竹田 契一です。
今年の4月に、特別支援教育がスタートしました。特別支援教育は、新しい、ある意味では画期的な考え方が、中に入っています、その考え方を、具体的に、どのように実践していくか、ということが、これから試されていくわけです。
実践報告では、最初に、昨年まで現場で指導しておられた松久先生、次に、ことばの教室でずっと指導されております山田先生、そして、校長先生として管理職として学校を改革しておられる外磯先生にお話しいただきます。
そして、さきほどお話を頂きました大阪府立大学の里見先生にも入っていただきまして、ディスカッションをしたいと考えています。では、最初に、松久先生、よろしくお願いをしたいと思います。
堺市教育センターの松久です。この3月まで、市内の小学校で、通常学級の担任をしておりました。20年近く通常学級の担任をしてきた、その経験をもとにお話をさせていただきたい、と思います。
以前、私は、自分のクラスが学級崩壊のような状態になったことがあります。こんな状態でした。
学級崩壊状態
それから数年後、また、同じように大変なクラスを担当しました。でもある時、ふと思いました。「私はあんまりしんどいと思ってへんな。それはなぜかな」と考えました。私は、その数年の間に、ほそぼそとですが、発達障害の研修や虐待の研修を受けていたんですね。その研修が私を支えた。もちろん、キャリア教育、英語教育、食育、すべてが大事な研修です。でも私は、「発達障害」「虐待」+「人格障害」、この3つの研修をするかしないかで、先生たちが、このあと60歳定年まで働けるかが決まってくる、と思っています。
私のクラスが荒れていた時、どの子に支援が必要なのか、わかりませんでした。ぐちゃぐちゃになっている。どの子も支援が必要なように見えました。さきほど里見先生がおっしゃっていましたが、本当に学習支援が必要な子が見えてこないんです。そういう状態になると、発達障害の子どもは、一番に居場所がなくなってしまう子どもたちです。発達障害の子どもたちには、とても申し訳ないことをしました。
クラスが落ち着いてきますと、本当に支援の必要な子どもが浮き上がってきます。でも、クラスが落ちついたとしても、そこで安心しない。子どもの特性に合った学習支援をする、そして専門機関と連携する、ここを忘れてはいけない、と、そう思っています。
これからの特別支援教育は、個別指導と集団指導が、車の両輪だと思っています。
通常学級での個別の配慮指導は大切です。その子の認知特性に合わせた配慮指導も大切です。一方で、クラスが安全で秩序があり、いじめがない、こういう落ちついたクラスの中でこそ、個別指導が生きると思っています。
これからの特別支援教育
個別指導と集団指導は、車の両輪
個別の配慮指導、いろいろありますね。読む行に注目させるスリットのシート。お道具箱の写真。忘れ物なくしゴム。穴の位置を変えられる笛。こういう認知特性にあわせた個別の配慮指導は、とても大事です。
でも、私は思います。授業中、例えば、教師が、その子に視覚的な困難があると思って、「このスリットカード使ったみたら」と言ったとする。でも、広汎性発達障害、自閉症スペクトラムの子どもたちはいじめられやすいです。次の休み時間にいじめられる、となったら、スリットカードをもらったとしても、授業に集中できるでしょうか。私はできないと思います。このクラスが落ち着いていてこそ、この子たちは居場所ができると思っています。個別指導と集団指導、この2つの両輪があってこそ、この子たちは安心してクラスで過ごせる、そう思っています。
集団指導の大切さ
クラスには、LD・ADHD・高機能自閉症・アスペルガー症候群・被虐待児が混在している。教師が100人いたら100人とも、秩序のある、安心で落ち着いたクラスを作りたいと思っています。でもね、それがとっても難しい時代です。クラスには、発達障害のお子さんも、被虐待のお子さんもいます。発達障害を抱えているゆえに虐待される、というお子さんもいて、発達障害と虐待はハイリスクです。ですから、私の話の中には虐待のお子さんも視野に入れていますが、私は、どの子どもたちにも合う「20個の集団指導の具体的な取り組み」というのを提唱しています。それを作ったコンセプトというのは、こういうものです。
発達障害児をつつむクラス作り
まず、好意に満ちた安全でいじめのないクラスは最大の支援だ、ということです。
そして、効率良く大きな効果があがる取り組みから始める。通常学級の教師はとても忙しいです。ですから、なるべく小さな労力で大きな効果があることから始める、そして、大きな労力が必要でそれなりの効果があることは、ちょっと後回しにする。通常学級の担任は、なるべくクラスを落ち着かせるということを先にしたい。
それから、授業にくい込まない。授業時間が削られて授業が遅れてきますと、教師自身も苦しいです。いろんな投げ込み教材、いい集団作りの取り組みもあるんですが、入れれば入れるほど、授業が遅れます。授業が遅れると、3月、7月、12月は、テストテストと、テストばかりになって、発達障害の子は、とてもしんどいです。ですから、授業が遅れないということも大事にしております。
では、私が提唱する「20個の集団指導の取り組み」を紹介しましょう。この20個のベースとなるもの、一番大切なことは、「好意に満ちた語りかけ」なのですが、これについては、最後に触れます。
20個の集団指導の取り組み
この20個の取り組みの中の1番から3番は、クラスを作る三本柱だと思っています。そして4番から20番までは、その周りを支える杭のようなアイデアだと思っています。
ベテランの先生方ならば、みなさん実践されていることで、釈迦に説法だと思っています。でも、私の話を聞いて、ああ僕もやってるわ、私もやってるわ、と思われたら、これで間違ってなかったんだな、と思っていただけたらと思います。
今日は、時間の関係で、1つ目の「"いがいが言葉"を減らす」、二つ目の「森おこり・林おこり・木おこり」について、簡単に説明した後、三つ目の「"静寂の時間"を増やす」について、少し詳しく説明したいと思います。
まず、"いがいが言葉"を減らす、です。
『いがいが言葉』を減らす
「いがいが言葉を減らす」というのは、、子どもたちが教室の中で使っている「死ね」とか、「だまれ」とか、「うざい」とか、こういう言葉を減らすアイデアです。そして、反対に「ありがとう」「ごめんね」「どんまいどんまい」というような、"ほんわか言葉"を増やすアイデアです。こういう"いがいが言葉"がクラスからなくなると、クラスの荒れは30%はおさまるかな、と思っています。
森おこり林おこり木おこり
先生が、昨日はこれで怒ったのに、今日は違うことで怒った。二人が同じことしてるのに、こっちには怒って、こっちには怒らなかった。こういうのをえこひいきといって、子どもたちが嫌いな教師のワースト1です。日によって気分で怒る先生といると、子どもたちはびくびくします。私たちでも、いつこの上司がキレるか家族がキレるか予想できなかったら、これで怒るかなこれが地雷かなって、びくびくしますよね。特に広汎性発達障害のお子さんたちは不安が強い。この、びくびくすることが、とても苦手です。
そして、なにより、感情的に怒る教師、かーっとなって、わーっと怒鳴りつけるような教師は、なめられます。私は、これがなかなか分からなかった。ずっと怒鳴りつけてきたんです。なぜなめられるかというと、子どもっぽいし、大人げない。私たちだって、隣のご主人が、すごくかっこよくて、素敵な紳士だなと思うようなご主人だったとしても、その人が道を歩いていて、棒で犬をたたきつけて、「ぶっころしてやるーちっくしょー」って言ってるのを見たら、どうでしょう。がっかりしますよね。大人気ない。子どももそうです。感情的に怒る教師はなめられます。
私は怒り方を、ふるえあがるほど怖い森おこり、そして、わりと怖い林おこり、木おこり、と「3段階」に分けています。木おこりは、怒り方をぐーっと下げて、ほとんど怒らない。その代わり、笑えるタイムアウトで対処します。ねちねち怒る、そしてしつこく怒るのは、かえって逆効果です。あっさり、毅然と怒る。これがとても難しいんですが、今の子どもたちには大事なことだな、と思っています。
3番目です。"静寂の時間"を増やす。これは、教室を静かにして教師の話を聞かせる方法です。教師の話を静かに聞かせる方法は、3つあります。
一つ目は、教室の音を徹底的に減らす。とにかく徹底的に減らすことです。
発達障害のお子さんたちは、誰かがしゃべり出すと、またしゃべり出します。誰かが音を鳴らす、鉛筆の音、いすの音を鳴らし始めると、あちらこちらで、だんだん、音が増えてきます。ADHDタイプの子は、音によってさらに興奮します。広汎性発達障害のお子さんは聴覚的な聞き取りが弱いですから、たくさん音があると、大事な音が聞き取れません。音を減らすということが、まず大切な支援です。。
私は、4月の初めに、子どもたちに、こうお願いします。「先生は音が嫌いなの。なぜかというとね、音が多いと、先生のお話が聞き取れないお友だちが、たくさんいるのよ。だから音はやめてね」とお願いします。
でもお願いしたぐらいで治りません。なぜかというと、子どもたちは無意識でしゃべっている、無意識で音を立てている。ですから、4月の初めから工夫が必要です。私は、音を鳴らしている子どもたちに向かって、大きな声で「山田君!」と怒鳴りません。言ったら、その声で、さらに興奮します。ADHDタイプの子は、音によってさらに興奮が増す、と思っています。4月の初めは、少々手間はかかりますが、その子のそばまで行って、「音鳴ってるよ、いすが鳴ってるよ」と、小さな声で注意します。
教師自身も静かに行動します。教室では、なるべくそうっと、忍者のように歩く。給食の食器も、がちゃんと置かずにそうっと置く。そしてドアの開け閉めも、そうっと開けて、旅館の仲居さんのようにそうっと閉めて、「先生は音が嫌いよ」ということを、全身で醸し出します。
すると2学期になると、音を鳴らしてても、教師のアイコンタクトやジェスチャーで、音に気がつくようになります。そうすると、遠隔操作できるようになって、少し楽になってきます。それと同時に教室の音が減り、教室が静かになっていきます。
静寂の時間を増やすための、二つ目の方法です。私は、「おだまりモード」のカードを教室の黒板に貼ります。これは一切しゃべらない時間です。例えば、一切しゃべらなくてもいい書写、視写、読書タイムなどの時間に使います。
昼休みの後も、よく使います。昼休みの後、子どもたちはすごく興奮して帰ってきます。ドッヂボールで勝った負けた、最後のボールを誰が持って入るか、これでいつも揉めています。暑いので、下敷きであおいでばたばたばたしている。教室は騒然としています。
そういう時に「はい、教科書26ページ開いて!こっち向きなさい! なんで水筒がそこにあるの、後ろの棚でしょ! 帽子をくるくる回さんとクリップにつけて!」と言っても、誰も聞きません。よけいに、教師の声で騒然となります。
そういう時に、私はこれを使います。「はい、では、今からお黙りモード、1分。5、4、3、2、1、0」と言って、1分間、黙らせる。この時に興奮をぐっと下げるわけです。怒鳴ったり大声で叱って、子どもたちをおさえない。このカードでおさえよう、そう思っています。
この「おだまりカード」を使う前に、こんな話もしておきます。「おだまりモードの時は、3で吸って6で吐いてね」と言ってると、広汎性のお子さんは律儀に守っています。これも自律訓練法の一つですので、ここでちょっとクールダウンしますね。終わった時も、「はい終わり!」と教師が大声で言うと、ぶわーっと、また、教室がうるさくなります。そこで、教師が静かな落ちついた声で「はい。終わり。26ページ開きなさい」と言って、この静かな時間を大事に大事に持続させる。
ただし、こう思われませんか? カードを貼った時に、わざと「わー」とか大声で言う子がいると、思いませんか。ADHDタイプの子は、わざと「わー」と言ったりします。ADHDは、目立ちたがりです。そこで、「山田君!」と大声で言うと、思うつぼです。だって、目立つことができますもの。そうじゃなくて、私はカードを貼った横に、黙って、「タイムアウト山田君」と書きます。私も「おだまりモード」ですからね。そして、後で「タイムアウト」を実施します。「タイムアウト」については、後ほど説明しますが、そういうことを繰り返していくうちに、だんだんと「おだまりモード」が、水戸黄門の印籠のように効いてきます。
私は、もう一つ、「ひそひそモード」も使っています。これはひそひそ声でしゃべる時間です。
発達障害のお子さんは、このひそひそ声もへたくそです。しゃべるとすでに「体育館モード」。「何でそんなにでかい声なん?」と思ってしまいます。
ですから、4月の初めに訓練します。「喉に手をやって、あーって言ってごらん。ここが震えるよね。その時は声が出てるんだよ」。次に、ひそひそ声の練習をさせます。「ここが震えない、それは、ひそひそ声だよ」と訓練します。ついでに、ひそひそ笑いとか、ひそひそくしゃみなんかも練習させておくわけです。
これは、かなり長い時間持ちます。30分くらいは持ちます。例えば図工、総合学習の時間など、ちょっと友達と相談する、ちょっとペンの貸し借りをする、そんな必要がある時にひそひそ声で話ます。ひそひそモードは、かなり長い時間使えます。
そしてこれも、「笑えるタイムアウト」と連動すると、だんだん効いてきます。この静かな時間の時に集中力が上がる、自己コントロール力がアップするんです。
では、次に、「笑えるタイムアウト」について、お話します。外国では、違うお部屋でタイムアウトを実施することができます。でも、日本では、こうした形のタイムアウトが取りにくい、なぜかというと、別室に人手がないからです。
それで、私は、笑えるタイムアウトと言って、「木おこり」程度の場合は、がみがみ怒らなくていいような方法を取ることを、お勧めしています。
怒るより、笑えるタイムアウト
例えば、名札を忘れた場合、それで、いちいち、がみがみがみがみ怒りません。私は、休み時間に名札作りセットというのを用意して、休み時間に作らせる。10分間の休み時間に、それを作らせます。これも一つの罰です。
それから、私がよく使うのは、終わりの会の後、少しだけ残します。「これで終わりの会を終わります。山田君お残りください。じゃあみなさん、さようなら」。こう言います。すると山田君以外の子どもたちはドアから出て行く。その時に、ほかの子どもたちは、 「山田のやつ、松久先生にやられるぞ」「しばきあげられるぞ」とわくわくしながら帰っていきます。わくわくしていただいたらいい。そして閉めます。密室です。
その時に、がみがみねちねち怒りません。「山田君、ごみ27個拾って」。微妙な数字が、広汎性発達障害のお子さんは大好きです。そして27個ひろいます、25個だったら、きっちり数えて、あと2個拾って、という風に頼みます。27個拾った後は、「山田君、きれいになったわ、ありがとう。さよなら!」と言って帰っていただく。または「今日は、27個拾ってもらおうと思ったけど、20個にまけとくわ」と言って恩を売る。「15分残ってもらおうと思ったけど、2分30秒にします」と言って、いい先生だなーと思わせる。
なんか怒られるはずやったのに誉められて帰って、お互い気持ちいい。こういうタイムアウトに変えていく、なるべく怒ることを減らしていく。わざとお手伝いをさせて誉める。放課後、一対一になったその時間にかわいがる。こういう子どもこそ、かわいがったり誉めることが大切です。
教室を静かにする方法の三つ目。それは、教師が騒音にならない、ということです。そのためには三つの方法があります。一つ目、言葉を減らす。二つ目、非言語を使う。三つ目、怒鳴らない。です。
一つ目の言葉を減らすについては、時間がありませんので削りますが、たくさんしゃべればしゃべるほど、意味理解の悪い子にはありがた迷惑だ、ということです。なるべく短く簡潔な言葉で言った方が分かりやすいということです。
二つ目の、非言語を使うというのは、アイコンタクトやジェスチャー等を使う、ということです。
非言語を使う
非言語を使えば、教師がしゃべりませんから、もちろん静かになります。一度に多くの子どもに、メッセージを同時に送れます。
私は、よく、こんな授業をしていました。「(黒板の方を向いて)2たす9はいくつかなー? (子どもたちの方をふり向いて)こっち向きなさい! なんでそんなところにものを出してるの! 足出てるよ。また水筒そんなところに置いて! プリント拾って! (黒板の方を向いて)繰り上がって11。」 こんな授業をしていました。私の怒る声と授業の声が同じトーン。すると焦点化の悪いお子さんたちは、どれが大事か分からない。繰り上がりなのか、それとも水筒のことなのか。
そうじゃなくて「2たす9はいくつかなー? (非言語で注意したりサインを送った後で)繰り上がって11」と、なるべく授業の内容だけを言葉にしてください。注意することや誉める言葉でさえ非言語に隠して、授業の言葉が浮き上がるようにしていく、というのが大事です。
言葉が多ければ多いほど、揚げ足を取られる可能性が高いです。私が「あなた、なんでそんなに掃除をさぼってるの? 昨日もおとといもさぼってたわよ!」「おとといは違いますー」「おとといは、掃除なしの日でしたー」という。言えば言うほど揚げ足を取られる。
そうじゃなくて、「掃除はまじめにします」。毅然ときっぱりと言う。この方が、揚げ足を取られない。
非言語には、もう一ついいところがあります。誉めることですら、高学年の子どもは反抗してきます。「あなた、字を、とっても上手に書いているわね」「うるさいわ、おばはん」とか言ってきます。でも、その子に、指でオーケーサインを作って(いいよ)と非言語でメッセージを送ると、周りの子は気がつかない。でも、その子は誉められているのが分かる。そういう子どもこそ、本当は誉められたい子どもです。ですから、私は非言語をお勧めしています。
三つ目、どならない。
どならない
私は、若い時、自分には武器がないと思っていました。私は、とってもなめられやすいタイプです。体が小さい、力がなさそう、ですから、目の前にいるキレてる子、暴れている子、感情を爆発させている子、その子を抑えるのに、自分に何の武器もない。こう思っていました。
それで、若い時に考えついた方法は、大声でどなりつける、またはキレている子がいたら、その子よりもキレてびっくりさせる。これをやってたんです。
だからよくね、私は机を叩きました。「落ち着きなさい、泣き止みなさい、落ち着きなさい」と言いながら机を叩いて、自分の骨にひびが入ったことがあります。落ち着きなさいと言いながら、子どもは「落ち着いてないのはお前のほうやろ」と思って、教師の裏腹なメッセージに混乱します。
なぜ大声で怒鳴ると駄目なのか
特別支援教育の時代は、どなってはだめです。
なぜなら、ADHDタイプで、二次障害として反抗挑戦性障害になっている子は、権威のあるものに反抗します。だから、私がどなればどなるほど、反抗してくる。広汎性発達障害のお子さんたちは、不安を抱えてますので、ぐわっと、突然大声でどなられたら、パニックになります。また、聴覚的に過敏の子は、その声が怖くて教室にいられない。不登校になります。そして、被虐待の子どもたちは、今まで親に言われてたことや、いやな思い出が、フラッシュバックとなってよみがえってきたりして、もっと暴れます。
じゃあ、この暴れる子をどうしたらいいんや。私は、ある時、背中をさすりながら、静かな優しい声で「大丈夫か、つらいな」と言ったら、その子のパニックがおさまった時があります。私は今まで、その子がキレている時に、私が同じようにキレて、巻き込まれていた。まず、私が落ち着いて、プロの教師として、大人として、こっちに引っ張り込むぞ、こうした時に初めて、その子が落ち着いたのでした。こういうことになかなか気がつかったのです。
以上、私が提唱する「20個の集団指導の取り組み」から、いくつかを取り上げました。最初に申しあげましたように、この20個のベースになるのは「好意に満ちた語りかけ」です。最後に、このお話をします。
私は、よく悪意に満ちた言い方をしてしまいます。
子どもたちが「先生、保健室に行きたい、しんどい」って言ったら、「さっきまで思い切り暴れてたやんか」。これは、悪意に満ちています。「どうしたんかな、熱でもはかってみ、風邪でもひいたんかな」。これは好意に満ちています。
給食中、「先生、おかわりしたい」とやってきた、「さっきしんどかったのに、おかわりだけはできるん」。これは、悪意に満ちています。「そうか、元気になってよかったな、山盛り食べや」。これは好意に満ちています。
掃除の時間、ぐるんぐるんほうきを回している。「危ない、また友達をけがさせる気か!」。悪意に満ちています。「いつも3回振り回してから掃除するもんな」。ADHDタイプの子どもは、だいたい3回ぐらい回してから掃除する子なんですね。これは、好意に満ちています。
友達とけんかしたことを訴えに来た。「あんたばっかりや、いっつも。けんかすんのあんたばっかり」。悪意に満ちています。「先生によう言いに来てくれたな、ほんとは手出したかったのに、我慢したんや」と誉めてやる。でも、一発殴ってくることあります。「ほんとは二発殴りたかったのに、一発で我慢したんや」と、誉めてやる。五発殴ってくる時もあります。「ほんとはぼこぼこにしたかったのに、五発で我慢したんやな」。何発でも使えます。
自分たち教師が、子どもたちに好意に満ちた語りかけをすると、子どもたち同士にも好意が育ってくる。暖かいクラスになってきます。それが、明日からできる簡単で最大の効果があらわれる取り組みだと、私は思っています。ご静聴ありがとうございました。
松久先生は、昨年まで、堺市立の小学校におられた先生ですけれども、本当に、「ほんわかモード」で授業をしてらっしゃる様子が、目に見えてきました。好意に満ちた語りかけ、これがクラス作りにとって大切です、発達障害のお子さんがクラスにいた時には、その子だけさわるんではなくて、まず最初に、しっかりしたクラス作りが大切です、と、教師としての基本の部分について、話をしていただいたと思います。ありがとうございました。
堺市立百舌鳥養護学校分校 教諭。堺市立小学校 通常学級担任。同小学校で特別支援教室運営。
現在、堺市教育センター 適応指導教室 指導主事。
学校心理士、臨床発達心理士、特別支援教育士。
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終わり