このフォーラムは、NHK厚生文化事業団の創立60周年を記念して行ったもので、SDGsの理念である「No one will be left behind.(誰ひとり取り残さない)」の実現の可能性について、「発達障害」と「認知症」の2つのテーマに焦点をあて考えました。「発達障害」と「認知症」は、どちらも当事者の生きづらさが周囲から見えにくいため取り残されてしまいがちだからです。「誰ひとり取り残さない社会」の実現に何が壁になっているのか、どうすればその壁を取り払うことができるのか、当事者の声から掘り下げていきました。

司会進行はサヘル・ローズさん。サヘルさんはイランで生まれ、4歳の時に戦争で両親を亡くし、7歳まで孤児院で過ごしていました。その後、大学院生だったフローラさんの養子となり、8歳で来日しますが、路上生活を経験したり、中学校ではいじめにあったりするなど、「誰ひとり取り残さない」とは違う状況を生きてきました。そんな経験があるからこそ、紛争や災害などで過酷な状況にいる子どもたちを取り残さないための支援をしており、今回のテーマには欠かせない人だと考え、司会をお願いしました。

また、内容を振り返るために、トークグラフィッカーの山口 翔太さんにも参加していただき、話された内容をグラフィックでまとめていただきました。

【第1部 基調講演「いのちを見る眼、障害(者)を見る眼」】

フォーラムは3部立てで、第1部はノンフィクション作家・柳田 邦男さんの「いのちを見る眼、障害(者)を見る眼」と題した基調講演から始まりました。

柳田さんは長年、障害福祉や医療、災害や事故など、「人と命」にかかわる現場での取材を重ね、コロナ禍の今は、親しい人に最期の別れを言えない看取りの現場を取材し、「さよなら」のない死がいかにつらいものか、その現場を取材し発信しています。そんな柳田さんが「誰ひとり取り残さない社会」を実現するために必要なことについて、「一人ひとりのいのちを大切にするためには愛情と客観性を持ち合わせた『潤いのある2.5人称の視点』を持つことが必要ではないか」と話されました。

【第2部 事例研究「誰ひとり取り残さない」現場の声から課題を探す】

「発達障害」~誰も置き去りにしない学びとは~

第2部では、見えにくい困難さのために取り残されてしまう発達障害と認知症の当事者の声から、「誰ひとり取り残さない社会」をどう実現していくか考えました。

はじめに発達障害当事者の有松 啓太郎さんと菊田 有祐(ゆうすけ)さん、有祐さんの母親の史子さん、長年、発達障害の当事者を診断・支援している精神科医の本田 秀夫さんとともに、「誰も置き去りにしない学び」について考えました。

文字を書くことが苦手な有祐さんは、パソコンやタブレットを使うことで学びを獲得することができました。有祐さんは、学ぶことに何かしらの困難さを感じるならば、「学校と、『対立しない形での対話』を重ねて、合理的配慮を勝ち取ってほしい」と訴えました。

臨機応変な対応が苦手という有松さんは、自分の好きなこと・得意なことを否定されない居場所と仲間たちとの出会いで自信を取り戻せたといいます。有松さんは「苦手なことより、得意な面を光らせてくれる、見守ってくれる人がたくさんいてくれる社会になれば、誰もが仲間と居場所を見つけることができると思う。自信にもつながります。そうすれば取り残される人がなくなるのでは」と話しました。

「認知症」~当事者を生きづらくする支援・生き生きさせる支援とは~

次に認知症当事者の柿下 秋男さんが、長年、認知症の本人と活動をともにし、当事者が生き生きと暮らせる生活と地域作りを研究している永田 久美子さんと、「当事者を生きづらくする支援・生き生きさせる支援」とはどういうものか考えました。

認知症と診断された当初は落ち込んでいたという柿下さん。今では絵を描いたり、仲間たちと山登りやランニング、地域の行事に積極的に参加したりと、毎日を生き生きと過ごしています。「今までより一番充実しているかも」という柿下さんは、「認知症の人ではなく、一人の人間として接してほしい」と力強く話されました。

【第3部ディスカッション「私たちは、10年後に「誰ひとり取り残さない社会」を実現できるのか!?」】

最後の第3部では、NHKの福祉番組を担当している星野 真澄専任部長も参加してのディスカッションです。第2部で「誰ひとり取り残さない社会」実現のために必要なこととして、「仲間の必要性・大切さ」が共通のキーワードとして出てきたことを受け、「仲間」について議論し、最後に出演者の皆さんから参加者の皆さんへメッセージを届けていただきました。

5時間に及ぶフォーラムでしたが、多くの方が最初から最後まで視聴してくださいました。
視聴された方からは、
「色んな立場の方の話や、事例が聞けてわかりやすく最後まであたまにすっと入ってきました。参加させて頂けて本当にラッキーでした」、
「まだまだSDGsが実現するには時間と理解が必要だと思いますが、参加してとても温かい気持ちになれた・2.5人称がもっともっと広がって、障害の有無にかかわらず、人が理解し合い、助け合う社会にしたいです」、
「当事者の方のお話がとても良かったです。仲間がいること、居場所があること、安心して過ごせるところがあることが、どんな状況になっても大切なことだと感じました」 、
などのメッセージを頂きました。

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