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わかばなかま

支援団体の活動リポート

就労支援センター未来工房「震災を機に宅配弁当を始めました!」

福島県いわき市にある「就労支援センター未来工房」は、障害のある人たちの作業所です。東日本大震災が発生する前までは、農作業を中心に活動していました。
しかし、原発事故の影響によって農作業だけではやっていけなくなり、急きょお弁当の製造・販売事業を立ち上げました。
第23回「わかば基金」の支援金で購入した配送用の車両で、毎日市内にお弁当を配達しています。 画像:弁当をおかずを盛り付けるメンバーたち

もともとは農業中心だった作業所

平成21年8月、今野 隆さんらは障害のある人たちに就労や生産活動の機会を提供する場を作ろうと、「特定非営利活動法人みどりの杜福祉会」を設立し、翌22年4月に「未来工房」を開所しました。
理事長をつとめる今野さんは、法人設立の数年前、引きこもりがちだった知的障害のある家族の気晴らしになればと、一緒に農地を開墾して農作業を始めました。しだいに、本人がいきいきとした表情を取り戻し、健康状態もよくなったことから、同じような人たちと活動できたらと考えたのが設立の発端だそうです。
画像:震災前の広野町の農園 開所以来「未来工房」では、知的障害や精神障害のある人たち約20人とスタッフが一緒になって、野菜を栽培・収穫して地元のスーパーに卸したり、ジャムやピクルスなどの加工品を作って販売してきました。農園はいわき市とその周辺に5か所あり、なかでも広野町にある農園では、今野さんらが開所前から始めていたブドウ栽培が3年目を迎え、いよいよ本格的に収穫できそうだという期待が高まっていました。

しかし、昨年3月11日に発生した東日本大震災で、状況は一変しました。
いわき市は震度6弱を観測、沿岸部を中心に死者・行方不明者の数は合わせて350人近くにのぼりました[平成24年2月28日現在]。
「未来工房」では人や建物の被害はありませんでしたが、福島第一原発から約20キロのところにある広野町の農園は、立ち入ることができなくなってしまいました。また、原発事故の影響で多くのメンバーが避難し、断水も続いたため、活動の一時休止を余儀なくされました。
再開をのぞむ声が多く寄せられる一方で、放射能の影響を心配して屋外での活動に不安をもつ声も出て来ました。農作物への風評被害が起きたり、納品先が被災するなど、農作業だけで活動していくことは厳しくなったため、「未来工房」は、将来の目標だった弁当の製造・販売事業を急きょ立ち上げることにしたのです。

弁当の製造・配達に活路を見いだす

画像:お店正面

4月1日、震災から3週間後、今野さんたちスタッフは、店舗の準備、メニュー考案、調理員の確保と、急ピッチで開店の準備を始めました。避難先から9割方戻ってきていた障害のあるメンバーは弁当の盛り付けを担当することになり、知り合いの店で復興関係者用の食事作りを手伝いながら“修業”をしたそうです。
開店にあたって最大のネックになったのが、配達用の車両でした。いわき市は日本でも有数の面積を持つ大きな市で、移動には車が欠かせません。「未来工房」にも、メンバーの送迎や農作物の運搬用の車両がありましたが、市内各所からの注文に応じるためには専用の車両が必要だと考えて、第23回「わかば基金」に申請し、上限額の100万円の支援が決まりました。

画像:盛り付けするメンバーたち そして6月2日、2か月の準備期間を経て、弁当製造・販売の店「未来キッチン」が開店しました。
朝早くから調理スタッフが作った料理を、障害のあるメンバーが弁当の容器に盛り付けます。ご飯を計量してよそい、数を間違えないようにおかずを詰め、箸とインスタントの味噌汁を添えて完成です。
「彩りや盛り付ける向きに注意したり、時間を気にしなければならないので、弁当作りは農作業よりも気疲れします。でも、いろいろ考える楽しさがあってやりがいがあります」。メンバーの1人のKさんが、新たな活動の感想を教えてくれました。
画像:配達するメンバーたち 画像:「わかば基金」で支援した配送用の車輛 弁当が作り終わるといよいよ配達です。配達ルートごとに仕分けした弁当を車両に積み込みます。10時過ぎからお昼までの2時間弱の間に、すべての弁当を配達しなければなりません。
震災後、道路にデコボコができたり、復興関係車両の通行で国道が渋滞しやすくなったため、以前より移動に時間がかかることもあります。「わかば基金」の支援により配達用の車両を購入できたことで、そうした道路事情のなかでも配達エリアを拡大することができました。配達の合間には、近くの住宅や施設に献立表を配布する営業活動にも力を入れています。

画像:未来キッチンのお弁当 現在では、病院や保育園などを中心に弁当の注文があり、1日100個近くを作る日も出てきました。営業活動が功を奏して、新規の注文が舞い込んでくることもあります。
毎日のように利用しているという保健所の職員は、「未来キッチンのお弁当は、主菜だけでなく副菜もボリュームがあって美味しいです。メニューが豊富で、自分が作る料理の参考にもなります」と話してくれました。

農園再開を願いつつ、今できることにまい進する

広野町の農園が再開できるかどうかという見通しは、今のところ立っていません。
「将来はワインを作ろうって話していたんですが…どうなるでしょうかね」と今野さん。
それでも「未来工房」は前に進みます。高齢者などを対象にした夕食用の弁当作りを始めたい、自家栽培の野菜をふんだんに使った弁当を作りたい、弁当以外の加工品のレパートリーも増やしたい…。震災を機に始めた「未来キッチン」をベースに活動の幅を広げていこうと模索中です。
道は平たんではありませんが、未来に向かってしっかりと歩み続けています。

(2012年3月7日記)

特定非営利活動法人みどりの杜福祉会「未来工房」は、第23回(平成23年度)第1部門の支援グループです。
連絡先や活動内容については、「未来工房」のホームページをご覧ください。