ボラ仲間の活動リポート
イザ!カエルキャラバン!
自治体や町内会などで開催されている防災訓練に参加したことはありますか?
東日本大震災が発生して以来、防災への意識は高まっています。しかし、防災訓練をしても、参加者が同じような顔ぶれだったり、若い世代の参加率が低いなどの課題が、各地で聞かれます。
そうしたなか、NPO法人プラス・アーツは、若いファミリー層に参加してもらおうと、防災訓練プログラム「イザ!カエルキャラバン!」を企画し、全国各地で開催しています。
体験型防災プログラム + おもちゃの交換会 = 魅力ある防災訓練
「イザ!カエルキャラバン!」は、小さな子どもや若い親子が参加したくなるような防災プログラムを組み合わせた、楽しみながら災害時に必要になる「技」や「知識」を学べる防災訓練です。
大阪でアートイベントやまちづくりをプロデュースする個人事務所を構える永田宏和さん(現プラス・アーツ理事長)と学生たちが、阪神・淡路大震災の被災者から聞き取りをしたり、文集などから情報を集めて、体験型の防災プログラムを開発しました。子どもたちが楽しみながら学べるように、カエルのキャラクターを登場させたり、ゲームを取り入れたりしています。
この防災プログラムと、美術家の藤浩志さんが考案した「かえっこバザール」という、おもちゃの物々交換プログラムを組み合わせた防災訓練が「イザ!カエルキャラバン!」です。
阪神・淡路大震災発生から10年目の2005年に「神戸カエルキャラバン2005」を神戸で初めて開催したところ、親子連れを中心に3000人以上が訪れました。
当時学生スタッフだったプラス・アーツ事務局の百田さんは、防災プログラムの開発に関わった動機を次のように語ります。
「阪神・淡路大震災のときは中学生でした。神戸ではありませんが、とても強い揺れを感じたことを覚えています。当時子どもだった自分たちの経験や被災体験者の方からお聞きした思いを、震災後に生まれた子どもたちに伝えたい、伝えなければいけない、という強い思いがありました」
神戸での開催が終わった2006年、「カエルキャラバン」を作りだした、まちづくり、建築、アートといった分野の人たちが、社会の既存の分野にアート的な発想や創造力を加えて幅を広げたり活性化させる活動を展開していこうと、プラス・アーツ(+arts)を設立しました。
「イザ!カエルキャラバン!」の魅力にせまる!
3月に東京都清瀬市で行われた「イザ!カエルキャラバン!in東京」をのぞいてみました。<主催:東京都、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)、特定非営利活動法人プラス・アーツ>
参加者が「かえっこバザール」に参加するためには、「カエルポイント」が必要です。家から使わなくなったおもちゃを持参すると、「カエルポイント」に換えてもらえます。
このポイントで、欲しいおもちゃを手に入れたり、人気の高いおもちゃのオークションに参加できるしくみです。
「カエルポイント」は、防災プログラムに参加してももらえます。おもちゃを持ってきていなかったり、交換ポイントが足りない人も楽しめて、防災訓練に興味がない人も防災プログラムに参加したくなる。そうした仕組みになっています。
この日の防災プログラムは、「毛布で担架タイムトライアル」「ジャッキアップゲーム」「歩いてふれて体験しよう」「煙体験」など。
「毛布で担架タイムトライアル」は、災害時に負傷者を運ぶ訓練です。単に速さを競うものではありません。スタッフはどうやったら持ちあげやすいかを解説し、参加者はカエルの人形を負傷者に見立てて、教わった方法で速く静かに運びます。参加した親子は「毛布の端を丸めてもつだけで全然持ちやすさが違いました。実際に体験しないと分からないことですね」と話していました。
「ジャッキアップゲーム」では、重いものを持ち上げる「ジャッキ」の使い方を学ぶことができます。
以前はジャッキを使って風船を割る早さを競うゲームでしたが、「救出」という本来の目的に沿うように、机の下敷きになったカエルの人形を救出するというゲームに改良したそうです。各地で開催を重ねながら、プログラムの開発・改良にも取り組んでいます。
「歩いてふれて体験しよう」は、この清瀬でのイベントの独自プログラム。
アイマスクをつけ白杖を持って歩行体験をしたり、身振り手ぶりで離れた相手に情報を伝えたりと、災害時に見えない人や聞こえない人が情報を得ることの大変さを体験しました。
締めくくりは「オークション」です。参加者から持ち寄られた人気のおもちゃがオークションにかけられ、多くの参加者で盛り上がりました。
おもちゃを競り落としたお母さんに参加の動機を聞きました。
「チラシを見た息子が自分から行きたいと言い、ちょうど震災から1年になるので参加しました。防災訓練だけでなく、おもちゃやアクセサリーの交換があるとチラシに書いてあったので、5年生のお姉ちゃんも興味をひかれたみたいです。こういう防災訓練なら参加してみようかな、って思わせるイベントですね」。
大事なのは、地域で続けられる防災訓練プログラムであること
2006年に「イザ!カエルキャラバン!」と名称を改めてから、開催場所は神戸から全国各地へ広がって、2011年度までに15都道府県で120回以上開催されています。インドネシアやモンゴルなど、海外でもカエルキャラバンの防災プログラムを応用した防災訓練が行われているそうです。
「イザ!カエルキャラバン!」を各地で運営するのは、プラス・アーツと地元の団体(社会福祉協議会や町内会、PTAなど)です。プラス・アーツが事前の講習会を行って、プログラムの目的や進め方を地元の団体に伝授します。
各地での開催にあたっては、それぞれの地域の課題や思いが取り入れられます。沿岸地域では子どもたちが作った津波避難マップの展示をしたり、別の地域では災害時の寒さや暗さを体験するためにあえて夕方に開催したり。今回清瀬で行われた「歩いてふれて体験しよう」は、災害時に必要な情報をなかなか得られない、障害のある人たちについて知ってもらいたいという、清瀬市社会福祉協議会の意見から企画されたものです。
「一度開催した地域に対しては、2回目以降のプラス・アーツの関わりはアドバイス程度です。スタッフが少ないので、いい意味で開催地に任せないとやっていけないというのもありますが、開催地域の人によって、その地域にあった防災訓練を継続して開催してもらえればいいと思っています」。
一度きりのイベントでなく、その後この防災訓練が地域に定着していくことが大切だと、百田さんは強調します。
清瀬市の場合、清瀬市社会福祉協議会の呼びかけで集まった約60人のボランティアが当日の運営を支えていました。
「今回は、参加したボランティアさんにとっても、防災について考えるいい機会になったのではないかと思います。年齢もさまざまで、それぞれふだんは異なる活動をしているボランティアさんたちに、何らかのつながりができることも意味があるのではないかと思っています」と、清瀬市社会福祉協議会職員の浜崎さんは話してくれました。
東日本大震災では、人のきずなや地域のつながりが改めて見直されました。多くのボランティアや来場者が関わることで、地域の中にそれまでになかったつながりができることも、「イザ!カエルキャラバン!」というプログラムの魅力のひとつと言えそうです。
「イザ!カエルキャラバン!」をやってみたいという問合せは、最近ではマンションの管理組合などからもきているそうです。今後みなさんの住む地域でも行われるかもしれません。
家族連れで防災プログラムを体験するもよし、ボランティアとして地域の防災を考えるもよし。
まずはできることからはじめてみませんか?
2012年4月25日掲載 取材: text/田口 photo/福田