私は大学の教員をしつつ、LD学会で行っている「特別支援教育士」の養成実習の責任者をしております。それから、学校、保育所、幼稚園などの、巡回や指導もしています。その中で、先生や学校側の課題、それから、保護者や子どもたちが持っている課題等について、考えることがたくさんあります。
今日は、そういうお話や、アメリカの特別支援教育のお話などを交えながら、お話ししていきます。
アメリカの特別支援教育の現場を、この何年間か、かなり集中して見に行きました。日本との決定的な違いは、「学習支援」が中心だ、ということです。今の日本の特別支援教育は、まだ学習支援にいかず、「行動の問題」、「クラスが荒れている」、「落ち着かない」、それから「アスペルガーの子どもの社会性の問題」などに追われています。アメリカの教室を見せていただくと、飛び出す子はいません。廊下を走り回っている子もいないので、「どの子がADHDですか?」と聞きました。「あの子です」と言われても、その子が授業に参加できない状態というのは、あまりないです。
そういう状況を見ていて、日本でも特別支援教育が始まりましたが、どういう方向性でいったらいいのか、それから、特別支援教育士を養成する中で、学校の教員、それから特別支援教育に関わろうとしている他の職種の人たちに、どこまでをゴールとして示したらいいのか、ということを考えてきました。
今日のテーマは「保護者の果たす役割」です。どうしても、保護者への警告みたいなところも含まれてきますが、今日は、保護者の方を、そして、保護者を受け止める学校側も、応援したいと思ってお話させていただきます。
「発達障害とはなにか」という定義は、DSM-㈽-R(1987年に発表されたアメリカ精神医学会の「精神障害の診断と分類の手引き」)によれば、精神遅滞、広汎性発達障害、特異的発達遅滞を含みます。しかし、軽度の発達障害という場合には、知的障害を含みません。
広汎性発達障害とは、全般的で不均一な遅れを持っている子どもです。特異的発達遅滞の中には、学習障害、言語と会話の障害、コミュニケーション障害、それから運動能力障害、不器用、といった、特定領域の遅れのことを含めて説明しています。
この中にADHDは入ってはいませんでした。しかし、2005年に施行された「発達障害者支援法」の中では、広汎性発達障害や、ADHD、そして学習障害も含めて定義をしています。
この発達障害は、親の育て方が原因ではありません。こだわりや、パニック、認知のしかたの偏り、多動である、落ち着きがない、といった問題は、もちろん、親の育て方が原因ではないのです。
ですが、二次障害について言えば、親のかかわりかたが影響してしまうという面もあるのです。しつけや育て方も関与する、という風に思っています。親が子どもの障害を理解していれば、元々の個性と障害の特性、そして子どもの心の理解がきっちりできていれば、育て方の問題ではないということになりますが、我が子であっても子どもの障害の理解が充分ではなかったり、子どもたちの心についてちゃんと理解できていなかったりする場合は、かなり関係してきます。
わたしはNHKの発達相談、LD相談等もさせていただいています。それから各地の巡回指導相談の中で直接親御さんの相談も受けています。そうしたときに、「ドクターショッピング」をされている親御さんが本当に多いなと思います。納得が得られる診断を受けるまで、医者や著名な先生を回る、これを、ドクターショッピングと言います。
これは、必要な時も、もちろんあります。「最初の診断が確実ではない」、「小さいときに受けたので、もう一度確認をしていく必要がある」といった場合が、そうですね。例えば、ADHDと言われていたけれども、どうもこのごろの様子を見ていくと、ADHDもあるけど、広汎性発達障害、自閉症関連の障害もあるんじゃないか、という時などは、新たな診断をもう一度受けてみるのは、もちろん必要なことなんです。
一方で、何年もドクターショッピングをしている間に、子どもたちの状態がうまくいかなくなっていたり、大事な伸びる時期を逃していたり、ということがあります。「診断を受けた方がいいでしょうか?」と言うお母さんに対して、「受けてもいいけれど、それとは別に、今することがある。それを確実にやることと、診断を受けること、2つやったらどうですか」というお話を、私はします。
「今、すること」とは何でしょうか。1つは、「しつけ」です。
発達障害のお子さんのしつけは本当にしにくいです。10年、20年くらい前のアメリカの教室の様子というのは、お茶を飲みながら机に足をのせながら授業を聞いている子がいても、よし、とすることがありました。私もそういう現場を見ました。
ですが、今は違います。本当に、しつけがしっかりされています。いろんなところに行きましたが、子どもを連れている親御さんがいても、子どもを走らせているような親はひとりもいません。歩く歩道を一人で歩く子どももいません。大きいなと思えるお子さんでも、ちゃんと手をとっています。そして、大きな声を出すと、必ず親が注意してるんですね。「あ、日本とちょっと違うな」という風に思いました。
今年、ハワイにアスペルガーの幼児を連れてサマーキャンプに行きました。その時、ホテルで、日本人の親御さんが、一年生とか幼稚園の子に、デジカメを渡していました。それを見た外国の旅行者の方が、「オー!」と驚いていました。「可愛いと思って見ているんじゃないのよ。デジカメみたいな大事なものを、子どもに自由にさせているのが不思議、って見られてるのよ」と、親御さんに言いました。
まあ、これは、発達障害に限らず、日本の子どもたち全体のしつけに言えることかなと思います。
もうひとつは、こだわりだったり、障害の特性だったり、そこも上手に育てていく必要があるなという風に思います。
幼稚園、保育所を回っている時によく聞く例でをお話ししましょう。
PDD(広汎性発達障害)のお子さんで、「パンツの中にうんちをしてしまう」、「パンツがないとうんちができない」というお子さんがいます。どうしてそうなっているのか聞くと、せっかく幼稚園や保育所で、布パンツでトレーニングしているのに、お母さんたちが、外出した時に失敗させたくないから、外出時は紙パンツはかせちゃう。それから、その子は、うんちがしたくなったら「紙パンツを持ってきてはかせてくれ」と言うそうです。紙パンツを履いて、部屋の隅できばる。
先日行った保育園では、子どもが職員室に来て、紙パンツを履かせてもらって、そこの隅でうんちをする子が2人もいると聞きました。「先生、それね、こだわりになってしまうので、やっぱり改善していかなきゃいけないですよ」と、お話をしました。
紙パンツを履いて便をするのに慣れて、紙パンツを脱いだ状態で便をすることに違和感がある。紙パンツにこだわってしまう。こういうときは布パンツをいっぱい買って練習していくこと。それから、便器も、洋式の大人用便器では足が地面につかないので、きばれないです。そういうことも関係があるので、本当は、おまるから練習していかないと、やっぱりうまくいかないんです。大きくなっても、男性で、立っておしっこができない、便座に座り込んでしている大人もいたりします。こういうのも、こだわりが習慣化されてしまっているんですね。
発達障害のこだわりとか、それから筋緊張の弱さとか、そういうものが色々絡み合って影響している結果なので、発達障害の特性を絡めて、きちんと理解していく必要があるなと思います。しつけとは、怒鳴ったりすることではなくて、よい方向に習慣化していく取り組みのことです。そのような取り組みは、必要だと思います。3歳以降になりますと、発達障害の中の広汎性発達障害のお子さんも、非常に教育しやすくなってきます。こだわりも強くなって大変にもなってくるんですが、教えやすい時期ではあるんですね。そういう時期に、うまく教えていく必要があるなと思っています。
日本は今やっと特別支援教育のスタートを切ったところです。先生方も、試行錯誤しながら実践をされていると思います
特別支援教育における、個別の指導計画の中には、計画を立てる欄のところに、「保護者との連携」という項目があります。保護者にやってもらうこと、保護者と協力しなければできないことなどを、先生と保護者が一緒に考えて書いていきましょう、という欄です。ですが、保護者の中には、「学校にお願い!」と言って、なかなか話を聞いてくれない方も多いと聞いています。
学習支援が充実していくためには、子どもの行動の問題と社会性の問題を、学校と家庭が協力して、早期に解決していくことが先決なんだろうと思います。そうしないと、子どもたちに教えたいこと、学ばせたいことができないのです。
巡回相談に行きましても、先生方から相談に挙がるのは、問題行動のある子どもばかりです。「学習が遅れている」という子どもをそんなに挙げてきてくれません。そこが少し残念です。
行動やトラブルが特別支援の対象でしょうか。本当は、「学習の問題」を解決していかなければならないのです。例えば、ひらがなの読み書きがあまりうまくいかない、軽いレベルの学習の問題があります。3、4年生で出てくる問題ですが、軽いLDの子どもは漢字の読み書きなどがうまくいきません。それから、中学校で出る英語の読み書き。軽いLDやADHD、PDDタイプの子どもは、英語の読み書きが、なかなかうまくいきません。また、算数の計算の問題。算数に課題のある子を早くひろわないと、中学校の非行などにつながっていくおそれがあるのです。
こういうことが学習の課題なのですが、通常の学級の先生とお話をしていくと、「こういうことは当たり前に起こっていることで、特別支援教育の対象ではない」と思っている先生も、いっぱいいます。勉強のことが気になるけど、クラスに迷惑はかけてないし、勉強はできないけど頑張っているから、という理解で、特別支援教育の対象として理解していないのです。この子たちを、早くから、教育、学習という側面で支援していこうというのが、この特別支援教育の中の中核となる支援です。現実は、まだ、そこに至ってはいませんが。
「高機能広汎性の子どもは "社会性の障害" があるので、ソーシャルスキルを育てるんだ」と思っている保護者や、学校の先生がとても多いんですね。しかし、実際に高機能で知能に障害のない子どもであっても、かなり学習面で課題を持っています。これはADHD、LDでもそうです。学習に課題を持っているのに、学習面にはほとんどアプローチされず、現状では中学校、高校は行くところがない、ということが起こっています。
アメリカでは、PDD、高機能広汎性の子どもさんが成功しているのをたくさん見せてもらいましたが、みんな勉強していた子どもたちなんです。高機能の子どもたちは、偏ってはいるかもしれないけど、勉強は得意だったり、勉強の方法をうまく導いてあげれば、すごく学ぶのが好きだったりします。知識から学ぶ子なんですね。経験から学びにくいので、学習上での課題というのをしっかり把握する必要があると私は思っています。
広汎性発達障害に、読み書き障害、ディスレキシア(読字障害)を持っている子ども、それから特にアスペルガーの子に多いんですが、左右の混乱。利き手が左という子に、書くことに課題を持っている、書字障害の子どもが実は多いです。こういう子どもたちの「学習」というところまで、早く支援を広げたいと私は思っているんですね。
それに加えて、PDD、広汎性発達障害ならではの学習上の困難さもあります。障害や、認知の特性、心の理論がわかりにくい、行間が読みにくいなどからくる学習の問題、読み書きには課題がなかったけれど、読解に課題がある。例えば、「作者はどんな気持ちでこれを書きましたか」とか「おじいさんの気持ちはどんな気持ちですか」とか、「作者が言いたかったことは何ですか」とか、こういうことは殆ど彼らはわかりません。
そういう学習上の支援というところがあるわけです。ですから、学校の先生たちは、こういう子どもたちの学習という側面も、是非見て欲しいと思います。
しつけというのは基本習慣だと私は思っています。ですから、お母さん達から家庭の様子を聞かせていただくと、それをしつけに変えていこう、という話をいっぱいします。
例えば、「絵本を読む時、どこで読みますか? 床に座って読みますか?」というお話を、相談の時に聞くんですね。だいたい床に広げて見ています。そうすると、学習習慣につながりにくいので、できたら食卓テーブルをきれいにして、ハイチェアーとセットにして、「一緒にそこに座って絵本を読もうね」って机に座る習慣を作ってください。3歳くらいからすると、学校に行くまでに、机に座ることがあまり苦痛じゃなくなります。嫌になって立って行ったら、それでおしまいにしてください。「もっとやりましょう」は駄目です。
「好きなおやつを、好きなだけ袋ごとあげちゃう」というのも駄目です。まずカロリーが多くなってしまうし、偏食を助長してしまいます。やはりテーブルに座って、複数のおやつをお皿に分けて、おいしいね」、「こんな味がするね」って言いながら食べてくださいね。こういうことが全部しつけになるんですよ。
電車の中でうろうろしたりパニックを起こしたりするお子さんは、必ず、好きなおもちゃと好きな絵本をバッグにいれて、背負わせてください。うろうろせずにいるためには、何かものがいるんです。ゲームでもいいです。そして、できたら、あまり混雑時に乗らないで、まず空いている時間から練習をしていきましょう。
また、混雑時にレストランに行ってパニックを起こすと、もう嫌になってしまいますから、2時とか3時に、まずはすぐに出てくるパフェとかから練習をして、レストランで食事ができるように練習していきましょう。
こういうことが全部しつけなんですね。そういうことを積み重ねていくことは、発達障害のある子でもない子でもするべきことだと私は思います。
学校の取り組みは、まだ本当に始まったばかりで、学校の中の温度差も非常にあります。とても熱心に取り組んでいる学校や、まだまだ管理職の認識もおぼつかないという所もあります。校内委員会も開かれるようになってきていて、本当はここで保護者の意見をちゃんと取り入れたり、個別支援計画も保護者の同意を得たもので実践していくようになりたいですね。ですが、これは温度差があって、積極的な学校だと、保護者も積極的でうまくいくし、積極的でない学校や、まだ理解の悪い学校だと、親御さんが学校を教育していく必要もあります。ここは難しいところです。
親御さんも、子どもの実態を良く理解している親御さんと、まだ子どもの問題を受け止め難い、理解できない親御さんもいます。親たちも努力をしていかなければならないし、親たちが理解して取り組めるように、様々な学校の機関、保育所、幼稚園、家庭児童相談室、子ども家庭センターなどが支援をしていく必要があります。
教師の方は、子どもの問題をよく理解でき、対処ができる教師も増えてきています。特別支援教育士というのを養成していますが、関西が、日本の中で一番、特別支援教育士を持った先生がいます。
特別支援教育士になるには30単位の講義を受けないといけないし、2泊3日の実習もあって、その試験は、受かったり落ちたりするわけです。そういう中で、私たちは特別支援がわかる先生、子どもを助けられる先生、学習支援ができる先生をつくろうと、今一生懸命やっています。
こういう教師をたくさん増やしていくことが、今求められていることだと思っていますが、まだまだ子どもの問題が理解できなかったり、もしかすると新しい教育にストレスを感じている先生、自分が今までやってきたことを否定されるんじゃないかと思っている先生もいると思います。否定してはいないんですね。「もうひとつ新しいことをしよう」と言っているだけなんですね。
今まで学校では、「通常の中では支援はできません。お母さん、養護学級に行ってもらわないと」みたいな言い方をしてきたと思うんですが、そうではなくて、「こういう支援が学校ではできるんですよ」という条件提示ができていかなければなりません。
保護者はすぐにすべてを要求しがちなんですが、学校も「お互いに何を協力できるか」、「第一優先にするべきことは何か」ということを選んでやっていかないと難しいです。ですから、お母さんがこのぐらいは学校にして欲しいと思うことの中で、「まず入学直後にして欲しいことは何か」、「入学前にして欲しいことが何か」というように、少し選べるといいなと思います。
そして、そういう具体的項目について話し合える環境を、学校が作っていかなきゃいけないと思っています。個別の指導計画の中には家庭との連携や、保護者にお願いし、保護者と協力する項目は何か、それについて保護者の同意を得て書く、という欄があるということを覚えておいてください。
そして、学校との話し合いに、是非お父さんも参加していくのがいいと私は思っています。両親がいる場合には、子どもの問題と教育について、両親が、同じように理解する必要があります。父親の「子どもの問題理解」は、一般的に遅くなりがちです。「ちょっと変わっているだけだろう」、「俺もきかんぼうだった」と、よくお父さんは言います。
もうひとつは、母親任せでは思春期を乗り切れないです。お母さんと異性、つまり男の子を育てているお母さんと、「母子密着」という言葉があるんですが、密着しすぎてお母さんがすべてを取り込んでしまうので自立させにくい、という側面があります。ですから、ある時期からお父さんが男の子を男に育てていく部分、大人に育てていく部分を担っていく必要があるんですね。
さらにもうひとつ、これは教員のいないところでお母さんに教えたいんですが、管理職、学校の校長、教頭は、お母さん一人で来る時と、お父さんが来たときの態度が違うんです。もう、まるで違います。まだまだ男女差別は歴然とあると感じるのですが、ですから、お父さんを学校に連れ出すということは、ちゃんと理解してもらうひとつの手段だと思います。
今日の私のテーマであります、「保護者にできること」について、お話をしていきます。
特にADHDや広汎性発達障害で、高機能の子どもは、困る行動をたくさんしますが、その行動には、ちゃんとした理由があることが多いのです。子どものパニックには、原因や理由があります。反抗する時にも理由があります。我が子であるからこそ、カウンセリングマインドが必要です。ちょっと突き放して考える練習をしないと、いけないんですね。
「すごいパニックになって、また怒鳴りそう」という時は離れる。そういう風にして、考えていく必要があります。
私の一番の専門分野である「インリアル・アプローチ」という考え方の中に、「子どもの視点で子どもの気持ちを捉えていく」という方法論があります。そのなかに「ソウル」(SOUL)という基本姿勢があります。子どもがわからなかったり、子どものことが理解できないときには「ソウル」という姿勢を持ちなさいと言うことです。
まず、「Silence」。沈黙です。しゃべらないで沈黙してみる。しゃべってしまうと、子どもを傷つけたり攻撃したりすることがありますよね。だから、ちょっと沈黙してみる。
そして、「Observation」。よく観察してみる。「前にもこんな場面なかったかな」とか、「この子がパニックを起こす時は、どういう時だったかな」とかですね。
そして、「Understanding」。理解する。親の立場ではなくて、その子の視点で理解すること。
そして、「Listening」。聴く。子どもの言葉を聞いてあげる、傾聴するということです。「反抗」という形で伝えているものは何なのか。それから「パニック」っていう形で混乱を示しているのは何かというところを理解していくのです。
これは、学校の先生の方がすごくうまいなと思いますね。子どもが何か問題を起こしたとき、問題がどのような経緯で起こったかを確認しないといけないんですね。教員、保育士、幼稚園の先生も、問題が起こってからその場に行くことが多いんです。その前を見ていないんです。だから、どういう経緯でその子がパニックになったのか、というところを見ていないことが多い気がします。
子どもの話がへたくそであっても、話をしっかり聞いてください。彼らの論理というのは、ちょっと独特で、「その論理は合わないよ」ということもあるんですが、やっぱり聞いてあげる。そして一緒に解決策や対応を考える。「あ、そうか、そのとき頭にきてパーンて叩いちゃったよね。そうか、その気持ちはわかるよ。でもね、パーンとやった子のお顔見て。赤くなって涙も出てるよ。あの子きっと痛かったから、お母さんも一緒に謝るから謝ってみようか」という風にして解決をしていきます。
もうひとつは行動療法的な対応の仕方です。お母さんたちには、子どもにふりまわされている側面があるんですね。自販機の前で泣いたり暴れたりすると買っちゃう。あきらめて、いろんなことをしてあげてしまう。ということがあります。そういうことは、しつけと、それから行動療法の考え方を取り入れて、うまく対処していく必要があるかなと思います。
小学校に入学する時が、親御さんにとって一番の試練です。つらいし、トラブルもいっぱいあるし、考えなきゃいけないこともいっぱいある。それなのに、来年1年生になるからということで、今から学校に相談に行きますと、これまでは、こんな対応をされていました。「4月にならないと細かいことはわかりません」「とりあえず入学式に来てください、入学式以降です」「校長先生が代わるかもしれないので、通常学級に入れるかどうか約束できません」などと言われていました。
これでは、学校に対して不満を持ちます。当然です。先生方が無神経になってしまっていることがいっぱいあります。やはり、学校に来る子どもに関しては、特に発達障害がある場合には、学校に来る以前から準備を進めていく必要があります。特別支援コーディネーターや、特別支援学級の先生、養護学級の先生が中心となって、その子が安心して、またその親が安心して学校に来れるように支援をする必要があると思います。
一方で、親御さんにも準備をしていただく必要があると思います。私は、「3学期は学校に行く準備」と思っています。幼稚園の先生、保育所の先生にも、「5歳児は学校に行く準備をしてください」「学校は、40分机に座るので、今は、三角お山座りで絵本を聞いてるけど、それを、机に座ってお話を聞くように変えていってね」というようなお話もします。入学前は、特にパニックやこだわりの強いお子さんに関しては、様々な練習をしていく必要があります。
保育所の調査をした時に、朝遅い子どもがけっこう多いんですね。共稼ぎのお母さんの場合は、朝7時とか7時半、8時に子どもを預ける方もいますが、障害児枠などで保育所に入れている子どもの場合だと、9時とかに保育所に行きますよね。遅い子だと9時半っていう子もいたりします。そうすると8時くらいに起きている子どもがいるんですね。睡眠障害のあるお子さんもいるのでなかなか難しいのですが、やはり、朝起きる時間を、学校に行く時間帯に合わせていかないといけません。朝、ちゃんと朝食を食べて行けるようにしましょう。
それから、ランドセルにも馴染みにくい子どもさんもいたりするので、ランドセルを背負って学校に行く練習が必要な子どももいます。
道順こだわるお子さんもいますね。「TEACCH」(ティーチ)というプログラムを少し使いながら学校行く練習をします。そして学校の見学をさせてもらう。
それから、学校で使う用語を教えていく必要が、結構あります。例えば、広汎性の子どもで、意味のずれを持った子どもにとても多いのですが、校長先生と言う場合の「校長」は苗字だと思ってます。そういうことがいっぱいあるので、教えていかないといけないのです。
「本」というのは知っていても「教科書」がわからない子どももいたりします。これも語義の問題なんですが、「国語の本を出して」を、「国語の教科書出して」と言ったら、きょとんとしている子がいたりします。だから、今まで「本」といっていたものの中に、「国語の本」とか「算数の本」とか「教科書」というのがあること、「同じものなんだよ」「下位分類なんだよ」といったところを、きっちり教えておかなければなりません。そういったことも、準備をする必要があるのです。
「入学後に相談しましょう」では、やはり失敗してしまいます。特に、自閉系や広汎性発達障害の子どもさんは、一回決め付けてしまうと、なかなか、その決め付けをはがすことが難しいです。
例えば、「あの先生は、引きずってどこかに連れていく人」となってしまうと、もう、その先生の顔に、大きな赤いペケ印がついてしまいます。初めが肝心です。
入学式がうまくいくか、担任になる先生と仲良しになれるかは、非常に重要です。ですから、入学式の前日に、入学式会場をちゃんと見学させてもらったり、式の途中でパニックになったら、「お母さんと特別支援学級の先生がついて、ここから退場しましょう」と決めておくことです。
それから、座席もマークをつけておいてあげてください。前日に、「ここに座るよ」などの約束を決めておいてあげる。保育所とか幼稚園とか行くと、よく座席にマークがついているんですが、保育所で使ってたマークをそのままもらってきて、学校でちょっと延長して使ってあげる。自閉のこだわりの強いお子さんに対しては、こういう細やかな手立てを、親御さんときっちり相談していく方法があります。
このような具体的な手立てができる学校であれば、トラブルは非常に少なくなってくるし、親も子どもも安心して学校に行けることになりますね。そういう手立てを持った先生になってほしいし、そういう手立てについて相談できる保護者になっていただきたいと思っています。
次に、思春期にかかわる問題を話しましょう。思春期というのは必ずやって来ます。小学校4年、5年、6年生、中学1年、2年、3年と、学校教育の半分くらい、思春期に関わる問題に直面しなければなりません。いい関係をずっと作っておかないと、思春期は乗り切れないです。子どもの話をよく聞いて、子どもと一緒に遊ぶことです。
私の知っているお母さんは、子どもが電車のこだわりがあったので、4年生以降、月一回は、お父さんと、電車を乗りに旅行に出かけてもらいました。今、その子は大人ですが、休日は、自分で電車路線を決めて、お小遣いを持って、電車に乗って、遊びに行って帰ってきます。本人はすごく楽しくしているんですね。
それともう一つ、話をよく聞いて、学校での状況や友達関係を、しっかり把握することです。誰と遊んで、誰がいじめやからかいをしてるのか、休み時間どう過ごしているのか、休み時間は誰と遊ぶのか。「今日何して遊んだ?」ではなく、ちょっと限定してあげましょう。「20分休みの長い休み時間に、どこで誰と遊んだの?」と聞かないと駄目なんですよ。「今日何して遊んだの?」と言うと、広汎性の子は、「いろいろ遊んだからわからない。いっぱい遊んだ」と答えるんですね。ですから、限定して聞いて把握していく必要があります。
発達障害の子どもさんは、より多く精神科的な疾患を伴いやすいです。
多いのは「鬱病」です。最近も、北海道大学の研究で、中学1年生に10%くらい、鬱の可能性の、抑鬱的な子どもがいるということがわかりました。アメリカでも中高生の鬱は、ものすごい課題なんだそうです。「死にたい」などと言った場合には、学校と家庭とが連携して、すぐ児童精神科などに相談に行く義務が、親御さんにもあるし、ちゃんとした診断書をもらって、学校に戻ってこなければいけないそうです。
それから、「不安神経症」。脅迫的な症状にとりつかれてしまう。
それから、あまり言語で説明できないお子さん、これは重たい障害のお子さんにもありますが、「心身症」ですね。運動会前になると、いっぱい湿疹が出だしたとか、発熱が続く、下痢が続く、眠れなくなる、落ち着きがなくなる、という心身症ですね。だから行事がある前には、必ず、先生方は、心身症をおこさないように、心身症が起こっていないかを見ていく必要がありますね。
心の問題に気づいたら、発達障害の理解のある心身症外来と児童精神科を受診しないといけません。日本では、まだ、こうしたところがたいへん少ないのですが、可能な限り、早めに行った方がいいのです。
なぜ思春期が難しいか、というのは、1つには、「心の理論」の形成、自己理解の特異性ということがかかわってくるからです。高機能広汎性の子どもなんですが、他者の心について気づくシステムの形成の遅れ、心の理論の形成に課題があるんですね。
家庭内の役割分担も大切です。「学校との連携」という話の時にもお話ししましたが、お父さんに役割を担ってもらう事が必要です。
さきほど、子どもさんのお世話をするとか、子どもに付き合うというお話をしましたが、できたら、真面目なお母さんほど、休日を作ってあげたいと思います。お母さんが、子どものことを全然考えなくて、朝から晩までいなくていい日、月一回は無理でも、何ヶ月に一回かあると、嬉しいと思うんですね。今日は美容院に行って、お買い物に行って、夕飯を友達と一緒に食べて帰って来る。こんな日が発達障害のお母さんにあるだろうか。これは絶対必要なんです。
そのために、お父さんの協力が必要です。お父さんに、子どもと留守番してもらったり、お出かけしてもらい、お母さんも明るくなって、お父さんといがみ合いにならないように努力してください。残念ながら、発達障害があったがために、家族がうまくいかなかった、というケースがとても多いように思います。
一人親の場合は、祖父母に協力してもらったり、ボランティアを利用するのが良いかもしれません。
高機能の子どもに対して、お友達を作るのも、なかなか難しいです。ですが、一人にさせないということが非常に重要ですね。
中高生で引きこもりになることを防ぐためには、子どものことを理解してくれる大人がまず必要です。親の兄弟、叔父、叔母、自分の兄弟で子どもを理解してくれる人のところに、よく出入りする。中学生くらいになったら、弟、妹さんのところのおうちに泊まらせてもらう。そのうちの食卓、夕食に参加する。そういう経験が大切です。そういう風にして、一人ではなかなか行きにくい場所に一緒に行ってもらう。
子どもを理解してくれている保育所、幼稚園、学校の教師、主治医と積極的にお話ができることも大切です。
それから、遊びにいける近所の家もいいですね。近所のおじいちゃんが、よくうちの子をかまってくれる、将棋を教えてくれる、というような感じですね。親以外の大人とのかかわりが、とっても重要です。思春期以降、お母さんには話せないけど、おばちゃんには話せるってことは、結構あったりします。
そういう仲間作りや関係者作りを、親もしていかなければならないと思います。ずっと手がかかる、ずっと親から離れられないという側面を、発達障害の子は持っていますが、小さい時から積み重ねをしていくことで、大人になった時に社会に参加しやすくなっている、そのための支援を、小さい頃からしていっていただきたいと思っています。
今日は、親がすべきこととして、幼児期から学童期、そして、その先を見通しながらお話をさせていただきました。ありがとうございました。
北海道大学教育学部卒。北海道教育大学 言語治療教育 教員養成課程修了。大阪教育大学 研究生終了。
北海道白老小学校 ことばの教室 教諭。大阪市更生療育センター 言語聴覚士、療育部主任。
現在、大阪府立大学 人間社会学部 社会福祉学科 准教授。日本LD学会常任理事。日本LD学会 特別支援教育士資格認定協会 副会長。日本インリアル研究会 事務局長。
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終わり