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活動リポート

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2015年7月26日

NHKハートフォーラム「”依存症”からの回復」を開催

7月26日(日曜日)、東京都中央区の浜離宮朝日ホールで、NHKハートフォーラム「“依存症”からの回復」を開催しました。
依存症とはどんな病気なのかという情報や最新のデータに加え、当事者のご家族の体験談も交えながら、依存症からの回復について話し合いました。会場には、当事者やそのご家族、福祉、行政関係の方など331人にお越しいただきました。

出演は、

  • 松本 俊彦 (まつもと としひこ) 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部 部長
  • 上岡 陽江(かみおか はるえ) ダルク女性ハウス代表
  • 伏見 忠義 (ふしみ ただよし) 元当事者のご家族

司会は、

  • 荻上 チキ(おぎうえ ちき) 評論家

出演者のプロフィールは、こちらをご覧ください

依存症とはなにか

まず近年の依存症の概況について、厚生労働省のデータを元に紹介しました。それによると、2014年、日本ではアルコール依存症の方が109万人、ギャンブル依存症の方が536万人、ネット依存症の疑いのある方が421万人存在するということでした。このデータについて松本さんは、「この中に薬物依存症のデータが無いなど、まだまだ基本的な情報も揃っておらず、人材的な面も含め支援体制が整っていない状況」と話しました。

その後、依存症とはどんな病気なのかについて、当事者の方のVTRを見ながら考えました。荻上さんは、「依存症は、だらしなく不真面目な人がなるというイメージからは離脱しなくてはいけない。様々な生きづらさを抱えながらも、自分なりに社会に参加するための手段として、酒や買い物などへの依存を選択し、それが後に自身を苦しめてしまっている」とまとめました。
また、ストレス解消を目的とした健全な範囲でのアルコールなどの利用との違いについて、松本さんは「依存性物質に脳が支配されてしまうと、本来は困難な状況に適応するためにその物質を利用していたはずが、それを得ることを目的とした行動をとる、という本末転倒な状態になっていく。こうした脳の変化が起こると、依存性物質を自分では御しがたいほど求めたり(渇望)、効果を得るために必要な量が増えていったり(耐性)、それが足りないことで苦痛を感じたり(離脱)、依存性物質を摂取するための行動が生活の中心になってしまう(コントロール喪失)」と話しました。


回復への道

松本さんは医療機関で出来ることについて、「入院治療、薬物療法、心理療法など様々な手立てが生まれてきており、詳しくは精神保健センターに相談して欲しい。依存症を完治することは難しいが、依存性物質を使わないでいることで、それまでに失った人間関係や財産等を取り戻すことは可能であり、その意味で回復は出来る」と話しました。
次に京都にある依存症のリハビリテーション施設「京都マック」の活動をVTRで見た後、当事者同士でのミーティングや共同生活の重要性について話し合いました。
映像を受けて上岡さんは、「話し合いの中で自分を表現する言葉を手にしていくことや、言いっ放し聞きっ放しの原則により何を話しても批判されない環境にいることは、回復の過程で大きな意味を持つ」と話しました。

家族を支える

第二部は薬物依存症当事者の息子を持つ伏見さんを迎え、当事者と家族の関わりについて考えました。
伏見さんは当初、薬物に依存する息子の世話をつい焼いてしまい、結果的に依存状態を深めてしまっていました。しかし、薬物依存症リハビリ施設「ダルク」で依存症について学んだことをきっかけに、息子と連絡を絶つ、警察に相談するなどの徹底した「突き放し」を実践し、次第に回復に導くことが出来ました。
松本さんは、当事者を支援するための行動が逆に依存状態を助長してしまう「イネーブリング」、また援助者の生活が当事者を中心とするものになってしまい、互いに社会生活が困難になってしまう「共依存」という概念を紹介しました。また、伏見さんが行ったような、本人に対する「突き放し」は有効な手段だと話しました。一方で、コミュニケーションを深めることで改善を促す「CRAFT」という方法もあり、一人で治療に取り組むのではなく、支援機関への相談が必要だとしました。


パネルディスカッション

今回のフォーラムでは、申し込みの段階で多くの質問が寄せられました。
最後はその質問に答えながら、依存症に関する考えを深めました。
松本さんは「依存症はだらしないだとか、薬物の乱用は絶対にダメだという世間のネガティブなイメージの裏には実際に苦しんでいる本人やご家族がいるということや、依存がダメと言うだけでは何も変わらないんだということを頭の中に置いて欲しい」と話し、フォーラムを締めくくりました。

 


フォーラムで使用した映像を貸し出しています

フォーラムは事業団が制作したDVD「“依存症”からの回復」3巻セットの映像を交えながら進めていきました。このDVDは事業団で貸し出しをしています。


出演者プロフィール

松本 俊彦 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部 部長)

1967年生まれ。佐賀医科大学医学部卒業後、神奈川県立精神医療センター、横浜市立大学医学部附属病院精神科などを経て、2015年より現職。日本アルコール・薬物医学界理事、日本精神科救急学会理事。著書に『自傷行為の理解と援助』、『アディクションとしての自傷』、『薬物依存とアディクション精神医学』、『アルコールとうつ、自殺―「死のトライアングル」を防ぐために』、『自分を傷つけずにはいられない―自傷から回復するためのヒント』など。

上岡 陽江(ダルク女性ハウス代表)

1957年生まれ。10代から薬物依存、摂食障害、アルコール依存に苦しみ、20代半ばで回復施設につながった。1991年に「ダルク女性ハウス」を設立し、依存症の女性のサポートにあたっている。
著書に『虐待という迷宮』、『その後の不自由―「嵐」のあとを生きる人たち』、『生きのびるための犯罪(みち)』など。

伏見 忠義 (当事者の家族)

1945年生まれ。長男が、高校1年生の時に薬物依存の状態となり、以後約20年にわたって依存症と向き合ってきた。現在は仙台ダルク家族会代表として依存症の人々の支援をしている。

荻上 チキ (評論家、編集者)

1981年生まれ。政治経済から社会問題、文化現象まで幅広い分野で取材・評論活動を行っている。ラジオ番組のキャスターやウェブメディアの編集長も務める。
著書に『ネットいじめ』、『僕らはいつまで「ダメだし社会」を続けるのか』、『彼女たちの売春』など。

 

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