2018年3月24日(土曜日)、桜が咲きはじめた名古屋市内の東建ホール・丸の内で、NHKハートフォーラム「摂食障害 100人100色の『回復』」を開催しました。
司会には
・評論家で人気ラジオパーソナリティの荻上 チキさん
講師には
・ 内科医で日本摂食障害協会理事の鈴木 眞理さん
・原宿カウンセリングセンター所長の信田 さよ子さん
・摂食障害の自助グループ「NABA」代表の鶴田 桃エさん
と、各分野で一線級のメンバーが勢ぞろい。
当事者2人の体験談を聞きながら、摂食障害のさまざまな回復のありかたについて考えました。

鈴木 眞理さん講演「症状を理解した上で接して」

午後1時にまずは内科医として栄養士や臨床心理士など、異なる立場の専門家とチームを組んで摂食障害を診ている鈴木さんが基本的な知識や、支援の最新情報について講演しました。摂食障害の症状には、鏡に映った自分の姿が実際よりも太って見えたり、人柄が変わったかのような行動の変化があったりするそうです。こういったことを知らないと、家族をはじめ周りの人とトラブルの原因になることがあるため、正しく理解したうえで接してほしいと訴えました。
また現在摂食障害については冬季オリンピックをきっかけにスポーツ界の当事者が声を上げるなど、注目されつつあるものの、治療環境や相談先は不十分なのが現状だといいます。
そんな中、日本摂食障害協会のホームページからは、2017年7月から、症状や支援に関して相談を受け付け始めたそうです。
こちらからそのページにアクセスできますので、関心のある方はごらんください。
https://www.jafed.jp/
(NHK厚生文化事業団サイトを離れます)

信田さよ子さん講演「家族関係は距離感が大事」

続いて臨床心理士として40年以上にわたって摂食障害のある人々のカウンセリングを続けている信田 さよ子さんが、カウンセリングから見えてきた家族と本人との関係について語りました。
信田さんがカウンセリングで大事にしているのは、摂食障害のアディクション(嗜癖)としての面に注目すること。摂食障害の症状は、心身や家族関係など状態の悪化をもたらすのものの、辛い状況を生き抜くために「現実逃避」「(体重をコントロールすることで)自己肯定感が高まる」といったメリットがあることも認識する必要があるといいます。
また、距離が近すぎて煮詰まりがちな家族関係については、丁寧な言葉遣いを意識するなど、ちょっとした距離感の違いで雰囲気が変わることもあるそう。一人で悩まず、家族会などでつながった人や、専門家に相談しながら工夫してほしいと強調しました。

本人の話

専門家2人の講演のあとは、摂食障害を経験した2人による体験談。
実感を伴った話を会場のみなさんが真剣に聞き込み、アンケートには共感の声が多く書かれました。

パネルディスカッション

休憩を挟んで最後は荻上さん、鈴木さん、信田さんに、摂食障害の自助グループ「NABA」代表の鶴田さんが加わりパネルディスカッション。

~自助グループについて~
鶴田さんは10代で過食がはじまり、医療により一度は症状が落ち着いたものの、人間関係などが原因で再発。
その後寂しさからNABAにつながったそうです。
NABAでは「『現実と向き合うのが怖く、治りたくない』といった、なかなか人に言いづらいことを『あるある』として共有できることで、自己否定感が緩和していった」と話しました。
また経験者・自助グループ代表としての経験から、医療と自助グループの違いについて「摂食障害と一口に言っても、小学生から中高年まで、年代によって異なる問題がある。拒食などで体が危ない場合は医療にかかる必要があるし、目の前の問題が生き方や孤独感だという人は、自助グループが向いているかもしれない。状況に合わせてさまざまな支援や居場所とつながってほしい」と話しました。

~医療の課題とは~
鶴田さんの話を受け、鈴木さんは「診察時、5分で診察を終えても2時間話を聞いても医療費は変わらず、経営上時間をかけて診察するのは難しい」という現実を指摘。体のことは医療で、相談は臨床心理士や自助グループで、といった連携が必要だと話しました。
また医療の課題について「体の状態をもとに戻せば大丈夫だと考えている医療者が多いが、実際はその後のサポートこそが大事」だと強調しました。

~さまざまな回復の可能性~
話は核心へ。「回復」という言葉について、信田さんは「言葉を見ると『元の状態に戻る』という意味合いをイメージするが、摂食障害や依存症の『回復』は少し違い、いまの自分を『これでいいんだ』と思えるようになるということです。たまにストレス解消のために食べ吐きしても、それ以外のところで楽しく生活できているのであれば、それも一つの『回復』だと思いますよ」と、一口に「回復」といってもさまざまな状態があるのだといいます。
鶴田さんは「摂食障害をあまり悪いものと思わず、摂食障害になれたことで生き延びられたというようなプラスの側面にも注目してほしい」と、話しました。

~家族の関わり~
家族がどうやって関われるかについては、
信田さんがあらためて「家族は、どうすれば自分たちが迷惑をこうむらないかを考える、という距離感で十分。本人が自分の力でやることを邪魔しないことが大事です」と、過干渉にならないような関係性を推奨。
鈴木さんも「家族や支援者のパワーはとても大きいが、大事なのはあくまで本人が望む方向に力を使うこと。専門家や同じ立場の人と繋がり、正しい理解のもとに関わってほしい」と訴えました。
質問コーナーでは地方から来場し、差し迫った悩みを話す親の立場という方に、三人が本人の体重など現在の状況を確認しながら、明快にアドバイスしました。

最後に荻上さんは「この場を共有しただけでなく、今後実際に何かを変えていくきっかけになれば嬉しいです。帰ってから、是非チラシやウェブサイトで繋がれるところを探してみて」と呼びかけました。
フォーラム終了後には、荻上さんがネットの発信がうまくいかないという自助グループのメンバーに専門家の視点からアドバイスする場面も。
さまざまなつながりが生まれるきっかけのフォーラムとなりました。

~アンケートから~

鈴木先生・信田さんの話、当事者お二人の話がとてもよかった。本人の話は、自分と似た部分を感じ、とても安心できました。私も自助グループに繋がってみようかなと思いました。生きる希望に繋がりました。(50代女性・当事者)

摂食障害についてはじめてこのような話を聞きました。こんなに広く深い病気なのかと認識させられました。頭の中を整理し、今後娘の摂食障害と接していきたいと思います。(70代男性・当事者家族)

治療者・被治療者両側からのお話を聞くことができ、大変実りある時間となりました。特に本人の体験談を聞ける機会は少ないのでありがたいなと思います。ありがとうございました。(20代女性・臨床心理士)

という声がありました。

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