今回ご紹介するのは、「アーピカル☆」(大阪市)のAZUSA(あずさ)さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……AZUSA

Ms. Birds Singing☆

絵を描くことは、家族やおばあちゃんとのコミュニケーションの中で育まれた優しくて温かいもの。それはAZUSAの視点と秘めた感動を他者と共有する、彼女を支える大きな力です。
「美しい鳥」は、数年かけて彼女がたどり着いたお気に入りのモチーフです。このモチーフに出会ってから彼女は一枚描く毎に驚くほど大きく成長してきました。
色鉛筆を左手に3本、右手に1本持つ四刀流でサラサラと描いていた彼女は、パステル→オイルパステルと画材を変える度に集中力が増し、終わりの時間になっても声をかけるまでやめないほどオイルパステルの質感に夢中になっていきます。ねっちりと厚塗りした後に三角クリップで削ぎ落とす技法は、作家の描き方と興味・画材の特徴・サポート環境から生まれた化学反応で、作家とサポーターが同じ呼吸と熱量で画面に向き合った結果です。
楽しい時は鳥がさえずるように鼻歌をうたい、作品一作毎に変化していくAZUSA。今日も鼻歌をうたいながら熱中して描き続けています。(アーピカル☆・岡﨑潤、前田美直子)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

AZUSA《美しい鳥シリーズ》
大阪で開催する展覧会「about me 8」のキュレーションのため、大阪・平野にある「アーピカル☆」を訪ねた。大きなテーブルを囲む椅子のひとつに座って、少しうつむきがちの姿勢で絵を描いていたのがAZUSAだ。小さなキャンバスに一心不乱に描いている。オイルパステルが幾重にも重なった画面をクリップの先端でスクラッチし、さらにその上に再びオイルパステルで上描きする。色は重なって混じり濁ってくる。だが不思議に美しい画面だった。

今回、紹介する作品は《美しい鳥シリーズ》の最新作。『世界の美しい鳥』という図鑑からインスピレーションを受けたシリーズの一枚だ。キャンバスにオイルパステルで、スクラッチなしの塗り重ねで描かれている。引き込まれそうな緑を基調とした深遠な色彩の下には赤黒い層が見え隠れして重なる。ぼんやり浮かび上がって見える茶色がかった朱色のくちばしのような形。塗りの薄い黄色のぽっかりと明るい部分。密度と重さが陰影と奥行きを生み、サイズは小さいのに存在感がある、実物よりも大きさを感じる絵だ。

AZUSAは知的障害をともなう自閉スペクトラム症。「アーピカル☆」に通うようになって7年になる。「アーピカル☆」は障害がある人たちのためのオープンアトリエで、月に一度、大阪各地からメンバーさんたちが集まってくる。言葉のやり取りがむずかしいメンバーも多く、非言語のコミュニケーションの割合が非常に大きい。支援する側としては作品から“読み取る”作業がとても重要になってくる。その人の表現が開花するようにと、画材も試行錯誤を重ねてきた。AZUSAの場合、最初は画用紙に色鉛筆で、それもなぜか右手に1本と左手に3本持って描いていた。色鉛筆だと力が入らないのでパステルに変わり、それから、キャンバスとオイルパステルに変わっていった。描くと画面が削れていくことに気づいて、スクラッチ技法も使うようになった。
1枚の作品を描くのに数か月、一年に1枚の時もある。初期の作品は、はっきり鳥だとわかる写実性が高いスタイルで背景の植物なども描き込んでいた。そのうちだんだんと抽象的になっていく。塗っては削るという行為を繰り返していくうちに、モチーフはしだいに象徴性を帯びてくる。“再現性”からの“エッセンスの現出”という絵画の美術史の流れを個人制作の中でたどっている。抽象性は人間本来の欲求によって生まれるのだということをAZUSAの作品を見ていると感じる。

*AZUSAの作品が展示されます。
展覧会「about me 8~“わたし”を知って~Moment」

開催日:2024年11月28日(木)~12月3日(火) 10:30~20:30 ※最終日のみ16:00
会場:ルクア イーレ 4F「sPACE」(大阪市北区梅田3-1-3)

詳しくは国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)のサイトをご覧ください。(NHK HEARTSのサイトを離れます)


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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