2013年2月16日
フォーラム「発達障害者の就労」を横浜で開催しました
2月16日、横浜市の鶴見区民文化センターサルビアホールで、NHKハートフォーラム「発達障害者の就労--今できること--」を開催しました。
発達障害のある人が働くとき、「上司とのコミュニケーションにつまづく」「何度同じ指示を受けても覚えられない」などの困難に直面しがちです。このフォーラムでは、TVキャスターの町永 俊雄さんの司会のもと、発達障害者就労の最前線で活躍する講師と実際に働く当事者を迎え、就労の現状と対策を伝えました。
第1部「発達障害者の就労の現状」
第1部では、発達障害者就労研究の第一人者である梅永 雄二さんと、障害者就労を支援する会社を経営する石井 京子さんが、発達障害のある人の就労の現状を報告しました。
発達障害者の採用は進むも、求められる能力基準は下がらず
フォーラム序盤では石井さんから、発達障害のある人の採用がここ数年で進んでいるとの報告がありました。5人、10人まとめての採用や、正社員での採用を行う企業も出てきました。また、この4月から障害者雇用率が1.8%から2.0%に引き上げられることも追い風になっています。他方で企業が求職者に求める能力水準は下がっていないとの指摘もありました。
石井さんは発達障害のある人が就職するために、
- 自身の障害を理解する
- 自分にあった職業を知る
- 一人で考えず他の人に相談する
といったことが大切だと強調しました。
働き続けるために必要な「ライフスキル」
梅永さんは、発達障害のある人がせっかく就職できても、人間関係が悪くなったり、体力が続かないなどの理由で離職してしまう人が少なくないことに触れ、職場に定着してながく働き続けるためには「ライフスキル」が重要だと指摘しました。
ライフスキルとは、
- 朝決まった時間に起きられる
- 身だしなみをきちんと整えられる
- 公共料金を毎月支払える
などの基礎的な生活習慣スキルです。こうしたスキルを就職する前、家庭や学校で身につけておくことが、仕事を続けていく上で大切だといいます。
また大人になってからのライフスキル支援の実例として、会社で欠勤・遅刻が続く発達障害のある男性の事例を映像で紹介しました。欠勤・遅刻の背景に生活習慣の問題があると見た会社の社長は、家を訪れ、部屋の掃除や食事作り、身だしなみを整えるところから指導しました。その結果、遅刻や欠勤は、ゼロではないものの改善されたと言います。
第一部の最後では、梅永さんが利用できる公的支援制度の解説をしました。
- トライアル雇用
- ジョブコーチ
- 職場実習
- 就職チューター
- 発達障害者雇用開発助成金
- ハローワーク
- 障害者職業センター
- 発達障害者支援センター
第2部「就労現場の実際と工夫」
第2部では、高機能自閉症があり、横須賀市内の造船会社で障害者雇用枠で働く上野 康一さん(26歳)が登壇しました。母親の景子さん、上司として指導にあたった桑原 敏勝さんも交えて、今の仕事に就くまでの経緯と、実際の働きぶりを聞きました。
トラブル続きだった子ども時代
小学生の時から教師やクラスメイトのトラブルが絶えなかった康一さんは、中学校に入ってから不登校になります。母親の景子さんは、この時期を振り返り、親子でケンカが絶えず、息子の顔を見るのも辛かったと告白しました。 しかし、不登校の生徒が集まる高校に進学したことが転機となりました。理解ある教師や同じような境遇の友人たちと出会い、大きく成長することができたと康一さんは言います。
障害者雇用枠で就労を目指す
康一さんは現在、横須賀市にある造船会社に障害者枠で働いています。 会社にとって、発達障害のある人を雇うのは初めての経験でしたが、採用面接で康一さんが「どんな仕事でもやります」と積極的に自己アピールが決め手となって、採用がきまりました。
面接の指導経験が豊富な石井さんによると、面接時に会社が評価するポイントとして、意欲が一番大事とした上で、ほかに
- 柔軟性(ある程度多様な仕事をこなせること)
- 障害理解(特性を理解しているか。必要な配慮を説明できるか)
得意分野を生かした仕事をする
康一さんを職場に受けいれるにあたり、桑原さんは職場の同僚への説明を徹底しました。 「特別扱いはしない。しかし、我々と違うところもあるからそこは認めてあげる必要がある。その上で良くないことは注意してほしい。もし自分たちで手に負えないことがあれば、いつでも自分に相談してほしい」と伝えました。 その結果、康一さんは大きなトラブルなく職場に入っていくことができました。
桑原さんは康一さんが無遅刻・無欠勤で働いていることを評価しています。「彼のことをよく見てくれる先輩が職場にいる。毎日職場に通うことが楽しい、ということが無遅刻・無欠勤の理由ではないか」と話しました。
最後に会場へのメッセージを求められた康一さんは、「自分の好きなことを仕事にするのが大切。ダメだと思ったらいさぎよくあきらめて、次のもっとよい仕事を探したほうがよい」と伝えました。また、景子さんは「子どものときは大変でも明るい未来が待っている。辛いときは行政を頼ってほしい」と話しました。