今回ご紹介するのは、工房まる(福岡市)の柳田烈伸さんの作品「バスキア」です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……柳田烈伸(やなぎた・たけのぶ)さん

私は、ずっと「ヒト」をモチーフに描き続けてきました。
写真集や映像から気になる人物をピックアップし、その人が居る場所や目に映るもの、暮らしや営みを想像しながら描くことが、私にとっては見知らぬ地への旅のようであり、自分探しの旅なんだろう、と思うことがあります。どこかの誰かの何気ない表情に、秘められた力強さを感じ、それを描いてみたいと惹かれるのは、在りたい自分を重ねるからかもしれません。

ここ数年は、風景や建物をよく描いています。何を描こうか探りながら、鉛筆を動かしているうちに見えてきた線や形から、ふと子どもの頃の記憶や、思い出に触れることがあって、そこからイメージを広げて描いています。
その時々によって、描きたいモノや探求したいことは移ろい、「“魅力的な絵”をどう描けばいいのか」、なんて悩んだりもしますが、こんな私が絵を描いていること自体を、もっといろんな人に知ってもらうことが、自分の役割なのかなと感じています。自分が創作することの本質を探り続けながら、作品の中に表現したいと思っています。

 

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

柳田の絵を最初に見たのは、アーツ千代田3331にあるエイブルアートジャパンが運営するギャラリーでの企画展だった。僕はその展覧会で展示を担当していた。柳田の描く人物画はありきたりではない特別な魅力を発していた。かすかに体温を感じさせるような柔らかく繊細な色彩、血液を連想する赤い生々しい線、人物が発するまなざしとポーズがとても印象的だった。

 

彼が所属する工房maruを訪れたのもずいぶん前になる。その時目にした柳田の姿が忘れられない。床に座り込んだ柳田は妙な姿勢で絵を描いていた。その変わった体勢を取ることで身体の支点をつくり動きをコントロールしているのだと、後になって知った。支点が無いとただでさえ自分の思い通りに動かせない線がさらにぶれてしまう。不随意運動によって意思した方向とは逆の方向に腕が動いてしまうこともある。彼が描く線はまさにできないこととできることがぶつかり合って生まれてきたリアルな線だ。脳性まひという障害がある柳田にとって、食事をするのにも何をするのにも相当なパワーが必要になる。絵を描くという行為には大変なエネルギーを要するのだ。

彼は「ヒト」をモチーフに描き続けてきた。写真集や映像から気になる「ヒト」を見つけモチーフにする。彼によってえらばれた人物たちは、それぞれの場所でそれぞれの人生を生きている。その人を取り巻く営みや人生を思いながら制作する。こちらに向けられたまなざしに秘められた力強さは、作者のまなざしを捕らえ重なって、作品を見る者にまで到達する。

彼が以前開いた個展のタイトル《向かう人》には、憧憬と敬意と、自分自身への願いが込められている。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)
記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。

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