をつけることで、認知症になるリスクを減らすことができるというアドバイスをいただきました。
第2部 シンポジウム「あきらめない --最新治療と社会の支え-- 」
はじめに 認知症の最新の診断法と治療
冒頭、医療法人あづま会大井戸診療所 理事長・院長の大澤 誠さんから、脳の機能を見ることができる最新の「SPECT」画像に基づいて、認知症の種類とその症状について説明がありました。
そして早期発見をして、ドネペジル塩酸塩という薬を服用することにより、認知機能の低下を遅らせることができるというお話がありました。
次に、実際の患者さんの暮らしを撮影したビデオを見た後、徘徊や暴言などの周辺症状が激しく介護が困難な患者には、人との関わりを重視するケアや、漢方薬なども効果があるという説明がありました。
心に寄りそうケア
続いて、NPO法人じゃんけんぽん 理事長の井上 謙一さんから、認知症のひとのいまある力や気持ちを大切にして関わっていく「パ-ソン・センタード・ケア」について、会場にクイズを出しながら、説明がありました。
井上さんからは、物忘れ・妄想・徘徊などの症状の背景には、患者本人の不安や不快感があり、患者の不安を取り除くためには、本人が好きなことを把握しておくなど、症状が起きない時に関係を作っておくことが重要であると指摘しました。また、家族が頑張りすぎて、つい本人を責めてしまうことがないよう、外部の助けも利用して余裕を持つことが大事だというアドバイスがありました。
また、社団法人認知症の人と家族の会 群馬県支部代表の田部井 康夫さんから、一番つらいのも、今を楽しみたいのも患者さん自身であり、本人のためになることは何か、ということを考えて接することが大切であると、家族のケアについて、ご自身の体験も交えたお話がありました。
在宅介護を支えるネットワーク
フォーラムの後半では、小規模多機能施設の「じゃんけんぽん」に通う一人暮らしのお年寄りのビデオを見た後、近所の住民、行政、社会福祉協議会、医療従事者などが連携する、「見守り」のネットワークの可能性について、井上さん、田部井さん、大澤さんから、群馬県内での取り組みの実例をあげながら、ご意見と提言をいただきました。
主催
NHK前橋放送局 NHK厚生文化事業団 読売新聞社
後援
厚生労働省 社団法人 認知症の人と家族の会
協賛
株式会社ツムラ
出演者プロフィール
山口 晴保 (群馬大学医学部保健学科 教授)
1952年高崎市生まれ。医師となり認知症の研究を始めて30年、脳を顕微鏡で調べる病理学、症状を診る神経内科学、そして生活を診るリハビリテーション医学を学んできた。認知症の人と介護者が笑顔になる医療・リハビリ・ケアを目指している。日本認知症学会理事、ぐんま認知症アカデミー代表幹事。
大澤 誠 (医療法人あづま会 大井戸診療所 理事長・院長)
群馬県前橋市生まれ。1980年信州大学医学部卒。1987年群馬県佐波郡東村(現 伊勢崎市)で大井戸診療所を開業し、老年精神医学の視点から在宅医療に取り組む。本年9月に前橋市で開かれるNPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワークの第15回全国の集いの大会長を務める。
田部井 康夫 (社団法人認知症の人と家族の会 理事・群馬県支部代表)
1947年生まれ。1982年「家族の会」の活動に加わる。1983年民間デイセンター「みさと保養所」の設立に参加。1999年うつ病に認知症が加わった母を看取る。認知症について経験と知識を持ちながら、うまく出来なかった家族介護の体験が介護を考える原点であり、永遠のテーマだと思っている。医療法人同人会「デイみさと」管理者。
井上 謙一 (NPO法人じゃんけんぽん 理事長)
1998年に宅老所を開設。その後、高崎や伊香保でグループホームを運営。認知症になっても「普通の暮らし」ができるサポートを目指し介護事業に携わる。2002年から地域通貨「しるく」を使った相互助け合いのまちづくりを開始。2007年には小規模多機能施設をスタート。さらに2008年には地域の誰もが参加できる居場所、「近隣大家族」の取り組みを開始。認知症の人を地域で支えるプロジェクトを進めている。