NHK厚生文化事業団は、NHKの放送と一体となって、誰もが暮らしやすい社会をめざして活動する社会福祉法人です

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活動リポート

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2015年7月11日

NHKハートフォーラム「うつ病と向きあう」を開催

7月11日(土曜日)、札幌市中央区、かでる2・7で、NHKハートフォーラム「うつ病と向きあう」を開催しました。
うつ病とはどんな病気なのかという医療情報に加え、うつ病経験者の話や復職を目指すリワークプログラムの映像を交えながら、「うつ病と向きあいながら暮らす」とはどういうことかを話し合いました。会場には、うつ病の当事者や家族、医療関係者、企業のメンタルヘルス担当者、教育関係者など260人にお越しいただきました。

写真:フォーラムの様子

出演は、

  • 大野 裕 (おおの ゆたか) 精神科医
  • 木村 健太郎 (きむら けんたろう) うつ病のご本人
  • 三村 健 (みむら たけし) 精神科病院リワーク担当 精神保健福祉士
  • 横山 太範 (よこやま もとのり) 精神科医
写真:町永 俊雄さん

司会は、

  • 町永俊雄(まちなが としお) 福祉ジャーナリスト

出演者のプロフィールは、こちらをご覧ください

考え方のクセを見つけて、ストレスの軽減を〜精神科医・大野 裕さん〜

写真:大野 裕さん

はじめに、精神科医で日本の認知行動療法の第一人者である大野 裕さんが、うつ病とはどんな病気なのかを説明しました。「うつ病とは脳の中で何らかの変調が起こっていることは確かだが、原因ははっきりとはわかっていない」と大野さんは言います。ただ、ストレスが発症のきっかけになることがほとんどなので、認知行動療法によって、自分自身の物事の捉え方・見方を変えてストレスを軽減することが、治療や予防につながるということです。


働き続けるコツは、うまく休むこと〜木村 健太郎さん〜

写真:木村 健太郎さん

木村 健太郎さんは19歳のときにうつ病を発症して以来、20年間、この病気と向き合ってきました。仕事を一生懸命するあまりに病気を悪化させ転職を繰り返してきました。自殺を図ったこともあります。しかし、いまではソフト開発会社の(特例)子会社で人材の育成に携わり、周囲からはあこがれの存在になっています。
木村さんは病気の悪化、転職をしていたころの様子を、
「何事にも完璧主義な自分がいて、しかも周囲の評価も気にしすぎて。それに休むことは悪いことと思っていて、がんばりすぎて再発を繰り返していました」と振り返りました。
しかし今では、うまく休みながら働くことができているそうです。
「いまも調子が悪くなるときもありますが、調子が悪くなりそうな予兆を感じたら休むことができるようになりました。会社の理解があってのことですが、あせらずに安心して仕事ができる状態まで自分を回復させてあげないと悪化するんです。どんなに仕事をがんばっても、自分をケアしてあげることを忘れてはいけないなと感じています」。


仲間の力で回復を促す〜精神保健福祉士・三村 健さん〜

写真:三村 健さん

三村 健さんは、うつ病の人々の復職を目指すリワーク(ReWork)プログラムに取り組んでいます。
三村さんたちの取り組みの特徴は、卓球やカードゲームなどのレクリエーションや、書道・七宝焼きなどの創作活動を多く取り入れていることです。他者との活動を楽しめるようになることが、ストレスへの耐性をつけていくうえで大切なのだそうです。
三村さんは、「一見遊びのように見えるものでも、うつ病の人たちにとっては遊びではなくて、いろんな物事へのトライであったり、学習や気付きがあったりするんです。また、うつ病の人々は孤立し、喜怒哀楽を出せなくなってしまっていますが、同じ苦しみを持つ仲間たちと一緒に『遊び』のような活動をすることで、自然と感情を表に出せることができるんです。これが回復の第一歩になるんです」と話しました。

企業と医療の連携でうつ病への理解を〜精神科医・横山 太範さん〜

写真:横山 太範さん

横山 太範さんは、職場と医療との連携の大切さを話しました。
横山さんのもとには企業から会社の仲間をなんとか支えたいけれども、どう支えていいかわからないという声が多く寄せられているそうです。そこでクリニックでは職場連携室を作り、企業からの相談に応じるようになりました。すると当事者が戻りやすい職場環境を企業が整えてくれるようになったそうです。
横山さんは、「企業が相談しやすくなったことで医療機関との信頼関係ができて、病気への理解につながっていったんです。リワークは統計的に再休職を予防することがわかってきています。理解がすすんだ企業があるように、社会全体がうつ病を受け入れて、うつ病の人々も元気に働けるんだという認識になってほしい」と話しました。


うつは心のメッセージ

最後に大野さんが、うつ病は社会へのサインではないかと話しました。
「うつは私たちに本来備わっている防衛本能みたいなものだと思うんです。うまくいかない時にちょっと立ち止まって考えようっていう、心のメッセージだと思うんです。だからこそ、今のようなストレスの多い社会では自然なことかなと思いますし、社会としてもきちんと受け止めていくことがすごく大事だと思います」。

 


フォーラムで使用した映像を貸し出しています

写真:DVDパッケージ

フォーラムは事業団が制作したDVD「うつ病」3巻セットの映像を交えながら進めていきました。DVD「うつ病」3巻セットは事業団で貸し出しをしています。


出演者プロフィール

大野 裕 (精神科医)

1878年、慶應義塾大学医学部卒業。コーネル大学医学部、ペンシルバニア大学医学部に留学。慶應義塾大学教授を務めた後、2011年から2015年3月まで国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター長を務めた。近年、精神医療の現場で注目される認知行動療法の第一人者。日本認知療法学会理事長、日本ポジティブサイコロジー医学会理事長、日本うつ病学会の理事など、諸学会の要職を務める。認知療法活用サイト「うつ・不安ネット」監修。著書「はじめての認知療法」など。

木村 健太郎 (うつ病のご本人)

1976年、神奈川県生まれ。大学2年生の時、うつ病と診断された。気分と体調に波があり、就職しては退職することを繰り返した後、2008年から現在の職場で、精神障害のある人の職業訓練の講師として働いている。

三村 健 (武田病院 リワーク担当 精神保健福祉士)

1979年、武蔵大学人文学部社会学科卒業。在学中からカウンセリングを学ぶ。教育相談所で教育相談員、精神科の医療機関で臨床心理士、ソーシャルワーカーなどを経て、1992年より武田病院(神奈川県川崎市)にソーシャルワーカーとして勤務。2007年、リワークプログラム立ち上げから専任スタッフとなり、現在に至る。

横山 太範 (精神科医・さっぽろ駅前クリニック院長)

1992年、旭川医科大学卒業。東京大学医学部付属病院精神科に入局。英国イーストロンドン大学に留学。その後、北海道精神保健福祉センター勤務を経て、2005年にさっぽろ駅前クリニック(札幌市)を開院。うつ病リワーク研究会世話人などを務める。

 

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