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今回ご紹介するのは、浅野 春香さん(宮城県)の作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……浅野 春香(あさの・はるか)さん

私は統合失調症です。病気のせいなのか自分の感情を表に出せませんでした。それはとても辛い事です。苦しい思いをぎゅーっと押し込めて心の中にしまってきました。
5年くらい前、大学のとき以来ひさしぶりに絵を描きました。絵を描くと心の中の汚れが吹き出してきました。ずーっと、ずーっと吹き出しました。何年も吹き出してるとだんだん楽になりました。
今でも汚れは吹き出してきます。それが私の絵に力を与えてくれます。

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

「浅野春香『ヤマイノエ2』」

浅野春香の「ヤマイノエ2」と名付けられた絵は静ひつでとてもとても美しい。美しいけれどじっと見ていると異次元に吸い込まれていくような、どこか不安な落ち着かない気持ちになってくる。

作品は切って広げた米袋の上に描かれている。ガサガサした質感と不定形な形が独特だ。
ポスターカラーとクレヨンを微細に使い分け、質感の変化と不思議な輝度を生み出している。シンメトリーの構図から円と線のモチーフを繰り返しながら絡み合い有機的に連なっていくうちに、さらに別の大きなイメージが立ち現れてくる。いちべつしただけでそれを捉えるのは難しい。捉えようとする視線を拒むような複雑さがあるのだ。
羽を広げた蝶、血管、神経細胞、シナプス、木の根、宇宙樹、内臓感覚。人間の内部にあるプリミティブで普遍的な記憶。次々と呼び覚まされるイメージのうねりの中に、生きることの痛み、そして絶対的な孤独の感覚が強烈に浸透してくる。

浅野は美術系の大学で学び、学生時代は具象の油彩画を制作していた。20歳の時に統合失調症を発症。そのあとの10年間は何もできなかったという。30歳でふたたび制作を始める。初めはモノクロのドローイング。それから少しずつカラーの作品へと移行し、次第にビビッドな色で表現するようになっていく。

米袋を使ったのは「絵を描く、作品をつくる」というプレッシャーを感じずに落書きを描くような気持ちで描けるからだという。具合の悪いときでも描いている間だけは楽になれる、絵を描くことは「心の排泄」だと浅野はいう。いま生きるために、いま表現しなければならない、その切実な感覚は見る側にも迫ってくる。

どこから描き始め、どんなことを考え、どれほどの孤独の時間を重ねてこの絵を描き上げたのか。張り巡らされる蜘蛛の糸のように拡がっていく鮮やかなイメージ。そこにはカオスとコスモスが同時に存在している。病むこと生きることの痛みを伴いつつも、この作品がどこか懐かしくまぶしい風景のように見えてくるのはなぜだろう。難破船の船底に横たわり続けるような深い孤独こそがいつか自らの世界を拓(ひら)く力となる、そんなメッセージを受け取ったように思えてくるのだ。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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