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わかばなかま

支援団体の活動リポート

夢ネット大船渡「ふだんの活動で培ったネットワークが、震災の復興支援活動にも役立っています」

岩手県大船渡市にある「夢ネット大船渡」は、地元の市民活動の情報紙の発行や活動団体の調査などを通して市民活動の支援を行ったり、障害者や高齢者のパソコン教室を開催しているNPO法人です。
平成21年度に「わかば基金」のリサイクルパソコンの寄贈を受けて、毎週障害者施設でパソコンの指導をしていましたが、3月11日に発生した東日本大震災以降は、被災した会員自身が家屋の片付けや手伝いに追われ、活動がままならなくなっていました。
震災から約4か月ぶりに再開したパソコン教室を取材するとともに、復興にむけた新たな取り組みについて話を聞きました。 画像:震災後はじめてのパソコン教室

自分の地域を元気にしたい

画像:ホラ吹き大会の模様

「夢ネット大船渡」は、大船渡地方振興局主催の市民活動講座の受講生らが中心となって、「ホラふき大会」というイベントの企画をきっかけに活動を始めました。このイベントは、“ホラ”という発想から地域おこしのアイディアを見つけよう、地域の人に大いに笑って楽しんでもらおうと、実行委員会形式で何年か開催しましたが、「ホラふき大会だけでは信頼性がない。地域のためになる活動もやろう」と、平成18年8月に「夢ネット大船渡」を立ち上げました。

画像:夢ネット発行の情報紙

発足当初から、行政と地域の間にたって市民活動を支援する“中間支援組織”として、さまざまな活動を行ってきました。気仙地域(大船渡市、陸前高田市、住田町)の市民活動の情報紙を発行したり、市民活動を啓発するフォーラムを開催するなど、行政等からの委託・助成事業をなどに積極的に取り組んでいます。
独自に行っている活動の一つに、知的障害者へのパソコン指導があります。情報弱者になりがちな障害者の役に立てればと、障害者施設に支援を申し出て、平成20年からパソコン操作の指導を始めました。しかし当初、利用できるパソコンはわずか2台。時間を決めて交代で使うしかありませんでした。そこで、第21回(平成21年度)「わかば基金」リサイクルパソコンの部門に申請し、3台の支援が決定しました。現在では、知的障害者への指導に加え、高齢者向けのパソコン教室も開催して活用しています。

平時の生活に向けて パソコン教室再開

画像:被災地の状況

3月11日に発生した東日本大震災で大船渡市は大きな被害を受けました。死者は325人、3629戸の家屋が全壊・半壊しました[平成23年7月8日現在]。
「夢ネット大船渡」の会員は全員無事でしたが、自宅の修理や親戚の手伝いをしなければならなかったり、移動や連絡が困難になるなど、通常の活動ができる状態ではなくなってしまい、知的障害者へのパソコン指導も当面の間中止せざるをえませんでした。

画像:パソコン教室の模様

しかし、震災から4か月近く経った7月6日、受講生からの「早くパソコンをしたい」という声に応えて、ようやく再開することができました。
パソコン指導を行う障害者施設では建物の被害はなく、利用者も、保管していたリサイクルパソコンも無事でした。とはいえ、受講生のなかには家が損壊したり、仮設住宅で暮らすことになった人もいます。「大丈夫だったか」「家はどうした?」と再会を喜びあった後、パソコン教室が始まりました。
この日の学習内容は、大船渡市のあちこちでみかける市の花“椿”をあしらった、復興のシンボルマークをパソコンで作ってみようというもの。  進行役の西村さんが「この図形を作るときは…コピーして貼り付ける…前にやったよな?覚えてるか?」と、受講生の進み具合を見ながらゆっくり進めて行きます。久々のパソコン操作で多少時間はかかりましたが、受講生はさまざまな機能を使いながらマークづくりに取り組んでいました。

画像:熱心にパソコンに取り組む受講生たち

「パソコンは家にもあります。でも、今は使えません。パソコンができてうれしいです」。受講生の一人はこう話し、熱心に画面に向かっていました。

「みんな4か月ぶりとは感じないほどスムーズに操作しているので感心しました。毎週やっていた成果ですかね。この教室はパソコンの操作を覚えるだけでなく、受講生にとっては職員以外の人と接する機会でもあり、いい刺激になっているんです。毎週、夢ネットの方が楽しく学習できるように学習内容を考えてきてくれるので、みんなパソコン教室の再開を待ち望んでいました。この再開で、また一歩震災前に戻ることができたと感じています」と、障害者施設の所長さんが教えてくれました。

震災発生 中間支援組織としての本領発揮

画像:気仙市民復興連絡会の事務所

会員が被災した、移動が難しい、活動の場所がなくなった…気仙地域で通常の活動ができなくなった団体は、「夢ネット大船渡」ばかりではありませんでした。人が少なくても、同じような状況の団体が集まれば大きな力になる――そんな共通の思いをもった人々が集まって、地域に根ざした長期的な復興支援活動を行おうと、震災発生から約1か月後の4月5日、気仙地域の8つの市民団体による「気仙市民復興連絡会」が発足しました。

画像:復興支援のひとつ、避難所での炊き出し

「夢ネット大船渡」は、被災地救援や地域ネットワークの構築の実績があるNPO法人「愛知ネット」の支援を受けて、この事務局を担当しています。4月以降、構成団体との連絡調整、復興ニュースの発行、炊き出しや津波で流出した写真の整理などの活動にあたってきました。
「活動内容や考え方の異なる団体の集まりなので戸惑うことも正直ありますし、それぞれがやっていた活動も少しずつ再開しているので、連絡会として復興支援活動をどのように行っていくかは今後の課題です。でも同じ地域の住民同士、できることを力をあわせてやっていきたいです」と、「夢ネット大船渡」理事長で「気仙市民復興連絡会」の会長をつとめる岩城恭治さんは話してくれました。

大船渡には、今も津波によって流失した家屋や漂着物が山積みになっている地区があり、県内外からの支援活動も続いています。一方で、被害の少なかった地区では、震災前に行っていた活動や催しを再開するなど、日常を取り戻しつつあります。
震災前の活動も、震災後の復興支援活動も、根底にあるのは、自分たちの地域をよくしたいという思い。「できること、やりたいことをやっているだけ」と言いながら、「夢ネット大船渡」は地域のために奔走しています。

(2011年7月22日記)

特定非営利活動法人「夢ネット大船渡」は、第21回(平成21年度)第2部門の支援グループです。
連絡先や活動内容については、「夢ネット大船渡」のホームページをご覧ください。