2015年4月25日
ハートフォーラム「当事者が語る 大人の発達障害」を開催しました
4月25日、東京都新宿区の新宿明治安田生命ホールで、NHKハートフォーラム「当事者が語る 大人の発達障害〜自閉症スペクトラムを中心に〜」を開催しました。発達障害のある人本人や、ご家族、支援団体・施設の方を中心にご来場いただきました。
フォーラムでは、まず精神科医の田中 康雄さんから「発達障害とは何か」を説明していただきました。
田中先生のお話では、発達障害は「発達の躓き」と「関係の躓き」が重なり合って生じる「生活障害」であり、本人の工夫や周囲の理解によって困難さを減らしていくことは十分に可能だということでした。さらに「発達障害」を、理解できない相手に対する「決めつけ」や「切り捨て」のための概念ではなく、より良い関わりや相互理解のための概念としてどう活かせるかが大事であり、そのためには当事者本人に話を聞くことが重要であると訴えました。
次に、当事者である綾屋 紗月さんが発達障害であるという診断を受けてから、自己理解を深めていった経験を通して、発達障害とは何かを考えました。
綾屋さんは幼いころから集団生活になじめず、「自分は何者なのか」という問いに苦しみ続けてきました。30代で発達障害の一つ、「アスペルガー症候群」の診断を受けたあと、障害のある人が仲間と一緒に自分の障害を研究する「当事者研究」に取り組み、自己理解を深めていきます。その中で綾屋さんは、自分の困難さが「様々な感覚情報を取り込みすぎること」「多くの情報の中から意味のあるものを拾い上げ、まとめることが難しいこと」といった特性から生じることを発見し、それを踏まえた様々な工夫を編み出してきました。「自分の軸」が生まれたことにより、以前は他者に近づきすぎるかまったく疎遠にするかの両極しかありませんでしたが、徐々に他者と適度な距離を保てるようになっているように感じる、と話しました。
続いて同じくアスペルガー症候群の当事者で、病院の勤務医であるウイ・クアン・ロンさんが、発達障害のある人が就労する上での必要なことを発表しました。
ウイさんは幼いころから医師を志し、努力の末に資格を取得して就職したものの、実際の手術の現場などでの目配せや仕草などで行う「非言語コミュニケーション」につまずき、転職を余儀なくされました。ウイさんは当時の職場での経験を「目隠しキャッチボールのようだった」と表現しています。その後も仕事がうまくいかず、数回の転職の末に診断を受け、自分に発達障害があった事を知りました。職場にも障害があることを伝え、無理に周囲に溶け込もうとするのでなく、「笑顔と清潔」だけ心がけること、そしてやるべき仕事はしっかりとやると割り切ったことで、今は安定して働いています。「障害があるから」とあきらめるのでなく、最低限のコミュニケーションスキルを身につける心がける努力と、一人でもいいので理解者と出会うことの重要性について語りました。
フォーラムの最後には観客の方々からの質問に答えながら、発達障害の理解と支援について話し合いました。
参加者の感想
- 綾屋さんの報告から、当事者の世界が具体的に示され、新たな視点が得られた。また支援する側として客観性・具体性を持って話し理解することの大切さを認識できました。ウイさんのお話から、あらためて障害をもって働くことの難しさを実感しました。(50代男性 行政関係)
- 当事者の見え方や聞こえ方、理解の仕方が具体的に分かってとても勉強になった。それならば、そういう感覚になると実感。拾う側の理解はとても大切。一方的な押しつけがさらに苦しめている…反省する部分もあった。(30代女性 教育関係者)
といった声がありました。