2012年5月19日
つくば国際会議場で認知症フォーラム「あきらめない--最新医療と社会の支え」開催
2012年5月19日、茨城県つくば市のつくば国際会議場大ホールで、医療、介護の専門家、家族の会の方らをパネリストに迎え、認知症フォーラムを実施いたしました。「認知症になっても心配のない、そんな社会を築くにはどのようにしていけばいいのか」を参加した約1000人の皆さんとともに考えました。
このフォーラムは認知症の理解への一助となればという目的で、全国各地で開催し、今年で6年目になります。
出演者のプロフィールはこちらをご覧ください。
第一部「認知症の医療情報」
認知症とはどんな病気なのか、どのように診断するのか、また新しく認可された薬とその効果、適応時期などについて、水上 勝義さんから話がありました。また、介護に困難をきたす行動・心理症状(以下、BPSDと呼ぶ)は大声や、怒りっぽくなる、妄想、誤認などさまざまな症状があり、周囲の人々との間に困難な状況が生まれがちです。BPSDの実例を映像で紹介し、介護の専門家のパネリストの皆さんも加わって、医療と介護の双方からBPSDの改善方法を考えました。
第二部「認知症ケアと地域ネットワーク」
本人の想いに寄り添うケア
グループホームくぬぎの森ホーム長・神尾 一美さんと施設の皆さんが、「パーソンセンタードケア」という本人の想いに寄り添うケアを実施しているところを映像で紹介しました。ある認知症の女性は妄想や暴言を繰り返す症状があり、神尾さんたちは「24時間生活変化シート」で彼女の言動を記録し、その原因を検討しました。その結果、暴言の背後には孤独を感じていることが影響しているのではないかと仮定しました。神尾さんは、そばにあなたのことを気にかけている人がいることを伝えるため、手をふれながら、じっくりと話を聞いてあげる、などを試み少しづつ症状が良くなっていきました。
神尾さんの考える認知症ケアのポイントです。
徘徊、ものを取られるという妄想などBPSDのある人には、4W1Hを心がけ、Why(なぜ)と聞かないこと。
- When(いつ?)
- Who(誰がもってるの?)
- Where(どこにいくの?)
- What(なにをするの?)
などは聞いても、Why(なぜ?)と聞かない。 本人の気持ちを尊重しながら、否定せず、その行動を起こしている理由や気持ちを推測し、寄り添えるようにすることがケアのポイントです。
在宅介護を考えるリハビリテーション
認知症の人は、毎日の暮らしの中で、買い物に行けなくなる、知人友人に会いに行けなくなるなど、これまでの行動が少しずつできなくなり、意欲の低下がおこります。認知症のリハビリテーションはそれを改善していく試みです。浅野 有子さんの働く施設涼風苑では、右脳左脳を交互に使うトレーニングの一つとして、お手玉取りや、食べたり飲んだりのトレーニング・口腔リハビリテーションをしています。これらに熱心に取り組み、意欲が出てきた利用者の様子を映像で紹介しました。
リハビリ室長の浅野さんは、「ご高齢の夫婦二人だけ、或いはおひとりだけの在宅の場合には、地域の施設で支える取り組みが重要です。今後24時間の対応で、例えば深夜、早朝でも短時間の訪問支援サービスが実現できるように、その必要性を理解してもらえるよう努力していきます」と話がありました。
家族の会茨城県支部代表の宮本さん
ご自身の14年間の介護体験の話がありました。
「 50歳で認知症と診断された妻の介護を、時には娘にも手伝ってもらいながら、配偶者としての私が主にやってきました。長期にわたる介護はとても大変ですが、例えばBPSDの徘徊などがずっと続くわけではありません。認知症の時期によって症状は1年ごとに変化します。介護のあり方も本人の気持ちや症状に添って変わっていきます。介護保険の適用を受け、地域施設のサービス利用などや、地域包括支援センターへ相談することも必要です。また、私たち家族の会なども、認知症について日々勉強しています。これまでお世話になった分、社会に恩返ししたいと思っています。介護する方はぜひ、孤立化せずに情報交換できる相手や、利用できる手立てを活用し、乗り切っていただきたいと思います」
放送予定
このフォーラムの様子を一部、テレビで放送します。
- 番組:Eテレ「テレビシンポジウム」
- 日時:7月7日(日曜日)午後2時〜3時
出演者
水上 勝義 みずかみ かつよし
(筑波大学大学院人間総合科学研究科教授、精神科医)
筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学精神科研修医、都立松沢病院精神科医師、筑波大学臨床医学系精神医学准教授などを経て現在に至る。認知症の診療にたずさわるかたわら、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の臨床および基礎研究も精力的に行っている。とくにレビー小体型認知症の新たな診断法の開発や、認知症治療における東洋医学と西洋医学の統合医療に力を注いでいる。患者や家族の日々のストレスをいかに軽減するかが重要な課題ととらえている。
浅野 有子 あさの ゆうこ
(医療法人社団八峰会池田病院 介護老人保健施設涼風苑リハビリ室長・主任介護支援専門員)
新潟県犀潟リハビリテーション学院作業療法学科卒業。長年にわたり、作業療法士として身体および精神障がい者の訓練、指導、支援に従事。2000年から現職。病によっては暮らしに様々な困難があるが、発想の転換や工夫で、誰もがその人らしさをあきらめず、朗らかに暮らせることを目指したい。リハビリテーションの情報や、両親の認知症介護からも学んだ暮らしの課題を発信すべく活動中。茨城県作業療法士会副会長、茨城県ケアマネジャー協会副会長。
神尾 一美 かみお かずみ
(グループホームくぬぎの森ホーム長)
鉾田市出身。相模女子大学卒業後、鹿嶋市の大野診療所勤務。2003年よりグループホームくぬぎの森に勤め、現在に至る。認知症本人のおもいに寄り添った「個」のケアを大切にしている。くぬぎの樹言葉「旺盛(活力・意欲的)」を理念として、認知症になっても本人の意思や維持している力を最大限に生かし、QOLの向上を目指している。認知症ケア専門士。介護福祉士。
宮本 武憲 みやもと たけのり
(認知症の人と家族の会茨城県支部代表)
牛久市出身。妻が50歳の時にアルツハイマー型認知症と診断され、在宅介護を14年間続けた。当時は県内に認知症について相談する場所がなく、千葉県の集いに参加していた。2003年、認知症の人と家族の会 茨城県支部を設立、以来代表を務める。2年前に妻が大腿骨骨折し車椅子生活。胃ろう手術から経管栄養となり入院生活となった。毎日欠かさず病院に通い、口腔ケアやマッサージを行うことで、互いの安らぐ瞬間を大切にしている。自身の経験を生かし、講演活動や認知症の家族からの電話相談などを行っている。