網走市手をつなぐ育成会「子どもたちはパソコンが得意。楽しんで作業できます」
「網走市手をつなぐ育成会」は、知的障害のある人とその家族の会です。会員同士の情報交換を行ったり、学習会を開くことを主な活動にしています。
2008年度のわかば基金で、リサイクルパソコン2台の寄贈を受けました。
最近、特に力を入れているのが、親や子どもが参加できるイベントです。「子どもたちに生きがいを持って、日々を過ごしてほしい」という願いを込めて開催されるイベントの様子を取材しました。
パソコンが、クッキー作りに大活躍
「網走市手をつなぐ育成会」は、北海道網走市で昭和53年から活動をしている、知的障害のある人たちとその家族の会です。親同士の交流や情報交換のかたわら、「子どもたちに生きがいをもって日々を過ごしてほしい」という思いから、水泳やマラソン、ハイキング、山登り、よさこいなどをするチームを作って、みんなが楽しめる活動をしています。
中でも力を入れているのが、パンやクッキーの製造・販売です。現在は月に2回、工房を借りて定期的に活動を行っています。メンバーは知的障害のある青年たち。親やボランティアと一緒に、地元産の小麦粉やでんぷんを使うことにこだわり、なるべく砂糖や油を使わない「身体に優しくおいしい」製品づくりを心がけています。出来上がった製品は地域の振興局や地元で開催されるイベントなどで販売していますが、毎回大人気で、すぐに売り切れてしまうそうです。製品には商品名と原材料や成分表示のシールが貼ってあります。このシール作りに、わかば基金でもらったパソコンを活用しています。
「育成会」では、製品を作る数日前に、材料、分量、作業手順などを記した「レシピ」を参加者にファックスやメールで送っています。事前に作り方の手順が分かることで、メンバーが混乱することが少なくなり、スムーズに作業が進むのだそうです。このレシピは、パン作りを担当する親が手書きしたものを、メンバーがパソコンを使って作っています。パソコンは、このレシピ作りにも活用されています。
パソコンに愛着をもってもらうために、名前を付けました
「育成会」の皆さんが「わかば基金」のリサイクルパソコンの部に申請をしたのは、会員の子どもたちのパソコン利用を進めたいという思いからでした。会員の中にはパソコン操作が得意な人が多く、経験を積むことができれば就労にも結び付けられると考えたそうです。
支援が決定したとき、事務局長の小西 栄理さんは、子どもたちに愛着をもってパソコンを使ってもらいたいと考えました。そこで思いついたのがパソコンに名前を付けることでした。事務所に届いたパソコンを見て、「黒くて、ちょっと重量感がある感じが、パンダっぽいなと思ったんです」という小西さん。そこで日本に初めて来たパンダの名前にあやかり、「ランラン」「カンカン」と命名しました。
このパソコンは、普段は育成会の事務所で使っていますが、子どもたちが家に持ち帰ることができるように、持ち運び用の布の袋も作りました。パンダのアップリケを施したかわいらしいデザインが人気だそうです。
パソコンで看板づくり
取材で訪れた日は、翌日に開催される本人会「モヨロの風」のボウリング大会の準備をしていました。「本人会」とは、障害のある人たちが主体的に行っていく活動です。モヨロという名前は、網走市にあるモヨロ貝塚からとったそうです。
午後5時を過ぎたころから、仕事を終えたメンバーの皆さんが集まり始めました。事務局長の小西 栄理さんと息子の貴彦さん(23)が一番乗りです。自閉症の貴彦さんは、日中は作業所で空き缶の選別の仕事をしています。パソコンが得意で、パン作りのレシピ作りも担当しています。
次に来たのは、自閉症の渡部 正平さん(23)とお母さん。正平さんもパソコンが得意です。正平さんは一般就労で、車の清掃の仕事をしています。
続いて、ダウン症の靖乃さん(23)とお母さんが到着。靖乃さんは、町営温泉の清掃や受け付けの業務についています。
3人のメンバーが集まり、作業開始です。ボウリング大会の看板は、お絵描き用のフリーソフトを使って作成します。ソフトは子ども向けのものを使用していて、コマンドはひらがなで書いてあります。自由に書きたいときには「ふで」を選択して、マウスで形を描いていきます。四角や丸などをきれいに描きたいときには、「かたち」のコマンドを選択して、形を選びます。また、「ケシごむ」コマンドでやり直したいところを消していくと、キュキュと実際に消しゴムで消しているような効果音が出るなど、楽しんで絵を描くことができます。
メンバーは皆、夢中になって作業に取り組みます。分からないことがあるとお母さんたちに助けをもとめるときもありましたが、あっという間に楽しい看板が出来上がりました。
パソコンを使って、仲間作りを
「育成会」では、2台のリサイクルパソコンを新たな仲間作りに活用することも考えています。広い北海道では、それぞれの地域の育成会同士が交流する機会はなかなかありません。また、過疎で困っている地域や孤立している家族も多いそうで、パソコンを使ってそういう人たちとつながっていけたらと考えているのだそうです。
代表理事の阿部 有市さんは「パソコンがあれば、遠くにいる人たちとの交流や情報交換が簡単にできます。網走市近辺だけでなく、いろいろな地域の人や育成会の人たちと交流していきたいです。そのために、このパソコンでメンバーのみんなに操作を覚えてもらって、日常のことをブログなどで発信していってほしいです。子どもたちはパソコンにすごく興味を持っているので、楽しんでやってくれると思います」と、今後の展望を語ってくれました。
(2011年9月29日記)
特定非営利活動法人網走市手をつなぐ育成会は、第20回(2008年度)第2部門の支援グループです。
連絡先や活動内容については、網走市手をつなぐ育成会のブログをご覧ください。