今回ご紹介するのは、「まつさかチャレンジドプレイス希望の園」(三重・松阪市)の岡部 志士(おかべ・ゆきひと)さんの作品です。
キュレーターは、福祉実験ユニット・ヘラルボニーの松田 文登さんです。

キュレーターより 《松田 文登さん》

「Hoo!Hey!」岡部 志士

板の木目に敷き込まれたクレヨンの丁寧な質感が心地よい。一瞬一瞬の閃きのみで選ばれた色彩が、何にも囚われなくて良いのだと優しく語る。この極彩色のパレードは、茹だるように暑い夏のように情熱的で、羽毛のように軽やかだ。

三重県「希望の園」に在籍する岡部 志士さんは、クレヨンを塗って面を創り、色を消すようにニードルで削ってできたクレヨンのカスを集め、粘土のようにして遊びながら作品を創る。最近ではボードやキャンバスに、クレヨンにポスターカラーを加え着色した面をニードルで削るといったように、制作方法にも幅がでてきている。

極めてユニークなのは、削りカスを集めてできたかたまりの方こそが本人にとって「本当の作品」であること。通称「コロイチ」。希望の園のアトリエには、岡部さんがこれまでに生み出した渾身の「コロイチ」たちがごろごろとプラスチック容器の中に入れられ、大事に保管されている。ゆえに、絵画は彼にとって結果的に生まれた「ただの削り残したカス」であり、それに対する興味や執着は一切ないというのだから面白い。

実は、岡部さんの作品の「天地」が明確に決まっていない。彼にとって絵画は副産物に過ぎず、従来のアートであればあって当然な「正しい作品展示の向き」が存在しないのだ。その点においても岡部さんの作品は「アート」という概念が持つ既存の定義や常識を思いっきりはみ出しているといえる。

そんな岡部さんの縦横無尽な原画作品は、昨年の夏、私たちヘラルボニーが東京・六本木で開催した“違うこと”の価値を問う展覧会「The Colours!」(※会期:2022年7月16日から8月7日、現在は終了)で展示され、昨年のクリスマスには東京・銀座にあるライフスタイルホテルのクリスマスツリーを岡部さんの「Hoo!Hey!」が彩り、真の作品である「コロイチ」も同空間に展示された。(※期間:2022年12月1日から12月25日、現在は終了)

意味を与えることは簡単だが、意味を与えることで簡単に世界は構造化されてしまう。
だからこそ、意味が多すぎるこの時代に「分からない」をていねいに届けたい。

プロフィール

岡部 志士(おかべ・ゆきひと)
まつさかチャレンジドプレイス希望の園(三重県)在籍。1994年生まれ。自閉症。

【主な発表歴】
2013年 第60回伊勢市美術展覧会洋画部門奨励賞 受賞


プロフィール

松田 文登(まつだ・ふみと)

株式会社ヘラルボニー代表取締役副社長。チーフ・オペレーティング・オフィサー。大手ゼネコンで被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共に、へラルボニー設立。自社事業の実行計画及び営業を統括するヘラルボニーのマネージメント担当。岩手在住。双子の兄。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。日本オープンイノベーション大賞「環境大臣賞」受賞。

 


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