2010年5月29日
「本人に寄りそう認知症ケア」フォーラムを実施しました
5月29日、東京・中央区の浜離宮朝日ホールで、NHKハートフォーラム「本人に寄りそう認知症ケア--施設で、家庭で--」を実施しました。会場には認知症の人の家族や、施設の職員など約350人が来場し、メモを取りながら熱心に耳を傾けていました。
前半は施設での取り組みを佐々木 健さん(きのこエスポアール病院院長)が、地域・家庭での取り組みを亀井 智子さん(聖路加看護大学教授)が講演。後半は申し込みの際にいただいた質問に答える2部構成で進めました。出演者のプロフィールはこちらをご覧ください
人間中心ケアの重要性
佐々木さんは、「認知症の人と共に生きる--人間中心ケアの重要性--」をテーマに、ケアと治療の考え方の移り変わりや現在、病院で行っているケアについてお話しいただきました。
佐々木さんが院長を務める「きのこエスポアール病院」は、認知症の専門病院として、26年前に岡山県笠岡市に開設されました。
病院を開いた当時は医療的な方法だけで、認知症の症状を改善できるものだと考えられていました。しかし、佐々木さんが実際に認知症の方と向き合っているうちに、医療だけでなく、その人に合ったケアの重要性が分かってきたといいます。
その人の個性や環境、健康状態などさまざまな要因があって、その人個人の行為として、徘徊や妄想などの行動を起こすと考えられ、そういった要因を一つ一つ解釈していくことで、その人に寄りそったケアを進めていくことが大事だといいます。
その上で、「これまでの考え方では、医療という“樹”があり、ケアはその“枝”程度の存在だった。それに対し、ケアと医療は2つの樹であり、両方で認知症の方を支えていくべきだ」と持論を述べました。
地域での世代間交流で支え合う
続いて、聖路加看護大学の亀井 智子さんが「地域の多世代で支える認知症ケア」をテーマに講演を行いました。
亀井さんは在宅で介護する場合の注意点として、介護する人の健康や、周りに助けを求めることの大切さを挙げました。そのために、身近にほんの数時間でも預けられる場が必要だといいます。
その例として、ご自身が取り組んでいる「聖路加和みの会」について紹介しました。地域の小中学生とお年寄りたちがさまざまな交流を行う「和みの会」は、週1回、3時間活動しており、参加者は小中学生、65歳以上のお年寄り、認知症のある方などさまざま。毎回、おやつ作りやゲームなどを行いながら、他の世代と交流しています。亀井さんによると、抑うつ傾向の高い高齢者ほど、この会に参加したことで状況が改善されるなど一定の効果があるといいます。
こういった安心して集まれる場を地域に作ることが、本人にとっても、介護者にとっても大切なことだと話しました。
事前にいただいた質問から
フォーラム後半は、申し込みの際にいただいた質問に対して、佐々木さん、亀井さんお二人にお答えいただきながら、話を進めていきました。
「入浴したがらない人をどうすれば入浴させられるか」との質問に、佐々木さんは「入浴したがらない人を入浴させるのは無理。入浴したくなる環境をつくってあげましょう」と、行為の原因を考え、その人にあった対応をすることの大切さを訴えました。
出演者
佐々木 健(きのこエスポアール病院 院長)
1948年2月22日生まれ。鹿児島大学医学部卒業。岡山大学医学部神経精神科を経て、1980年、きのこ診療所開業。1984年、日本初の認知症高齢者専門病院「きのこエスポアール病院」開設とともに、院長に就任。社会福祉法人新生寿会理事長に就任。現在まで認知症の人々にとってどんな支援が必要なのかを追求している。主な著書に、「丘の上のエスポアール 心は決して死んどられん」(MG出版)、「痴呆病棟の一日: モーニングケアからナイトケアまで」(医学書院)、「新・ボケても心は生きている:〈認知症ケア〉20年の実践と改革」(創元社)、「痴呆の常識・非常識: まんが・エッセイでやさしく理解する」(日総研出版)など。
亀井 智子(聖路加看護大学老年看護学 教授)
聖路加看護大学・大学院修了。医学博士。台東区下谷保健所保健師、川崎市立井田病院看護師として勤務後、東京医科歯科大学医学部保健衛生学科助手、講師、聖路加看護大学助教授を経て2007年から現職。2003年度から5年間、聖路加看護大学21世紀COEプログラム「市民主導型健康生成看護形成拠点」日本型高齢者ケアプロジェクトリーダとして区民との協働による認知症地域ケアシンポジウムなどを主催。多世代交流型デイプログラム実践開発、在宅慢性呼吸不全患者のテレナーシング実践開発、都市部在住高齢者のための転倒骨折予防実践講座など、看護大学を拠点とした高齢者主導型ケアを主宰するとともにこれらの実践によるエビデンスを探求している。
主催
(社)認知症の人と家族の会東京都支部、NHK厚生文化事業団、NHK